シェアは、恒常的に健康状態が悪い地域において、また支援を必要としている人たちがいる場所で活動を行う。現在、支援の場となっているのはカンボジア、東ティモール、タイ、そして日本だ。
カンボジアにおける離乳食教室
カンボジアでは、1970年以降の内戦において地域の医療が崩壊した。物がなくなり、人材もいなくなり、乳児や妊婦の死亡率が高く、経済的にも貧しい地域だった。
90年代に入り、シェアは当地で地域保健プロジェクト、母子保健プロジェクトで住民による健康を守る活動の支援を行った。
「地域の医療を回復する際には、病院の医師と看護師のトレーニングに力を入れるのが普通ですが、現在重点的にシェアが支援を行っているのは保健センターを核とした乳幼児健診活動です」(シェア副代表理事 医師・沢田貴志さん)
カンボジアの保健センターは日本では保健所と診療所を合わせた機能に相当し、予防だけではなく初期の医療も行っている。その保健センターのスタッフが、村の保健ボランティアと連携して、子どもたちの健康状況を把握し、定期的な健診活動や適切な診断が行えるよう訓練をしたのだ。
医療へのアクセスが十分ではない地域では、予防可能な病気にかかり、重症化してからお金をかけて都市部の病院にかかるというケースが少なくない。公的施設の保健センターが適切に機能すれば、日常的な病気の予防や栄養不良児の早期発見ができると考えた支援だ。
現在はスバイアントー郡保健行政区における子どもの健康増進プロジェクトで、コミュニティをベースとした2歳未満児の健康増進活動定着を目指している。
東ティモール・児童保健委員による手洗い指導
東ティモールでは1990年代末の紛争で医療のインフラが崩壊してしまったが、現地に残っている人材が自分たちで対処できない一次医療のサービスを緊急的に支援した後、健康教育での予防ができるように重点を移した。
1999年10~11月にかけて現地のニーズを調査し、2000年1~3月には準緊急支援として助産師及び医師の派遣を行った。暴動が治まり始めた場所ではプロジェクト形成調査が始められ、プライマリ・ヘルス・ケア(健康であることを基本的な人権として認め、全ての人が健康になることのために地域住民を主体とし、人々の最も重要なニーズに応え、問題を住民自らの力で総合的にかつ平等に解決していくアプローチ)プロジェクトを推進した。
現在は、小学校における保険教育プロジェクトを行っている。
「国によって学校保健プログラムが進められていますが、実際には学校に保健の先生がいないので、保健教育の方法を教えています。子どもたちに病気の予防について、例えば、下痢をしないように、寄生虫を予防するために、きれいに手を洗いましょう、バランスのよい食事をしましょう、などですね」(沢田さん)
この予防教育を子どもたちに行うために、学校の先生の人材を育成している。教材作りを支援したり、先生に教えるためのプログラムを提供したり。一緒に作ることで、こういう教え方をすれば効果がある、ということを教えていく方法だ。
HIV陽性者への家庭訪問を行うボランティア
タイでの活動は、1983~85年のタイ・カンボジア国境の難民村での診療活動、日本国際ボランティアセンター(JVC)が行っていたレントゲンの移動診療に医師が協力する形で始まった。
その後、住民参加の保健活動として健康ボランティアの制度を強化する様々な活動を行ったが、90年代からエイズが非常に深刻な状況となり、地元の人たちで解決していけるように人材育成を行った。
もともと優れていたタイの健康ボランティアにトレーニングをすることで、エイズに対して偏見を持たずに、感染した人をしっかり支えられるような人材を育てた。予防とケアの両方ができるような人材を健康ボランティアの中につくり、最終的には患者自身が自分たちで自助の活動ができる形に導いていく。
現在、タイの事務所は独立してタイのNGOとしてエイズプロジェクトを行っている。
また日本国内で、エイズに関し「タワン(タイ語で太陽の意)」というタイ人のボランティアグループを支援している。
「タワン」は様々なタイの行事の会場、移動大使館などに出向くことで健康面の情報普及コーナーを設置し、ボランティア医師と協力して無料健康相談会を行い、特に日本に住む全てのタイ人がエイズを含めた健康の問題に意識が持てるように活動をしている。
沢田さんは「私たちは、こういう自主的なボランティアの育成、こういう活動がしたいという人たちにアドバイザーとして協力しています。私は直接アドバイスはしません。相談会でちょっと診察するくらいで…」と謙遜するが、頑張って活動している看護師や保健師の下支えをしている。
日本における外国人対象の健康相談会
今回話を伺った副代表理事の沢田さんは、バブル期の外国人労働者の過酷な環境が社会問題となった頃にシェアの活動に参加した。
「本来は克服していけるはずの感染症で命を落とす人がたくさんいました。日本には医療があるのに、その医療を受けられないために自分から周りに感染を広げてしまう。そういう状況に対し、シェアが発展途上国で行ってきたことを上手く当てはめれば活動できるのではないか」と考え、シェアの事務所で相談を受け、健康相談会を開いた。
そして外国人のボランティア育成にも力を注ぐ。シェアが発展途上国で学んだ、人と人をつなげるということを軸に、住民に知識を与えて住民自身の活動を支援する方法だ。
日本で外国人の結核患者が出れば、行政が持っている結核検診車とボランティアの自主的な活動を結び付けたり、相談会の中に地域の外国人ボランティアに積極的に呼び込み相談を受けてもらったり、自分たちで解決できるような知識を持ってもらう活動を続けている。
世界エイズデー
沢田さんは、シェアの活動についてこう語る。
「確かに私たちは、知識については現地の人たちよりも多いかもしれません。しかし現地の人たちに受け入れやすいこと、現地の人たちに普及しやすいやり方というのは、現地の人たちの方がよく知っています。ですから私たちの活動は指導ではなくて、現地の人たちと相談してつくっていくものなのです。支援や指導という概念ではなく、私たちは触媒としてノウハウを引き出しながら、現地に合うものをつくっていきます」
シェアのキャラクター、シェーちゃんとアーちゃんの耳は、くるりと回りお互いの耳をつないでいる。エイズに対する理解を示す「レッドリボン」を表すとともに、耳と耳を交わして互いによく聞き、世界や日本が直面する保健と医療、人権と福祉などの課題について、お互いに考えや情報を共有し、みんなが健康で暮らせる社会をつくることを意味している。
加えてシェアは、貧富の差や不公正を解消するために、私たちに何ができるかを日本社会に問いかけていく。
命の格差をなくし、どんな国籍の人にも住みやすい社会をつくるために。