1. 「国境なき医師団」が途上国で展開する医療・人道援助活動 ~後編~

社会貢献ジャーナル

「国境なき医師団」が途上国で展開する医療・人道援助活動 ~後編~

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プログラムの規模、ニーズにより異なるチーム構成

前編では、国境なき医師団の活動理念や活動指針について掲載したが、後編では具体的な活動体制や必要とされている人材について、詳しく追ってみよう。

国境なき医師団(Medecins Sans Frontieres:以下MSF)の現地での活動は基本的に、首都と各地域にチームが配置されている。首都ではコーディネーション・チームとして活動責任者、医療コーディネーター、ロジスティック・コーディネーター、アドミニストレーション・コーディネーター(財務/人事担当)などが各地域のプログラムを統括している。各地域では、プログラム責任者の下、医療チームリーダーおよび医療スタッフ(医師、看護師、助産師、その他医療スタッフ)とロジスティシャン、アドミニストレーターがひとつのチームとして構成されている。

しかし、人員数やメンバー構成は、プログラムの規模や現地のニーズにより異なる。
大きなプログラムでは、海外派遣スタッフが20人、現地スタッフが200~300人のところもあれば、小さなプログラムでは医師が1人、現地スタッフが数名のところもある。その他、現地の医師とチームを組むなど、状況により様々なケースがあるため、的確な判断力と状況に応じた柔軟性が必要とされる。現場では、国や職種による隔たりはなく、誰でも自分の意見を出し、話し合える環境のなかで援助活動にあたっている。

求められている医師の資質と能力は

MSF日本の広報部、竹内詠味子さんは、MSFが必要とする医師について以下のように話す。MSFの活動に興味がある方は是非、参考にしてほしい。

・ 活動理念(MSF憲章)に賛同され、自信と意欲を持って取り組める方。
・ 異文化への適応力がありチームワークを築ける方。
・ 厳しい生活環境に耐えるなど、ストレスに対処できる能力や柔軟性のある方。
・ 英語またはフランス語での業務遂行が可能な方。
・ ある程度の経験とスキルを持ち、臨床経験または実務経験で2年以上のブランクがない方。

ヨルダンでのMSFの活動の様子  ©Ton KoeneヨルダンでのMSFの活動の様子 ©Ton Koene

「日本で使用しているような医療器具が揃わない環境がほとんどです。また、例えば現場に産婦人科医がいない場合、外科医に帝王切開をお願いすることもあります。MSFの現場で、特定の職種に求められることが多いスキルについては、応募前にできるだけ経験を積んでいただけるよう、お勧めしています。現地では、日本との症例の違いに驚かれる方も多いと聞きますので、対応力のある先生にご参加いただきたいと思います」。実際に現地で医療活動をするにあたり、諸経費はすべてMSFが負担する。予防接種、健康診断費用、派遣先までの往復航空運賃および国内交通費、ビザ取得費用、派遣に伴う必要書類費用、派遣前研修に伴う諸経費、派遣前後の打ち合わせに伴う宿泊費用をはじめ、現地では住居が提供され、食費と日用雑貨の購入費として日当も毎月支払われる。
給与は職種に関係なく、初回派遣の場合、一律153,106円/月。参加期間が積算で1年を超えると昇給する(職歴による加算あり)。

海外派遣に応募する場合、国境なき医師団(MSF)日本事務局での書類選考を経て、プログラムを運営しているオペレーション・センター(フランス、オランダ、スイス、ベルギー、スペインの5ヵ国)で正式に選考が行われる。その後、日本事務局にて個別面談を行い、正式な登録となる。登録後、派遣地と派遣時期の調整を行う。各段階にかかる時間を考慮し、MSFは派遣に応じられる時期の3~4ヵ月前までの応募を推奨している(派遣に応じられる時期に入ってから実際に派遣されるまでの期間は状況によって異なる)。

長い医療人生の中で、ひとつの経験として参加する

南スーダン派遣時の岩川さん ©MSF南スーダン派遣時の岩川さん ©MSF
イラク派遣時の岩川さん ©MSFイラク派遣時の岩川さん ©MSF

前編では、MSFの活動に参加することのメリットを岩川さんに語っていただいたが、実際には過酷な状況下に身を置く活動において、難点として考えられることは何だろうか。また、MSFの活動希望者へのアドバイスを伺ってみた。

「海外では、医師が人道援助に参加することが一つのステイタスであり、大きなキャリアに結びつくことが多いのですが、まだ日本では理解が薄く、日本での仕事を続けながら海外援助活動へ参加することが難しい現状も多いと思います。女性であれば結婚、出産のタイミングを計るのが難しいというのも不安材料のひとつかもしれません。まずは、経験者の話を聞かれることが一番だと思います」と竹内さん。

日本の職場の理解を得られる場合は、短期間の休職期間等を得て海外派遣に応じ、派遣後は元の職場に戻って業務を続けるというケースが考えられる。または、日本での仕事は退職して、海外派遣に参加するケースが考えられる。

派遣の期間は各職種やプログラムの内容によって異なるため、帰国後の過ごし方は個人によって様々だ。次の海外派遣に出るまでの待機期間であったり、休暇として過ごす医師もいる。また、短期の仕事を見つける医師や、次の派遣に役立つ勉強や語学を磨く医師もいる。待機期間中はMSFとの雇用契約はないため、自分の中でしっかりとした人生プランを考える時間を取ることが不可欠である。そうした上で、次の活動への参加を決める必要があるのだ。

MSFでは海外派遣スタッフが帰国した際、事務局のスタッフとMSFでのキャリア構築について相談し、次の派遣先を検討したりスキルアップを図るためにMSFがトレーニングへの参加を薦めるなど、サポート体制もしっかりしている。
人道援助経験を求める医療現場も近年は増えつつあるが、帰国後にへき地医療に従事するスタッフに関しては、自らの意志で向かっているという印象だそうだ。
帰国後に日本の地方・僻地医療に従事する道を選択している医師もいる。

MSF日本は、より多くの人に取り組みを知ってもらうため、全国各地で海外派遣スタッフ募集説明会や活動報告会を定期的に開催している。説明会では、リクルーターと海外派遣経験者が出席し、MSFが世界各地で展開する活動、採用基準、採用手順についての情報を提供。ライブ配信するウェブ説明会も行っている。

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