1. 原発事故被災者へ医療支援活動を行うチェルノブイリ医療支援ネットワーク ~後編~

社会貢献ジャーナル

原発事故被災者へ医療支援活動を行うチェルノブイリ医療支援ネットワーク ~後編~

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早期発見に寄与する細胞診断技術向上にも貢献

ベラルーシで主流のギムザ染色を中心に画像付きで解説してあるベラルーシで主流のギムザ染色を中心に画像付きで解説してある
贈呈したテキストについて説明する日本医科大学付属病院病理部の渡曾泰彦臨床検査技師(ベラルーシ)贈呈したテキストについて説明する日本医科大学付属病院病理部の渡曾泰彦臨床検査技師(ベラルーシ)

チェルノブイリ医療支援ネットワークのベラルーシにおける活動で、患者にとっての負担軽減に繋がる甲状腺がん内視鏡手術の症例数が飛躍的に伸びていることを紹介したが、同団体の貢献はこれだけではない。

がんの中でも比較的進行が遅く、早期に発見し適切な治療さえ行えば転移の可能性は低くなるという甲状腺がんだが、この早期発見に必要とされる検査が穿刺(せんし)吸引による細胞診だ。ベラルーシでは、採取した甲状腺の細胞を染色し、検鏡して診断する臨床検査技師が不足していることが課題だ。それが、多数の専門家とチェルノブイリ医療支援ネットワークの活動により、未来は明るいものになりつつある。

2012年、『染色した画像が多数掲載された基礎的なテキストを作成し、寄贈する』というプロジェクトが立ち上がった。2014年の訪問時にはこのテキストを用いて村瀬幸宏臨床検査技師による講義が行われるなど、支援によって現地医師らの知識やスキルは格段に進歩を遂げている。少なくともブレスト州においては現地医師だけで穿刺吸引による細胞診が確立できたことで、がんの早期発見へ道筋を付けることが出来た。ゼロからスタートした甲状腺がん検診プロジェクトは、現地パートナーとの二人三脚によって、確実に前進している。

被災者と障がい者による現地福祉工房「のぞみ21」への支援

福祉工房「のぞみ21」のスタッフ。商品には丁寧な刺しゅうが施されている(ベラルーシ)福祉工房「のぞみ21」のスタッフ。商品には丁寧な刺しゅうが施されている(ベラルーシ)
国際協力イベントなどで「のぞみ21」商品やフェアトレードのコーヒー、紅茶を販売(福岡市)国際協力イベントなどで「のぞみ21」商品やフェアトレードのコーヒー、紅茶を販売(福岡市)

また、チェルノブイリ医療支援ネットワークが行う主な活動の一つとして、「のぞみ21」への支援がある。「のぞみ21」というのは、自らが被災者でもあるステパン・ナターシャ夫妻が呼びかけ、1995年に開設した工房だ。
被曝による手術を経験した若者や様々な障害を持つ青年たち30名がここへ通い、洋服の縫製や刺繍・木工技術などを学び、作品を販売することで収入を得ている。

手掛ける製品は、伝統的な刺繍が施されたランチョンマットやブックカバー、カラフルに彩られたマトリョーシカ人形など、異国情緒漂うものばかりだ。チェルノブイリ医療支援ネットワークでは、イベントやHPを通じて「のぞみ21」の手工芸品を販売することで経済的支援を行うと共に、日本での普及活動も行っている。

プロジェクトを存続させることこそが使命

チェルノブイリ医療支援ネットワークの理事でもあり、事務局長を務める川原さんに話を伺った。
「何よりも私たちの使命は、被災地が必要とする限りできるだけ長くこの支援を続けることにあると考えています。現地には私たちを待っている人々がいますから、このプロジェクトや活動を続けることこそが重要なんです」と話す。普段は通信制の高校を運営されているそうだが、様々な活動を経て人生観が変わり、教育という仕事にもボランティア活動の経験が活かされているそうだ。

今でこそスムーズな医療支援が行えているものの、プロジェクトがスタートした第1回目の検診は、まさにトラブルの連続だったという。現地の空港で、持参した医療機材の通関に数時間を要したり、日本語とロシア語が飛び交う検診会場において意思疎通が出来ず大混乱に陥ったり……。しかしこうした苦い経験を共有できたことで、回を重ねるごとに検診はスムーズなものへと変わっていった。

また、1997年にベラルーシ赤十字に贈呈した移動検診車(愛称「雪だるま号」)は、地方からミンスクの基幹病院へ向かう患者の交通機関としても活躍しており(現在第2号が活躍中)、現地での重要な交通手段となっている。日本からベラルーシへと医療技術が伝えられ、現在まで続く信頼関係を築けているのは、活動を支える会員や協力者の想いに加え、日本の専門家たちが持つボランティア精神や、現地関係者の向学心との繋がりによる成果に違いない。

ベラルーシとの架け橋も担う

「ベラルーシとは距離の大きな隔たりがあるため、なかなかベラルーシに親近感を持ってもらうことが難しい」と川原さんは話す。実際に現地へと赴く場合には、航空機を乗り継いでの長旅となる。ベラルーシは農業・工業が盛んな国で、とてものんびりとした国だというが、長年支援を続けている会員でも現地を訪れたことがある人は少ないだろう。

近年では、会員の中にもチェルノブイリ原発事故のことをあまり知らない世代が加わるようになってきた。そこでチェルノブイリ医療支援ネットワークでは、会報誌「チェルノブイリ通信」を年4回発行し、国内外での活動報告や被災地の様子を事細かに報告している。毎号ベラルーシの街並や行き交う人々の写真なども取り込み、少しでも距離が縮まるような親しみやすい内容を心掛けているという。


ロシア人を講師に招いてのベラルーシ料理教室(福岡県古賀市)ロシア人を講師に招いてのベラルーシ料理教室(福岡県古賀市)

また、売上の一部が活動支援に充てられるフェアトレードのオーガニックコーヒーや紅茶をイベントやHP上で販売するほか、ベラルーシをもっと身近に感じてもらいたいと様々なイベントを企画。ロシア・ベラルーシの郷土料理が学べる料理教室なども人気を呼んでいる。

さらに今年はチェルノブイリ医療支援ネットワーク結成25周年事業として、放射能や原発についての基礎知識からチェルノブイリ原発事故の経過や被害、福島原発事故についても詳しく学べる「チェルノブイリ連続学習会」を開催。さらなる知識を深めるとともに自分たちに何が出来るかを問いかけている。

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