1. HANDS ― 黒子に徹して保健の仕組みづくりを進め、いのちの格差をなくす活動 ― ~後編~

社会貢献ジャーナル

HANDS ― 黒子に徹して保健の仕組みづくりを進め、
いのちの格差をなくす活動 ― ~後編~

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パプアニューギニアの女性の健康向上のために

ヘルスセンターで、アセスメント調査をおこなう寺田プロジェクト・マネジャーヘルスセンターで、アセスメント調査をおこなう寺田プロジェクト・マネジャー
村落保健ボランティア研修のランチタイム村落保健ボランティア研修のランチタイム

特定非営利活動法人HANDS(Health and Development Service、以下HANDS)は2014年7月から、パプアニューギニアにて女性のための地域保健改善事業をスタートさせた。プロジェクト・マネジャーとして日本と現地を行き来して事業を進めているのは寺田美和さん。12年にHANDSに入職した寺田さんだが、それ以前からパプアニューギニアには縁があったという。

「大学生の時に国際協力や開発の仕事がしたいと考えていて、NGOのスタディツアーに参加しました。その行き先がパプアニューギニアだったのです。夏休みの3週間のボランティアで学校のフェンスを作ったり、寮のペンキを塗ったりしました。そこで、何時間もかけて歩いて病院に通うお母さんや赤ちゃんを見て、この国はいったいどうなっているのだろう、と疑問を持ったのが始まりです。噂では女性の立場がすごく弱くて性犯罪が多いということは聞いていましたが、その厳しい現状も実感しました」

寺田さんは帰国して再度スタディツアーに参加し、大学を卒業してからは2年半のボランティア活動に身を投じる。パプアニューギニアのシンブー州という山岳地域で、現地の高等専門学校の女子寮に入り、衛生の指導やパソコンの授業などを行った。そこでもやはり性犯罪の多さを目の当たりにし、医療に関することや被害者の方に直接触れられる活動がしたいと考えるようになる。

「次は海沿いのマダン州の看護学校に3年間留学して看護師の資格を取り、現地の病院で働きました。でもやがて現地のスタッフの一人として働くのではなくて、日本人だからできることがあるはずと考えるようになりました。そこで一旦日本に戻り日本の病院に勤務して、日本の出産に関する保健医療サービスの仕組みについて勉強しました」
しかしパプアニューギニアへの熱意は冷めず、支援に携わりたいと思い、当時大洋州での事業を行っていたHANDSに出会うことになる。入職後しばらくはケニア事業の調整員をしていたが、新規事業立ち上げの機会が訪れた際、真っ先に手を挙げた。

機能していなかった政府のシステムを改善

農作業を終えて戻る農村の女性たち農作業を終えて戻る農村の女性たち

パプアニューギニアの事業が行われているのは、国内で最も平均標高が高いエンガ州。険しい山々や深い渓谷が多く、移動が大変な場所だ。もともと社会インフラが整っていない地域でもあり、村は電気も水道もガスもない所で、水を川で汲んできて、薪を割って生活をしている人がほとんどだという。

そして男性中心の社会で女性は弱い立場にあり、お産で亡くなる女性が多い地域でもある。その背景には、医療施設そのものが遠く道も悪いため診療が受けにくいこと、女性から医療サービスを遠ざける風習が残っていること、安全なお産に必要な情報などが届きにくいこと、などの要因がある。

当地ではもともと、診療所が遠い人たちに予防接種や簡単な診療などの保健医療サービスを毎月届けるモバイルクリニックの制度が敷かれているが、診療所から車で1、2時間かかることも多く、地域によっては歩いて3時間ほどかかることもある状況だ。つまり、このシステム自体がうまく機能していなかったという。
「車両がなかったり、ガソリンがなかったり、人が足りなかったりして、うまく機能していませんでした。このモバイルクリニックの仕組みを整えることが最初の仕事のひとつです」(寺田さん)

地道な活動で保健医療の仕組みづくり

モバイルクリニックで健診をおこなう診療所スタッフモバイルクリニックで健診をおこなう診療所スタッフ

事業のパートナーはエンガ州の保健局で、職員たちとのやり取りが寺田さんの主な仕事となる。
まずは、「どうして毎月できないのだろう?」という話から会議は始まった。正確な記録がなかったため、訪れるべき12カ所のサイトで、何月にここには行った、ここは行かなかった、ということを聞きとり、実施状況を把握した。そして、「行けなかったのはどうしてだろう?」と調べてみると、大体は車両やガソリン、人員不足が原因であった。

「ガソリンがなかったとすると、なぜガソリンがなかったのか? 年間の予算を先に使ってしまったから…。じゃあそれはどうして? 予算配分はどのようにしていて、誰がその管理をしているのか…」と地道なやりとりを繰り返す。
「指導というよりは、一緒に答えを探していく感じです。細かいところを突っついていくのが私の仕事」と寺田さんは笑うが、ただ物や技術を与えるだけの支援ではない、保健医療の仕組みづくりを大切にするHANDSを象徴するようなエピソードだ。

もう一つ、HANDSに特徴的な人づくりという面では、現地スタッフとして採用したメックさんの活躍が大きな成果につながっている。
メックさんはヘルスセンターの看護師でモバイルクリニックの担当だが、エンガ州保健局と事業を進めるうえでテクニカルアシスタントとして活動を支えてもらっている。
「彼は普段は看護師さんなのですが、コミュニティの健康を向上させたいというすごく強い思いを持っていて、HANDSの事業が始まる12年前に自らの手でボランティアの育成を始めようとした経歴があるのです」(寺田さん)
現在の活動でも、メックさんが中心となって保健ボランティアの育成に取り組んでいる。

黒子に徹するHANDSの活動

「パプアニューギニアの事業は活動を始めてまだ1年と少しなので、まだ具体的な成果は見えません。ただ、すごく人材に恵まれていて、行政の協力もあって順調に進んでいます」と寺田さんは強調する。

「やはり日本の団体が援助として入ると聞くと、何をしてくれるの? 何をくれるの? 車を買ってくれるの? 病院を建ててくれるの?…という話から始まりますが、いや、買わないし建てに来たのではないときっぱり言いました。もしも本当に今ここに必要なものが病院なのだとしたら、病院を建てるための手段を探すお手伝いをすると伝え、私たちはドナーではなくて事業を一緒にやるためにいるのだということをはっきりさせます。住民の健康の問題は私たちの問題ではなくて、パプアニューギニアの問題だという話を何度もして、私たちの立ち位置は黒子に徹することだと理解してもらいます」
この相互理解の努力を怠らないことが、HANDSが目指している地域の自立を促す事業展開の秘訣だと感じられた。

最後に、何度もパプアニューギニアに渡り、国際支援活動という形を通して関わり続ける寺田さんに、同国の魅力を聞いてみた。
「もともと、自然に触れていることがすごく好きなのだと思います。緑に囲まれて青い空の下で、土を踏みしめているのが好きだというのが根底にあって、滝で水浴びをしたり川でお皿を洗ったりする生活に憧れて、仕事は後付けだったかもしれませんね」と笑う。
寺田さんは、基本的には在宅勤務で仕事をこなすお母さん。
「なので、思い通りに行かないことに慣れています」と寺田さんは答える。バイタリティーあふれる行動力と多くの経験が、パプアニューギニアの母子保健改善にますます活かされることを期待したい。

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