1. 「日本赤十字社」が進める世界中の災害、戦争・紛争から人々を守る国際活動 ~後編~

社会貢献ジャーナル

「日本赤十字社」が進める世界中の災害、戦争・紛争から人々を守る国際活動
~後編~

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国際活動で日本赤十字社が行う二つの活動

日本赤十字社の国際活動としての医療救護は、大きく分けると二つの分野に分かれる。一つは赤十字国際委員会(ICRC)が行っている戦傷外科のような、医療そのものの活動。災害時には、怪我人だけではなくて病人や妊婦に応対もしなければならない。そしてもう一つは、プライマリーヘルスケアと呼ばれる保健衛生活動だ。

被災地や紛争地でもない場所、例えば貧困などで苦しむ国・地域で多くの人々の健康を守り病気を予防する活動だ。子どもに予防接種を行い、安全な水を確保して感染症を減らす活動や、マラリアなどの伝染病を防ぐ知識を教育するなどで人々の命を守る。トイレの指導など生活形態の改善教育もここに含まれる。

スマトラ、アチェの大津波における救援活動

教育支援事業教育支援事業
住宅再建事業住宅再建事業

ここで、日本赤十字社が実際に国際救援の現場でどのような活動を行うかについて触れてみたい。

2004年12月26日、インドネシアのスマトラ島北西沖のインド洋で発生したマグニチュード9.1の大地震は巨大津波を起こし、インド洋沿岸諸国で約30万人の死者・行方不明者を出す大惨事となった。日本赤十字社が救援に向かったのは、インドネシア国内で最も甚大な津波被害を被ったアチェ州だった。

「当時のアチェ州は、独立を求める武力組織とインドネシア国軍の紛争地帯で、外国人はほとんど入っていませんでした」と説明してくれたのは、豊富な国際活動経験を持つ日本赤十字社・国際部国際支援統括監の粉川直樹氏。「そこに大地震が起こり、大津波が発生した。スリランカからは被害情報が入ってくるのに、アチェからはなかなか情報が入ってこない。情報が入ってこないということ自体に、被害の大きさを想定しました」と続ける。

様々な能力を持った人たちが救援に向かう

ERUでの診療ERUでの診療

現地の混乱から国際赤十字内の調整が難航したが、「とにかく私たちが持っているERU(=Emergency Response Unit、緊急対応ユニット)を現地に派遣することを決めました」(粉川氏)。ERUとは、水や電気などのインフラや建物さえなくなってしまった場所に入り、テントで医療活動ができるようにするものだ。

日本赤十字社は緊急事態や大規模災害発生に備え、緊急出動が可能な資機材と、これらを使って医療活動ができる訓練された専門家チームを整備している。

「物資総量は10トンくらいになるので、チャーター機を確保する必要があります。ところが各国の救援団体が一斉に緊急輸送に動いたことと、年末年始にかかってしまったことからなかなか機体や発着枠が確保できず、初動から苦労しました」(粉川氏)。

混乱した現地では、空港から被災地に輸送する際、荷物が別の場所に届けられたり、届いているはずなのに荷物が全部揃っていなかったりで、出足が難しかったという。どのオペレーションでも人を入れて物を送るというロジスティックが非常に大変で大事なことだ。
ERUは発電機や浄水器、診療所となるテント、スタッフが生活する住居、冷蔵庫やテーブル、椅子など、緊急救援に必要なものがセットになっている。それに対応する人員は、医者が2人、助産師を含む看護師が4~6人、機材を整備したり動かしたりする技術関係者が2~3人、資金管理や記録など管理スタッフが2人と、10人を超える体制になる。

緊急医療活動は短期間で収束する。しかし災害の中で環境が悪化すると、気管支系統の病気や慢性病の患者が増えてくる。伝染病も流行る可能性が高まる。そのため現地の医療サービスが正常に回復するまで3~4カ月は現地に残ることが多い。日赤チームもほぼ4週間毎に交代するからかなりの数の要員を抱えておく必要がある。復興支援では、医療施設の再建に加えて、地域の衛生環境の改善や健康教育の推進に数年を費やすことが多い。

カンボジア難民救援の経験

このように、近年の日本赤十字社の国際活動で指揮を執る粉川氏の救援活動の原点は1979年のカンボジア難民救援だという。

「僕の原点は、タイとカンボジアの国境でカンボジア難民を救援した時です」と当時を振り返る。「当時カンボジア難民に混ざって、ベトナム難民も陸路、タイを目指していました。彼ら彼女らがタイ国境にたどり着く直前の20Kmほどの森林地帯が最も危険な地域で、そこを抜けると国際赤十字が運営している野戦病院に着きます。そこまで来れば『命が助かった』ということなのです」。

粉川氏は無線で連絡が入ると野戦病院へ車で迎えに行き、ベトナム難民用のキャンプに保護する。「赤十字のバッジを付けた私に安堵の表情を見せる人たち、この仕事は素晴らしいと思ったのです」。

若き医療関係者へのメッセージ

仮設診療所で薬を処方する看護師仮設診療所で活動する看護師

粉川氏はまた、若い医療関係者にメッセージを送る。
「国際活動の分野で働きたいと思っている人は、まず異文化の中で生きる柔軟性を持つ必要があります。私が若いころソマリアの難民救援に従事した時は、ソマリア人スタッフとスイス人やドイツ人、スェーデン人の同僚と一緒に働きました。言葉も含め、習慣や考え方が違う異文化の中でも動じない精神力を持って欲しい」と訴える。

さらに「熱帯医療や戦傷外科などの知識は講習や訓練を経て学べます。過酷な環境下でのミッションをいくつか経て、初めてこの分野でやっていける自信がつくものです。」と語った。

赤十字に不可欠なボランティア

診療を待つ患者さんへの声がけ診療を待つ患者さんへの声がけ

最後に、国際活動だけではなく赤十字の仕事全般において、非常に大事なボランティアについて触れておきたい。
どこの赤十字でも地方の端々までネットワークを持っており、それぞれにボランティアが登録されている。ボランティアには二種類あって、一つは赤十字の組織に属するものです。例えば災害があった時に、赤十字の仕事に特定の形でコミットし、登録してスタンバイしている方々。業務に必要な訓練を行い、機器などを常時準備している。救急法の指導者なども含みます。

もう一つは、赤十字が健康教育などの事業を行う時に一定の期間、地域で働いてもらうために募るもの。いわゆる地域に属するボランティアだ。こういう人たちなしでは、地域の保健衛生や防災のボランティアは成り立たない。
「世界中に億単位でいます」と粉川氏は教えてくれた。「日々の生活の中で、時に発生する大災害の現場で、またはシリアの紛争下において、赤十字はボランティアの方々なしに、赤十字の使命である人道援助を届けることはできません。ボランティアは私たちの活動を担う根幹なのです。」

日本赤十字社は、150年変わらず掲げた使命に共感する人々に支えられ、国内外や政治、宗教、信条の立場を超えて、多くの命を助けるために活動を続けている。

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