1. 「JICA」の国際緊急援助 ネパール地震における医療チームの活動 ~後編~

社会貢献ジャーナル

「JICA」の国際緊急援助 ネパール地震における医療チームの活動 ~後編~

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災害発生後、即座に動き出すJICA

JICA結団式の様子JICA結団式の様子

2015年4月25日15時11分頃(現地時間11時56分)、ネパールの首都カトマンズから北西約80kmのガンダギ県のラムジュン郡でM7.8の大規模地震が発生した。
カトマンズや第二の首都ポカラなど人口が多い地域における建物の崩壊などに加え、カトマンズ渓谷では雪崩などによる甚大な被害が出た。
JICAの国際金援助隊事務局では常に災害モニターを行っており、局員の携帯電話にはM6.0以上の地震があるとアメリカの地質調査所などからメールが入るようになっている。

「日本も当然入っていますが、フィリピンのマニラ、イランのテヘラン、ネパールのカトマンズの3地域は地震の脅威が非常に高いという事前認識がありました。ネパールでM7.0以上の地震が発生したとの報で、すぐに動き出せる体制が整っていました」と語るのは、国際緊急援助隊事務局に所属し、多くの災害救援の経験を持つ大友仁さん。
大友さんは2013年のフィリピン台風(医療チーム)、2011年のタイ洪水(専門家チーム)、ニュージーランド南島地震(救助チーム)など、2005年に緊急援助に携わることになってから大規模な自然災害が起こり、緊急援助派遣が要請された所にはほとんど出動している。

国際緊急援助隊、医療チーム派遣が決定

ネパール政府の要請を受け、日本政府は4月27日に国際緊急援助隊医療チームの派遣を決定し、JICAはチームの派遣準備に着手した。
チームは、団長1名、副団長2名(うち医師1名)、医師7名、看護師16名、薬剤師2名、臨床工学技士2名、放射線技師2名、検査技師2名、医療調整員4名、業務調整員8名の46名体制で派遣されることになった。従来の医療チームは23人体制だが、今回派遣されたのは通常の外来診療機能に加え、手術、透析といった高度な医療ニーズを満たせる「機能拡充」チーム。機能拡充チームは、ネパールの地震などの特に大規模な災害を想定して、JICAと医療チーム関係者が長年体制整備を行ってきたが、今回の地震で初めての機能拡充チーム派遣となった。
チームは4月28日夕刻、チャーター便にて成田空港を出発。チャーター便とはいえ、ネパールには日本の航空機が就航していないので、タイのバンコクを経由する必要があった。

英語通訳ボランティアの少年を介して患者に丁寧に薬の説明を行う萬年隊員英語通訳ボランティアの少年を介して患者に丁寧に薬の説明を行う萬年隊員

現地には多い時で世界から140のチームが来て、空も陸も渋滞。数年前までは大使館や現地のJICA事務所が相手国側と交渉し、自分たちで調査に行くことも多かったが、近年では国際協調の流れが進み、ヘルスクラスター(Health Cluster)が立ち上がり、国際チームの交通整理が行われる。
そして、国際協調マネージメント部門のヘッドであったネパール保健省の方から、被害の甚大な地域の一つであるシンドゥパルチョーク郡バラビセへ村への派遣依頼を受ける。

険しい山間部への医療チーム派遣

シンドゥパルチョーク郡のバラビセ村の様子シンドゥパルチョーク郡のバラビセ村の様子

バラビセ村はカトマンズから直線距離で約80km、地震直後は車で通行出来ない場所だった。人口5,000人の町だが、医療圏としては通常で25,000人、災害時には50,000人が対象になると考えられた。
「山の中ということもあり、行ってみないと活動出来るかどうかも不明でした。そのため、まずは10名ほどの調査団を編成し、緊急治療の可能性もあることから大量の荷物を満載したヘリで向かいました。車だと3~4時間かかる場所でしたが、ヘリでは20分ほどで到着し軍のサッカー場に降り立つと、副団長の私が交渉に行くことになりました」(大友さん)
ヘリが降り立った場所からは斜度45度の崖。一歩踏み外して転落したら命の危険があるようなところを、現地の責任者と交渉するために40分かけて下った。

活動場所の選定は難航した。バラビセ村は山岳地帯の深い谷あいの場所で、広い場所がなく、最も適した場所は学校の校庭だが20m×15mもないくらいの場所だった。上を見れば崖があり、通常なら活動場所に選ばない。
しかし「基本的には相手国の政府がここでやってくれということに対して、その要望に応えるのが緊急援助の基本だと考えていますので、こちらの都合だけでなく、被災国の負担をいかに軽減するかを考えるべきです」と大友さんは緊急援助の心構えを持ち、現地の私立学校を活動地に選ぶ。

緊急援助活動の課題

バラビセ村でテントを展開して手術室を作る計画だったが、アクセスが悪いうえにバンコクからの荷物が届かず、実際に手術可能となったのは5月4日。到着から1週間が経とうとする頃だった。
「これは誰が悪いということではなく、物理的にそれが出来なかったというところ。我々も荷物を軽くし、身軽な体制を整えなければいけないという課題が残りました。どこのチームも資機材が届かないということで苦労していましたが…」と大友さんは振り返る。

国際緊急援助隊事務局所属・大友仁さん国際緊急援助隊事務局所属・大友仁さん

JICAの医療チームはレントゲンやエコーの機材を保有しており、他のチームからも要請があり協力を行った。
しかし、現場では最新のものがベストではなく、現地医療の枠組みを超えてしまうと後から患者が困ることになる。
「例えばギプスは日本ではプラスチックギプスが一般的ですが、現地ではこれを切る機械がないためギプスをはめた患者を引き渡す時、一度二つに割り、はめ直して包帯で巻くなどの工夫が必要です」(大友さん)

最大級の余震発生で危険に晒される

5月8日には二次隊が到着。大友さんは引き続き二次隊でも副団長の責を担った。
5月12日の活動中に最大級の余震が発生。医療チームが食堂に使っていた建物が倒壊し、タイミングが遅ければ休憩していた人が下敷きになってしまうところだった。
隊員は災害時の行動認識とトレーニングを積んで活動しており、活動開始時に余震が来たら第一避難場所はここ、第二避難場所、第三…と自分たちが避難した後の行動パターンも現場で決めていたのでスムーズに避難できた。

しかし、団長と大友さんは外の調査に出ていた際に余震に遭い、一時連絡が取れない状態になった。大友さんは当時の様子を生々しく述懐する。
「余震が来て危険を感じたため、道の真ん中で左右の建物が崩れないか見ていました。後ろでガシャガシャという音がして振り向いたら、乗っていた車が建物の下敷きに。すぐに無線で安全確認を取ると10分もかからないでチーム日本人の安全は確認出来ましたが、団長とドライバー、私のドライバーの連絡が取れなかったのです。団長の無事が確認出来たのは、団長が30分かけて歩いて活動地まで戻ってきたときでした。しかし、私のドライバーだけが見つからなくて、捜索隊を編成して2時間半ほど探してようやく無事が確認されました」
余震の後は道路が非常に崩れやすく雨期も近いということで、東京から活動地変更の指令が届き、医療チームは命からがらカトマンズまで戻ることになる。医療従事者にとって患者を残してくるのは苦渋の決断だった。

緊急援助活動に大切なこと

大友さんは、緊急援助活動の責任者として最も大切なことは「判断力」だと言う。変化の目まぐるしい現場では、即座に判断して決めることが重要で、迷ってタイミングを逸すると避難や支援が大きく遅れることもある。
「私たちは災害救援のプロだという自覚を持ち、例え五分五分の判断を強いられたとしても、災害時の知識や経験を持たない人よりもほぼ正しい判断を下せるという自信を持ってオペレーションマネージメントを行うことが大切です」(大友さん)
そして緊急援助隊は政府のチームであり、誰のために行くのかを考え、相手の政府や被災者の負担を少しでも軽くするのが自分たちの仕事だと忘れてはならないと付け加えた。

今回のネパール地震緊急援助活動において医療チームは、一次隊と二次隊合わせて延べ987名の診療、22件の手術(現地病院における手術支援を含む)を行い、活動は現地で高く評価され、ネパール政府からは隊員一人ひとりに感謝状が授与された。
JICAは、これら一連の緊急援助活動後も、ネパールの復旧・復興のために切れ目のない効果的な支援を実施していく。

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