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社会貢献ジャーナル

生きる力をともに創る。NCGM国際医療協力局の国際協力・支援活動 ~後編~

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開発途上国における新生児・小児医療

国立国際医療研究センター国際医療協力局 岩本あづささん国立国際医療研究センター国際医療協力局 岩本あづささん

2000年に国連が掲げた「ミレニアム開発目標」には世界の“5歳未満死亡率の削減”“妊産婦の健康改善”が挙げられており、その実現のためにMNCH(Maternal, New-born and Child Health、母性・新生児・小児保健)の重要性が強調されている。
この目標に寄与するために、開発途上国における新生児・小児医療の現場に長らく身を置いて活躍しているNCGM国際医療協力局の岩本あづささんに話を伺った。
岩本さんは、2000年のインドをスタートとして、バングラデシュ、ホンジュラス、ラオス、マダガスカル、カンボジアなどに赴き、豊富な実績を残しその経験を日本に伝えている。

子どもの頃の想い、国際医療に携わる夢を実現させる

岩本さんが国際医療に携わるきっかけとなったのは、小学3年生の頃に読んだ1冊の本「ヒマラヤの孤児マヤ」だという。
当時ネパールにおけるNGO活動で結核対策を行っていた岩村昇さんの妻・史子さんの著書で、夫妻の献身的な公衆医療活動と、引き取られた孤児マヤの成長を描いたドキュメンタリーだ。

「ご夫妻はお子さんがおられなくて結核孤児を何人か引き取って育てられたのですが、その活動を描いた子ども向けの本を読んで、ビビっと来ました。私は栃木県の日光で育ち、山の中の生活でしたから、ネパールの風景と何か重なって心に染みたのかもしれません。」(岩本さん)
この強い想いを胸に岩本さんは医師となり、岡山県の国立岡山病院(現・独立行政法人 国立病院機構 岡山医療センター)の小児科で働き始める。
国立岡山病院は、1991年に先進国で初めてWHO(世界保健機関)とUNICEF(国際連合児童基金)から、母乳育児を推進している「赤ちゃんにやさしい病院」に認定されているほど小児科に注力していた病院だ。
岩本さんには縁もゆかりもない土地だったが、小児科における国際協力をやりたいという想いで飛び込んだ。また、当時活発に活動していたNGOのAMDA(アムダ)の本部が岡山市にあり、出来れば自分も参加したかったというのが岡山県に移ってきた理由だ。

そして国立岡山病院のNICU(=Neonatal Intensive Care Unit、新生児集中治療管理室)で新生児科医として働いていた頃、インドの新生児ケアのJICA(国際協力機構)短期専門家として2カ月間派遣される機会を得て、NCGMに転勤する形で活動の場所をインドに移した。

最初の派遣先、インドでの驚き

新生児室に泊まり込んで病児の世話をする家族新生児室に泊まり込んで病児の世話をする家族

2000年の5月~7月、日本政府の無償資金協力で建てられた新病棟の開所をきっかけに、デリーの下町にある国立小児病院に岩本さんは派遣される。全国から多くの患者が集まる病院の、新生児室で働くことになった。
「いろいろなことが日本とは違うので、とてもびっくりすることが多かったです。」(岩本さん)
まず驚いたのは、病棟に患者の家族が住み付き、廊下やトイレで食事をつくり寝泊まりしながら患者の世話をしている状況だった。国立病院の医療費は無料だが、この家族が付き添いを続けることが困難になる場合も多く、入院中に親がいなくなったり治療途中に無断退院をしたりする例がかなり見られたという。

また、清潔操作の徹底に対する認識も日本とは違い、手洗いやガウンテクニックは形式的に行われてはいるものの、手洗い後のドライイング(清潔なタオルで手を拭くこと)は皆無で、濡れた手のままで次の処置が行われていた。
こういった状況を目にした岩本さんは、「これはスタッフの知識不足のみならず、日本人とは異なる“清潔”に対する概念に大きく影響されているのかもしれない。」と感じたという。
また医師と看護師の業務は完全に分けられており、極端に言えば、違う世界でそれぞれが完結している。医師や医学生は知識が豊富で、回診も毎朝きちんと行われ、そこで議論される内容も充実していたという。
しかし、その知識のほとんどは現場で活用されていなかった。それもこの施設の保健医療レベルが向上しない理由だと感じていたそうだ。ヒンズー教のカーストという理由も関係しているのかもしれないが、一緒にカンファレンスをすることも簡単ではないという現実にぶちあたったのである。
異文化の中で、外部者がそのような場面において行動変容を促すことの難しさを痛感するとともに、大国インドの中でも長い歴史と実績を持つ小児病院に、日本のNICU管理体制をそのまま技術移転することはまず無理だろうと考えた。

新生児医療支援のあり方

新生児室で祖母に蘇生される赤ちゃん新生児室で祖母に蘇生される赤ちゃん

「新生児医療やケアというのは、実はお医者さんの力に限りがあって、オブザベーションが大切です。じっと赤ちゃんの様子を見ていることです。小さく生まれた赤ちゃんや、仮死状態で産まれる、子宮の外に適応出来なかった赤ちゃんを保育器に入れてお世話をしますが、看護師さんが観察することがとても大事で、何か起こった時にはすぐ対応できる体制がとても重要です。」と岩本さんは新生児医療の本質を語る。

ところが開発途上国において、貧しければ貧しいほど病院で産まれてケアを受ける赤ちゃんは少数だ。半分以上の赤ちゃんは病院以外で産まれているため、「そういう赤ちゃんを助けるには、これだけではダメだという気持ちが強くなってきました。」(岩本さん)。

次のバングラデシュでは一番大きな良い病院だったが、ホンジュラスでは県立病院に行き、日本の保健センターに該当する場所での巡回に付いて行動し、呼吸をしていない赤ちゃんが産まれたらこう蘇生する、というトレーニングを支援する活動を行った。その後に行ったマダガスカルでは、家で産まれる赤ちゃんを助けるためのパッケージを作る支援をした。結果的に病院の医療からは離れて行ったが、支援が必要な所にはいろんなレベルがあり、田舎に行くほどやれることは限られてくる。「それに応じて、そこで一番やれることを考える。」それが岩本さんの仕事だと言う。

国際医療協力に必要なバランス感覚

新生児医療だけではなく、国際協力という仕事をするうえでは、自分の中のバランス感覚が常に問われる。
海外での経験で最も印象に残っている出来事は、ある医院での大ゲンカだと岩本さんは振り返る。任期が終わり、送別会もしてもらって、気難しかったけれどようやく仲良くなった院長と最後の日の帰りに新生児の回診に回った。その時院長は、新生児の酸素供給を絞っていったという。岩本さんは供給を続けるべきだと口論になったが、院長はこれがここのやり方だと聞き入れなかった。責任者は私だと。

「日本では隣のお母さんのおっぱいをもらうことは、できがたいことなのです。もし希望するのであれば、輸血と一緒の同意書を書くことになります。でも当時バングラデシュのその病院では普通にやっていました。だからと言って、日本と同じことをしようと私は思いません。いいよね、って笑って見ている。それは自分の中のバランスとして、これは受け入れられるから。でも目の前で酸素を止められてその子の状態が悪くなっていくのは、自分の中で絶対に受け入れられない状態。その場限りかもしれないけれど、変えなきゃいけないと行動する。そのせめぎ合いが一番大変なところですね。」

岩本さんはこのような葛藤の中で仕事をしているが、対象は赤ちゃんだ。どこの国に行っても、赤ちゃんが好きでなんとかしたいと考えている人はたくさんいる。夜通し赤ちゃんを見ていたいと思っている人と出会えた時は嬉しく感じる。治安上の理由や、国や地域特有の事情でそれが叶わない所もあるが、赤ちゃんのために一所懸命に働いている人がいる限り、自分が得た知識や経験を伝え、少しでも新生児医療やケアの発展に貢献できるよう願っている。

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