1. 日本医療開発機構(JMDO) ― 「施しではない現地に根付く医療の提供」カンボジアで医療教育を行い現地の自立を促す支援 ― ~前編~

社会貢献ジャーナル

日本医療開発機構(JMDO) ― 「施しではない現地に根付く医療の提供」
カンボジアで医療教育を行い現地の自立を促す支援 ― ~前編~

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医療システムが崩壊、指導者がいなくなったカンボジア



日本医療開発機構(Japan Medical Development Organization、以下JMDO)は、医療法人社団KNI北原国際病院の北原茂実理事長が2009年6月に設立し、11年にカンボジア国際NGO登録を行い、同国内で「施しではない現地に根付く医療の提供」をモットーに活動を始めた国際NGOだ。

北原理事長は、「全ての医療従事者が生き生きと働き、全ての人々が低コストで高品質な医療サービスを受けられる社会を創りたい。それは日本はもちろん、海外であっても同じ」という思いを抱き、外国の支援がなくても、現地医療者が自分たちの手で患者を助けることができるようになることを目的としてJMDOの活動を始めた。

活動地となったカンボジアは、1970年から長く続いた内戦の影響で国内のインフラが破壊されただけではなく、多くの医療関係者が命を失った。その結果、現在でも医療分野における指導者的役割を担う人材がおらず、外国の支援に頼らざるを得ない状況だった。

多くの支援が新しい問題を生んでいた現状

内戦終結後、カンボジアには多くの国から支援の手が差し伸べられる一方で、その問題点も浮き彫りとなっていた。2012年1月から15年3月まで現地で理学療法士として活動を行ったJMDO広報担当の亀田佳一さんはこう指摘する。

「海外からの医療提供を受けられる人は、高いお金を払える富裕層に限られます。そしてボランティアベースで医療者が赴いて貧困層を対象に支援を行っても、帰ってしまったら後には何も残らない。医療機器を提供されても最初は使うけれど一度壊れてしまったら修理できる人がいないので、そんなに古くない機器が倉庫に押しやられているような状態だったのです」

日本から来たNGO団体だと現地の人に自己紹介すると、「今日は何をくれるの? 何をしてくれるの?」という状態だったと言う。日本人がそのような目で見られている状況で、JMDOは「施しを与えない支援」を2011年からスタートさせる。

北原理事長がNGOを設立した理由は?

北原理事長はJMDOホームページの挨拶文に、「JMDOはわが国の医療サービスと医療教育の良さを世界にアピールし、医療を輸出産業化し、収益や人材を国内や相手国に還元することによって、国内外の人々に新しい価値観を共有してもらうことを目指しています」とNGOの目的を紹介している。

医療輸出を目指すならば事業をそのまま輸出するのではなく、なぜNGOという形を取ったのかという疑問に答えてくれたのは、2012年1月から15年3月までカンボジアに滞在し、カントリーダイレクターとして活動していた看護師の笠原明日香さん。
「事業として病院を経営する際には、どうしても受診できる層が富裕層などに限定されてしまいます。貧しい方々への医療提供を行うにはNGOとして活動した方が良いと考えたのです。加えて、私たちが活動していたカンボジアの首都プノンペンにある国立コサマック病院には、私企業が入ってはいけないという決まりもありました」

北原国際病院が事業としてできる医療提供、JMDOがNGOだからこそできる支援、これら二つの支援の形の良い所を取って、カンボジアの医療の底上げを図ろうとしているのだ。

教育・医療・環境の三本柱で行うJMDOの活動

JMDOは、途上国に適切な医療を根付かせるために、次の3つの取り組みを行う。

教育 ~「命を救う力」を育てる~
医師や看護師、リハビリスタッフなどの医療者へ知識・技術教育を実施。カンボジアの医療を支える若いスタッフへ「医療のあるべき姿」を伝える。
医療 ~最先端の医療で「救える命を救う」~
貧しい患者にカンボジアでは実施が難しい脳神経外科手術を提供。カンボジアでは救うことのできない命をつなぐ。
環境 ~「命を救う環境」を育む~
国立病院で働くスタッフや実習中の学生へ適切な病院環境を知ってもらい、「自分たちが環境を変える! 変えられる!!」という事を伝える。
JMDOはこれらの活動を、国立コサマック病院、アメリカ系NGO病院のJeremiah’s Hope、カンボジア唯一の公立医療系専門学校のTechnical School for Medical Careを中心として行っている。現在JMDOのスタッフは4人。北原国際病院との兼務となる亀田さんと笠原さん、そしてカンボジア現地スタッフの2人の体制だ。

新しい分野に挑戦する病院に魅力を感じた亀田さん



カンボジアでほぼ同時期に活動を行っていた亀田さんと笠原さんの経歴を紹介することで、北原国際病院とJMDOの活動を辿ってみたい。亀田さんは10年前に理学療法士として北原国際病院で勤務を始めている。

「就職先を決める時、どこの病院もそれぞれ特徴はあるけれど、僕には同じように映り、その病院で働く理由がなかなか見出せなかったのです。そんな時に、当時としてはかなり珍しく見た目も変わった北原国際病院に出会いました。当院の説明会に参加し、色々な事業を行っていることも知り、新しい分野に挑戦していると聞き、就職してみたら面白いかなと感じました」と就職を決断した理由を教えてくれた。

そして理学療法士として働いていたが、2012年にカンボジアでの事業に参加するよう依頼され、NGOとしてまだ具体的な活動実績がなかった状態で現地に赴任する。JMDOは当時、単発的な脳外科手術を提供していただけだったところに、団体のきちんとした土台を作り、継続した活動につなげる作業が始まった。

リハビリの必要性が理解されていなかった病院



国立コサマック病院への介入を始めた亀田さんは、同院の脳外科がリハビリを行っていないという状況に直面する。

「医師も看護師も、知識としてリハビリのことは知っているけれど、必要性が分かっていない状況でした。プノンペンには内戦の影響で脳卒中の好発年齢である70歳以上の人が少ないのですが、それでもやはり交通外傷やケンカなどの怪我で入院する患者は多く、脊髄損傷による四肢麻痺や片麻痺などは脳卒中と同じ症状が出るのです。その状態でリハビリをしないということは、ずっと寝たきりになってしまうということです」

国立コサマック病院にはリハビリのデパートメントはあったが、脳外科には行かず外来の患者だけを診察していたという。脳外科の患者にリハビリを提供するシステムがなかったのだ。
亀田さんはまず、リハビリの必要性を分かってもらうことから始める。地道に3年間をかけて、脳外科の患者にリハビリをしたことがない、知識も技術も足りないスタッフを教育し、新しいシステムを作りあげた。

カンボジアには、日本人だからできるのだという思い込みの障壁があったとも言う。
「僕たち日本人の理学療法士がリハビリを行って効果があるのは分かった。でもカンボジア人の理学療法士はできないだろうと、自分の国の人を信用していなかったのです」
それでも信頼が得られるまで、時間をかけて現地スタッフの教育を続けた。その結果、現在はJMDO現地スタッフとなったカンボジア人の理学療法士Veasnaさんは、他の病院のスタッフに教育ができるまでに成長した。

「Veasnaさんに中心になって動いてもらい、ドクターとの折衝も行い、最終的にシステムを作り上げることができました」
さまざまな障壁を乗り越え、現地に根付いた医療提供ができるシステムだ。

後編では看護師の笠原さんの活動と、2人の医療支援におけるやりがいや夢などを交えて、JMDOについてさらに紹介していく。

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