1. HANDS ― 黒子に徹して保健の仕組みづくりを進め、いのちの格差をなくす活動 ― ~前編~

社会貢献ジャーナル

HANDS ― 黒子に徹して保健の仕組みづくりを進め、
いのちの格差をなくす活動 ― ~前編~

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新しいタイプの国際保健NGOを創りたい

特定非営利活動法人HANDS 寺田さん特定非営利活動法人HANDS 寺田さん
特定非営利活動法人HANDS 左:寺田さん 右:篠原さん特定非営利活動法人HANDS 左:寺田さん 右:篠原さん
中村代表:ウガンダで母子手帳を開発したドクターと。中村代表:ウガンダで母子手帳を開発したドクターと。

特定非営利活動法人HANDS(Health and Development Service、以下HANDS)は、「日本人の医師や看護師が途上国で治療するのではなく、途上国の医療者が自国の人びとの健康を守る主役になれるよう、途上国の保健医療の仕組みづくりと人づくりを活動の重点としたい」という考えから、医療者や学者たちが集まり2000年1月に設立したNGOだ。

「これまで日本になかった新しいタイプの国際保健NGOを創りたい」という思いを抱いた設立時の関係者が参考にしたのは、豊富な経験を持つ米国の国際保健NPOであるMSH(Management Sciences for Health)である。
MSH創設者のロン・オコナー氏は、日本の国際保健のパイオニア的存在でマグサイサイ賞を受賞した岩村昇氏に感銘を受け、同団体を設立したという経緯がある。その恩返しとして組織作りやスタッフ派遣を通じてHANDSの設立に協力を惜しまなかったという。

当時のNGOでは珍しく、国内外の国際保健専門家を招いたテクニカルセミナーやワークショップを開催し、同分野で活躍する日本人リーダーを養成する岩村国際保健フェローシッププログラムでMSHに人材を派遣するなど、非常に特徴的なスタートを切っている。

その流れを受け、現在でも多くの専門家との関係が続いており、HANDSの活動を支える貴重な財産となっている。広報担当、マーケティング・オフィサーの篠原都さんは「HANDSのスタッフは開発途上国の草の根の人たちへ尊重と思いやりを持ちつつ、行政や保健医療施設のマネジメント強化を進めています。Cool Head, Warm Heartという言葉が当てはまる人が多いのです」とスタッフの特徴を表現する。

ブラジル奥地で支援事業がスタート

ブラジル:遠隔地で青少年グループと、保健啓発活動をおこなうローカルスタッフブラジル:遠隔地で青少年グループと、保健啓発活動をおこなうローカルスタッフ
ケニア:保健ボランティアの学校での保健衛生活動。正しい手洗いの仕方を学ぶ子どもたち。ケニア:保健ボランティアの学校での保健衛生活動。正しい手洗いの仕方を学ぶ子どもたち。

HANDS立ち上げの翌年、最初の事業となるブラジルでのプロジェクトが始まる。未開の地であったアマゾン河支流に点在する村の住民たちは、病院へのアクセスが難しく、エイズ等の性感染症も大きな問題になっていた。住民たちが健康的に生活をするには村民の中から選ばれた保健ワーカーの役割が重要であると考え、血圧計などの基本器材を提供し、ニーズに合った研修を行い、活動意欲を高めるという方法をとる支援を行った。

最初はMSHとの協働事業としてスタートしたが、すぐにHANDS単独プロジェクトとなり、母子保健、エイズ予防啓発、保健ワーカー育成、緊急搬送システム構築、学校保健、アグロフォレストリー調査・普及、青少年グループの育成、水害復興支援とさまざまな支援を続け、2015年に協働してきた現地NGOに事業を引き継いだ。

HANDSは活動地域や事業を徐々に広げていき、代表的なものとしては2005年から開始したケニアでの保健医療施設改善・母子保健サービス向上、母乳育児推進などの事業、また2008年からのスーダンで母子保健強化、2012年からのジブチでの母子保健サービス改善事業などのJICA(国際協力機構)からの委託実施が挙げられる。

人材育成を中心とした活動を展開

ジブチ:助産師を対象にした緊急産科・新生児ケアの実技研修の様子。JICA技術協力プロジェクト「母子保健サービス改善プロジェクト」2013年3月~2015年6月ジブチ:助産師を対象にした緊急産科・新生児ケアの実技研修の様子。
JICA技術協力プロジェクト「母子保健サービス改善プロジェクト」2013年3月~2015年6月

スーダン: プロジェクトが供与したキット(介助に必要な器具・消耗品一式)を手に、笑顔を見せる村落助産師たち。(JICA技術協力プロジェクト「フロントライン母子保健強化プロジェクト フェーズII」2011年9月~2014年9月スーダン: プロジェクトが供与したキット(介助に必要な器具・消耗品一式)を手に、笑顔を見せる村落助産師たち。
JICA技術協力プロジェクト「フロントライン母子保健強化プロジェクト フェーズII」2011年9月~2014年9月

HANDSの事業は、その目的と手法で大きく分けて二つに分類される。
まず、より住民の視点を意識した活動だ。コミュニティに根差した支援活動を行うもので、上記のブラジル、ケニア、そして後編で紹介するパプアニューギニアがそれに該当する。これらの事業はJICAや外務省、民間資金や寄付など複数のファンディングで行われ、パートナーは、支援国の行政機関になるが、支援地に何が必要であるかを重視して事業が行われるため、ニーズの変化と改善度合いによって支援の形は変化していく。

もう一つは全国規模での保健の仕組み作りの支援。国家間で決める3~4年のプロジェクトに入札して事業を行うもので、スーダンの母子保健強化、大洋州での地域保健看護師能力強化、ジブチでの母子保健サービス改善事業などが該当する。
そしていずれの活動でも、HANDSの活動の柱は人材育成である。住民が自らの力で病気のリスクを予防し健康を守る仕組みを作り、行政が住民の健康の守り役となり必要な保健医療サービスを届けるシステムを構築する支援を行う。

HANDSの活動目的

「HANDSが大切にしていること」として掲げられている活動目的は次の通りだ。

いのちの格差をなくす
子どもや女性、貧困層やへき地に暮らす人たちが、必要とするときに基本的な保健医療サービスを受けられるような仕組みづくりに優先的に取り組みます。
現地の人たちが主役
誰もが健康的に生き、健康的な社会をつくる「ちから」を持っています。その「ちから」の存在に自らが気づき、発揮していくことができるよう、黒子となってささえます。
残る仕組みをつくる
HANDSが去った後でも、誰もが健康に生きる社会づくりの取り組みが継続されるよう、現地に合った方法を提案していきます。
互いに学ぶ
健康的に幸せに生きる方法は、途上国からも学ぶことができます。得た学びは日本国内にも発信していきます。

現在HANDSのスタッフは約20人で、海外事業担当は保健行政のマネジメント強化や保健システム作りなどに従事している。支援先の自主性を重視するため、研修を行う場合でも自分たちで講師とはならず、現地の人たちを巻き込んで依頼する形で行う。自分たちの問題だと知ってもらうのが狙いだ。

日本で生まれた母子健康手帳システムを活用

ケニアの保健医療施設から遠く離れた場所に住む母親も、子どもの母子手帳を大切に扱うケニアの保健医療施設から遠く離れた場所に住む母親も、子どもの母子手帳を大切に扱う

HANDSの事業の特徴的なものの一つに、母子健康手帳の活用サポートという取り組みがある。母子健康手帳は日本で生まれ、戦後まもなく母子の命を守ってきたツールだが、アジアやアフリカの国々に評価され活用が広がっているのだ。

戦争直後の日本のように、アフリカやアジアの国々ではまだ多くの妊娠中、または産後の女性や子どもたちが命を落としている。このような状況を変えるには妊娠から出産、産後に至るまでの継続ケアが必要とされ、かつて日本の母子保健の改善をもたらした要素の一つである母子健康手帳が各国に独自の形で採り入れられており、現在世界で30カ国以上の国や地域で活用されている。

途上国で母子保健の向上を目指す公務員や医療者が母子健康手帳を導入する際、HANDSは母子健康手帳国際会議の開催、母子健康手帳導入や普及のテクニカルサポート、途上国の母子保健関係者への訪日研修などの技術支援や母子健康手帳活用国との接点作りを通して、活動をサポートしている。
「ケニアなど活動地の視察に行くと、私たちの目から貧しい暮らしぶりに見える人たちは、その格差を知らず文句も言わず、自身の人生を受け入れているように見えます。それがむしろ私たちに『いのち』の尊さを感じさせてくれるのです。

母子健康手帳は妊娠したお母さんが受け取るツールですが、健康記録以外にも、それを通し保健医療者とつながり、自身と子どもが自発的に健康に生きることをサービスや情報伝達を通してサポートする役割があります。お母さんが子どものために注ぐ力は大きく、母子健康手帳がそんなお母さんたちの力を引き出し、母子ともに健康な状況に導くツールとして、未だ母子の死亡が多い途上国各地で活躍していくことを期待しています」(篠原さん)

後編では、プロジェクト・マネジャーとしてパプアニューギニアの事業に携わっている寺田美和さんの活動を通じて、HANDSの支援の形をより詳しく具体的に紹介する。

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