1. 聖路加国際大学 ― 大学院生がタンザニアで母子保健を支援!JICAとの連携によるボランティア事業 ― ~後編~

社会貢献ジャーナル

聖路加国際大学 ― 大学院生がタンザニアで母子保健を支援!
JICAとの連携によるボランティア事業 ― ~後編~

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対照的な二つの派遣先。1期生は国立病院で奮闘!

バガモヨ県立看護学校の学生さんたちと臨地でのデモンストレーションバガモヨ県立看護学校の学生さんたちと臨地でのデモンストレーション
バガモヨ県立看護学校の学生たちとの交流会にてバガモヨ県立看護学校の学生たちとの交流会にて
低出生体重児と現地の看護師ユニフォームの多田さん低出生体重児と現地の看護師ユニフォームの多田さん

聖路加国際大学がJICAとおこなっている「タンザニア連合共和国母子保健支援ボランティア連携事業」の派遣先は二つある。一つは、ムヒンビリ健康科学大に併設されているムヒンビリ国立病院だ。首都ダルエスサラームにあり、タンザニアでは大規模かつトップクラスの病院で、タンザニアの医療の推進役を担っている。

もう一つの派遣先は、ダルエスサラームから車で2時間程度のところにあるバガモヨ地域。同地域の母親や子どもたちへの教育が主な活動で、思春期の子どもたちに若年妊娠のリスクや感染症予防の教育をするほか、バガモヨ県立病院で看護教育補助に当たる。

タンザニアの母子保健についての指標は悪く、出生直後に赤ちゃんや妊産婦が亡くなってしまうケースは多々あるという。
「日本では一つのベッドに赤ちゃんは一人ずつ寝ているのがあたり前ですが、現地では一つのベッドにふたりの赤ちゃんが寝ていたり、手洗いの設備が施設の中にも不十分だったりと衛生面での課題が山積しています。」と堀内先生。

そうした環境のなかで、ムヒンビリ国立病院で奮闘しているのが1期生の多田恭子さんだ。4年間の小児科看護師の経験を持ち、帰国子女であることから語学にも強く、アメリカ在住時代には国連の仕事を見学するなど、国際貢献にもともと強い興味を持っていた人物である。

院内の整理整頓から始まった改善活動

多田さんがまず取り組んだのは、“5-S”の徹底だった。5-Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字を取ったもので、英語やスワヒリ語でもSで始まる言葉に訳されている。ムヒンビリ国立病院は、JICAが推進する5-S改善のモデル病院にもなっており、ラベルを付けてカルテを整頓する、薬剤の置き方を整理する、注射に使うシリンジもサイズごとに並べるなど、基本的なことから取り組んでいった。

半年が経過したころ、5-S改善の課題や改善結果について、多田さんは同院の看護部長とマネジャーに対してプレゼンを実施。これまでそのようなフィードバックをしてくれるボランティアはいなかったことから、現場や看護師の実情を知った看護部長はそのプレゼンにいたく感心し、改めて全員集会のなかで発表する機会を多田さんにあたえるなど、新福先生も「短期間のうちに信頼を得て、病院改善のキーパーソンになりつつある」と感じていたと語る。

ムヒンビリ国立病院内にて、多田さんの活動報告会ムヒンビリ国立病院内にて、多田さんの活動報告会

また、現地の看護師のモチベーションを上げるために、これまでに入院中の子どもたちに看護師にちゃんとお礼を言うことを教えてきた。多田さんは「Thank Youカード」なるものを作って子どもたちに配布することを計画中。よいケアをしてくれた看護師に子どもたちがそのカードをプレゼントし、カードが貯まった看護師を表彰するような取り組みである。そのようなことから現地の看護師からも慕われており、彼らは多田さんの誕生日にサプライズのバースデーパーティーを開催。多田さんの現地ネームが「Furaha」(フラハ=スワヒリ語でハッピーの意味)ということで、“Furaha Happy Birthday”と書いたケーキで祝ってくれたという。

ボランティアと研究の両面から現地に貢献

低出生体重児にカップ授乳する多田さん低出生体重児にカップ授乳する多田さん
子どもたちへの給食サービスボランティアにて子どもたちへの給食サービスボランティアにて
バガモヨ県立看護学校の学生たちとバガモヨ県立看護学校の学生たちと
タンザニアのお土産「ティンガティンガ」のプレートを持つ新福先生(左)と堀内先生(右)タンザニアのお土産「ティンガティンガ」のプレートを持つ新福先生(左)と堀内先生(右)

一方、多田さんが研究テーマに選んだのは、栄養失調の問題。タンザニアでは、いまだ栄養失調が原因で亡くなる乳幼児が多く、現地の母親に向けた教育プログラムを作ろうと取り組んでいる。
「看護師さんがお母さんに対して簡単に教えられる汎用性の高いツールを考えているようです。日本ではあたり前とされる母乳育児に関しての基本的な知識をはじめ、乳幼児に必要な栄養や、栄養失調の予防策を伝える試みをおこなっています」(新福先生)

ちなみにタンザニアには母子手帳はなく、画用紙を折ったような簡単なカードが配布されるだけだという。身長、体重、予防接種などを記録するだけのツールで、必要な情報量が少なく、これだけでは栄養失調を防ぐには不十分だという。

大学とJICAの連携で生まれた本事業のメリットは、一過性のボランティアに止まらず、将来につながる研究成果が生まれることだろう。JOCVの活動の成果を、研究によって正しく評価することにより、よりよい方向に改善ができることができるのだ。

「本事業も1期生を派遣したばかりで、成果が生まれるのはこれからですが、JICAのほうからもぜひ研究成果を共有させてほしいという要請があり、期待されているようです。今後もJICAとよりよい関係を保っていきたいと考えています」(新福先生)

また、本事業が始まってから、聖路加国際大学大学院内において、一般の学生が以前に増して海外に興味を持つようになったという。「タンザニアへの短期派遣プログラムの希望者も増えており、短期派遣プログラムに参加した多田さんと同級生である大学院生と長期派遣の多田さんが再会し、お互いに違った視点をぶつけ合うなど、いい相乗効果が生まれています」と、成果の一端を明かすほか、多田さん自身についても「行く前から希望ややる気にはあふれていたのですが、具体的なものではありませんでした。それが、今では“自分はこの病院の一員なんだ”という当事者意識に変わってきたのです。それからは、手指衛生の改善プランを提案するなど、現場を変えていく力が身についてきたなとすごく感じるようになりました」と、新福先生は成長ぶりに目を細める。

3年のカリキュラム修了後の進路については、「多田さん本人は進路についてはこれから考えるようですが、修士号が取れるのでチャンスは大きく広がります。研究を続けたければ博士後期課程に進むこともできますし、看護大学の教員となって後輩を育てる道もあります。もっと現場で働きたいと思えば、JICAや国際機関で働く道も開け、活躍の場はグローバルに広がります」と、堀内、新福両先生は本事業の1期生の行く末を期待とともに見守っている。

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