1. 原発事故被災者へ医療支援活動を行うチェルノブイリ医療支援ネットワーク ~前編~

社会貢献ジャーナル

原発事故被災者へ医療支援活動を行うチェルノブイリ医療支援ネットワーク ~前編~

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医療支援に特化したボランティア活動を実践

甲状腺内視鏡手術。毎回多くの医療関係者が見学に訪れる(ベラルーシ)甲状腺内視鏡手術。毎回多くの医療関係者が見学に訪れる(ベラルーシ)

「NPO法人チェルノブイリ医療支援ネットワーク」は、1990年に発足。チェルノブイリ原発事故で被災した人々に対して、検査試薬や医療機器支援のほか、現地医療システムの確立や医療技術の向上、人材育成のための支援を行うNPO法人だ。

1997年、それまで行っていた物資支援や保養所事業などから、医療支援に特化した活動へと事業転換を果たした。現在、日本の第一線で活躍する専門家と現地の医療関係者と共同で、甲状腺がんの早期発見・治療を行うシステムの構築を目指し、さらなる技術の向上に力を注いでいる。

世界中を震撼させたチェルノブイリ原発事故

チェルノブイリ原発4号炉(ウクライナ)チェルノブイリ原発4号炉(ウクライナ)

まずは、世界中を震撼させたチェルノブイリ原子力発電所での爆発事故について触れておきたい。
1986年4月26日未明、ウクライナ共和国にあるチェルノブイリ原子力発電所の4号炉で大爆発が起こった。この爆発により一瞬で原子炉は破壊され、大きな火災が発生した。消火のために、ヘリコプターから原子炉の炉心めがけて総計5,000トンに及ぶ砂や鉛などが投下された。

火災は爆発から14日後にようやく収まったものの、原子炉内にあった大量の放射線物質は大気中へ放出され、風に乗ってあっという間に世界各地へ広がったのだ。チェルノブイリから約8000km離れている日本でも、野菜や水、母乳などから放射能が検出されたという報告がある。

当時の一般市民はチェルノブイリ原子力発電所で事故が起きたことを知らず、一部の地域を除いて強制避難が始まるまでの1週間はほったらかしにされていたという。ようやく5月3日から避難が開始されたが、原発から30km圏内の避難民数は12万人にのぼった。

今なお消えぬ原発事故の爪痕

地図から消えた村「カパチ」(ベラルーシ)地図から消えた村「カパチ」(ベラルーシ)

チェルノブイリ原発事故によって最大の被曝国となったのは、ウクライナに隣接するベラルーシ共和国だ。日本の半分強の土地に約1000万人が暮らすベラルーシには、事故で放出された放射能の約70%が降り注いだ。全国土の3分の2が高濃度から低濃度の汚染地となり、チェルノブイリに最も近いベラルーシ南東部のゴメリ州、南西部のブレスト州、東部のモギリョフ州の3州は「汚染州」に指定された。多くの人々が強制移住させられ、何十もの村が建物と表土ごと解体され、地図上から名前を消した。

そして原子炉の爆発により放出されたヨウ素131は子供たちの甲状腺に取り込まれ、被曝をもたらした。甲状腺とは喉のあたりにある器官だが、成長期にある子供たちの甲状腺は、とくにヨウ素を吸収しやすいと言われている。この結果、チェルノブイリ原発事故後の1990年頃から子供たちの間で甲状腺がんが急増したのだ。
くわえて、子供用手術器具や精密医療機器、医薬品の不足に加え、医療技術の遅れ、さらに長引く経済混乱もあって、甲状腺がん検診、治療における状況は最悪と言えるものだった。

物資援助から医療支援への事業転換

ブレスト州ストーリン地区での甲状腺がん検診。エコー画像を見ながら現地医療スタッフへ指導を行う(ベラルーシ)ブレスト州ストーリン地区での甲状腺がん検診。エコー画像を見ながら現地医療スタッフへ指導を行う(ベラルーシ)

1990年代半ば、ベラルーシの首都・ミンスク郊外での保養事業を終了させていたチェルノブイリ支援運動・九州(現在のチェルノブイリ医療支援ネットワーク)は、次なる展開へ向けての検討を重ねていたのだが、ちょうどこの時、転機が訪れる。

広島で放射能と甲状腺とを長く見続けてきた第一線の専門家たちがチェルノブイリ被災者への医療支援を模索しているという情報を入手したのだ。熱意と意欲に燃える専門家グループとの出会いが発端となり、1997年から『甲状腺がん検診プロジェクト』として医療支援への本格的な取り組みを開始。現地の専門家育成を視野に入れた日本と現地の医師たちによる共同チームを立ち上げ、甲状腺がん検診を中心とした医療支援活動が始まった。

医療支援訪問は年に1?2回実施される。プロジェクトスタッフは甲状腺の専門医に加え、臨床検査技師、医療通訳などで構成されており、現地ドクターとともに甲状腺がん検診を行うことで日本の医療技術の伝承に務めてきた。1997年?2001年までの5年間はブレスト州ストーリン地区での検診を実施し、その後の2002年より州都ブレスト市にあるブレスト州立内分泌診療所へと拠点を移した。

患者に精神的負担を強いない、新しい手術法の普及に尽力

甲状腺内視鏡手術。左は執刀医の清水一雄医師(ベラルーシ)甲状腺内視鏡手術。左は執刀医の清水一雄医師(ベラルーシ)

当時ベラルーシで行われていた甲状腺の摘出手術では、頚部をU字に大きく切開し、病巣部を摘出し縫合するというもので、術後は頚部に大きな手術痕が残った。甲状腺疾患患者の75%は女性であったため、傷跡は女性の心にも癒えない傷を残すものであった。

1999年から同プロジェクトに協力している清水一雄先生(現・日本医科大学名誉教授、金地病院名誉院長)は、VANS法(Video-assisted neck surgery)という内視鏡を用いた甲状腺の手術法を開発した専門医である。このVANS法には手術痕がほとんど残らず、出血が少ない上に術後の回復が早いというメリットがあり、大きな傷跡が残ることで心に傷を負っていた若い女性甲状腺がん患者にとっても、希望が見いだせる術法となったのだ。

清水先生はこの術法をベラルーシで導入し普及させるため、医学シンポジウムにてVANS法に関する講義を重ねてきた。そして2009年秋、良性疾患の患者に対しベラルーシで初めて甲状腺内視鏡手術が行われた。現在ではこの術法がベラルーシにも徐々に広まっており、現地医師による年間100例以上の症例数が報告されている。

続編では、早期発見のための甲状腺がん検診技術の伝承や国内での活動について追いたい。

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