1. 「国境なき医師団」が途上国で展開する医療・人道援助活動 ~前編~

社会貢献ジャーナル

「国境なき医師団」が途上国で展開する医療・人道援助活動 ~前編~

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約70の国・地域で医師や看護師が活躍

国境なき医師団(Medecins Sans Frontieres:以下MSF)は、中立・独立・公平な立場で医療・人道援助活動を行う、民間・非営利の国際団体である。1971年にフランスで設立され、1992年に日本事務局が発足。現在は、世界各地に28の事務局を設置している。

MSFの活動目的は、緊急性の高い医療ニーズに応えることだ。紛争や自然災害の被害者、貧困など様々な理由で保健医療サービスを受けられない人々を中心に、対象は多岐に渡る。
まずはその活動理念、および行動原則を示すMSF憲章から見ていこう。
活動指針は「医の倫理」と人道援助が主軸。

MSF憲章
  • 国境なき医師団は苦境にある人びと、天災、人災、武力紛争の被災者に対し人種、宗教、信条、政治的な関わりを超えて差別することなく援助を提供する。
  • 国境なき医師団は普遍的な「医の倫理」と人道援助の名のもとに、中立性と不偏性を遵守し完全かつ妨げられることのない自由をもって任務を遂行する。
  • 国境なき医師団のボランティアはその職業倫理を尊び、すべての政治的、経済的、宗教的権力から完全な独立性を保つ。
  • 国境なき医師団のボランティアはその任務の危険を認識し国境なき医師団が提供できる以外には自らに対していかなる補償も求めない。

主な活動地は、アフリカ・アジア・南米などの途上国。
2013年のデータでは、医師、看護師をはじめとする3万6000人以上の海外派遣スタッフ・現地スタッフが、約70の国と地域で活動を行っている。うち、MSF日本からは24の国と地域に71人のスタッフを延べ96回派遣した。2014年は、エボラ出血熱など緊急援助を含めると日本から126回の派遣が行われており、派遣者数、派遣率は年々増加傾向にある。

MSFは独自の調査に基づいて、医療・人道援助を行う必要があると判断した場合に都度活動プログラムを立ち上げている。直接的な医療活動だけでなく、清潔な水の確保、食糧・生活用品など緊急援助物資の配給、病院の再建や運営支援、病気にかかるリスクを減らすための健康教育といった活動も行っている。加えて「必須医薬品キャンペーン」として、経済的な事情や地理的要因など様々な理由で医薬品が手に入らず困っている人々を援助するため、各国政府や国際機関、製薬企業などに対し、政策提言活動も展開しているのが特徴だ。また、こうしたMSFの活動は、民間の企業・団体からの寄付で成り立っている。

医療は手当。医療の原点を思い出させてくれる

MSF日本の小児科医 岩川さんMSF日本の小児科医 岩川さん
イラク派遣時の岩川さん ©MSFイラク派遣時の岩川さん ©MSF

MSFのプログラムの大半は開発途上国で展開されている。その舞台のひとつ、南スーダンでは紛争が長引き、マラリア流行などの問題が深刻化している。MSFが全国10州のうち9州で活動している25件のプログラム(2014年11月時点)のうち、2014年6月~12月の期間、西エクアトリア州・ヤンビオのプログラムに参加したMSF日本の小児科医、岩川眞由美さん(61歳)は次のように語っている。

「入院ベッド70床、外来患者が1日100人程いるキャンプで活動を行いました。その地域ではマラリア感染での死亡者が多いため、MSFはマラリアに非常に有効な薬を用意しています。チームのロジスティシャン(物資調達などを行う)が迅速に輸送してくれたおかげで、感染した子どもでも、早期に注射をすれば助けることができました。

その逆に、受診するのが遅れた子どもは助けてあげることができず、毎日大きな喜びを感じられるとともに同じだけの悲しみがありました。私たち医師と看護師が治療にあたるのと同時に、教育担当のメンバーが村々を回り、保健知識の教育をしながら蚊帳を寄付し、感染予防の周知にも努めました。自分たちが帰った後のことを考えながら、物資や薬の支援を行う別の支援団体に引き継ぎを行うなど、地域のベースが下がらないように支援活動を行うのがMSFの基本です」。

医学部時代から、「医療の足りない国や地域で働く医師になる」という将来像をイメージしていた岩川さんだったが、大学病院での勤務は多忙を極め、なかなか夢には届かなかったという。しかし、MSF日本が医師、看護師の募集を開始したことを知ると、1997年よりMSFの活動に参加し、1998年に中国・広西チワン族自治区へ派遣された。2013年には大学病院を早期退職。2013~2014年、イラクへ派遣。3回目の活動参加で南スーダンに派遣された。今後も半年間のスパンを空けて、自分のペースでMSFの活動に専念していきたいと考えている。

岩川さんに、MSFの海外派遣スタッフとして参加することの意義を聞いた。

「怪我に対処することをよく『手当』と言いますが、まさに現地での医療は手当です。画像診断などの機器はなく、本当に聴診器と手だけで診察していきます。患者さんを正面から見て、そして健康状態を診る。これが医療の原点だと思い起こさせてくれました。本当の意味で、自分が手に職としてつけた医療技術が誰かの役に立つことを自覚させてもらえる。そして患者さんから多くのことを学び、成長させてもらいながら、たくさんの喜びをもらうことができました」。

マネジメント訓練も充実。「世界の医療人」として成長できる

スーダンでのMSFの活動の様子 ©Anna Surinyach/MSFスーダンでのMSFの活動の様子 ©Anna Surinyach/MSF

現地では、文化の異なる様々な国のメンバーと生活を共にし、日々ディスカッションが繰り返される。医師として自分の意見を主張すること、人の意見を聞く力を持つことが求められる。

「MSFは教育制度も充実しています。多様な文化の中で自分がどのように接していけばお互いの理解を深められるかというマネジメントの訓練を受けました」と岩川さん。

医療のスキルだけでなく、歴史や文化を学びながらコミュニケーション・スキルを身につける。本当の意味で、"世界の医療人"として成長できることも大きなメリットであろう。

岩川さんは「若い時でも、働き盛りの時でも、私のように少し定年を早めた歳の医師でもいい。自分の長い医師人生の中のどこかの期間、ひとつの経験としてMSFの活動に参加することをお勧めしたいです。現地から戻ると患者さんに接する対応が変わり、自分の医療も確実に変わっていくと思います」と言う。

今までの価値観を大きく覆し、そして成長のきっかけとなっていく。MSFで活動する方法について、次回さらに迫っていく。(後編に続く)

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