1. 「ジャパンハート」がアジアの無医村地帯で進める医療ボランティア活動 ~後編~

社会貢献ジャーナル

「ジャパンハート」がアジアの無医村地帯で進める医療ボランティア活動 ~後編~

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1週間の短期でもOKの海外医療ボランティア

現地の通訳と意思疎通を図りながら子どもの症状の診断をする、若き日本人医師。現地の通訳と意思疎通を図りながら子どもの症状の診断をする、若き日本人医師。

国際医療支援活動に関心を持っていても長期休暇を取れないことで活動への参加を諦めている医師や看護師もきっと多いことだろう。
そんな人でも、1週間ほどの休暇を利用して途上国へと赴き、実際に医療活動を行えるスキームを編み出したNPOがある。

国際医療ボランティア団体「ジャパンハート」は、アジアの途上国や日本の僻地といった「医療の届かないところ」に医療を届ける認定NPO法人。現在、活動を展開している地域は、ミャンマー、カンボジア、ラオス、フィリピン、タイ、インドネシアなどだ。

ジャパンハートでは常に医師と看護師を募集している。外国語力、専門科、経験年数は問わない。自分の専門科にとらわれず、派遣されたところでは何でもやる――くらいの柔軟さで関わるのがちょうどいい。
海外の受入れ側とスケジュールを調整の上、派遣先の国が決まったら、出発の45日前までに英文医師免許証(看護師は英文医療免許証)を用意。派遣先によってはミャンマーのようにビザが必要な国もあるので、それは自身で申請する。

派遣される医師は"お客様"などではなく、あくまでもボランティアであるため、渡航費用(ミャンマーの場合で15万円から20万円、カンボジアの場合で約15万円)や海外旅行傷害保険はすべて自己負担。活動地の宿泊や食事はジャパンハートで用意するが、巡回診療や手術のための実費である「参加費」(初回参加6万円、2回目以降3万円)もかかる。

ミャンマーでは、常駐しているジャパンハートの医師が中心となり、医師と看護師が村に常駐し、現地人スタッフと共同生活をしながら医療活動を行うのに対し、カンボジアでは、短期ボランティアの医師と看護師が主体となって、巡回診療や手術をしている。ジャパンハートでは、無医村を巡回するこうした活動のことを「モバイル診療」と呼んでいる。

カンボジアの無医村を医師と看護師で巡回する「モバイル診療」の様子。カンボジアの無医村を医師と看護師で巡回する「モバイル診療」の様子。

カンボジアの医療状況を一言で言えば、箱(病院施設)はあるけれど、中身(医師)がない――ということになる。カンボジアでは、1970年代のポルポト政権下で発生した、医師や教師といった知識人に対する大虐殺により、医師は国全体で一時、40名ほどにまで激減。大虐殺を生き延びることのできた医師が、たったそれだけしかいなかったのだ。必然的に医療のレベルも著しく低下し、「国全体が医療過疎地域」のような危機的状況に陥ったのである。

それを踏まえ、ジャパンハートのカンボジアにおける活動は、首都・プノンペンに看護師スタッフが駐在し、マネージメントを行いながら、医療支援が必要な地方に医師や看護師を派遣していく形態をとっている。

知識や技術さえあれば救える命は確実に増える

ラオスでの子どもの手術。執刀は日本人医師が担当し、場合によっては現地の医師や看護師もサポートで加わる。ラオスでの子どもの手術。執刀は日本人医師が担当し、場合によっては現地の医師や看護師もサポートで加わる。

海外医療ボランティアに参加する医師らの1日のスケジュールは、「手術ミッション期間」とそれ以外の日で大違いだ。

手術ミッション期間とは、手術を集中的に行う日のこと。午前6時起床、同8時半から手術開始で、お昼休みはあるものの、午後5時まで手術が続く。1日あたり10~20人の手術をこなし、患者数によっては午前5時起床、手術終了が午後9時ということもある。

一方、手術のない日は、病棟内の掃除や患者への処置が主な仕事で、午後6時以降は自由時間。医療専門家を目指す現地の若者たちとの交流や、異文化に触れる絶好の機会ともなる。

医療ボランティア活動を展開する国々では、現地の医師たちにBLS(一次救命処置、Basic Life Support)の基本知識から教えることもある。医師でさえ、心臓マッサージのやり方を間違えていることがあり、医療支援の際に正しいやり方を指導するのだ。
こうしたトレーニングは、ミャンマーやカンボジアと国境を接するラオスでも実施され、ラオス最大の国立病院では375名の全看護師を対象に、およそ10か月をかけてBLSの指導を行った。医療の現場にBLSや応急処置の知識や技術さえあれば、救える命が確実に増えていくからだ。

「子どもたちを何とか助けてあげたい」という夢を具現化

ラオスの小児がん患者・ナムソムちゃん(1歳半)を診察する吉岡秀人・ジャパンハート代表(小児外科医)。ラオスの小児がん患者・ナムソムちゃん(1歳半)を診察する吉岡秀人・ジャパンハート代表(小児外科医)。
ラオスでの診療拠点に、母親に付き添われ、不安げな面持ちで来院した男の子。ジャパンハートの医療スタッフが優しく寄り添う。ラオスでの診療拠点に、母親に付き添われ、不安げな面持ちで来院した男の子。ジャパンハートの医療スタッフが優しく寄り添う。

ジャパンハート代表の医師・吉岡秀人さん(49歳)の専門は、小児外科。今回の取材時はミャンマーでの医療支援活動に従事中で、お話を直接伺うことはできなかったが、昨年度の年次報告書の中で、吉岡さんは次のように語っている。

「ジャパンハートを設立した10年前、たった数人ではじめた活動が、多くの人の協力を得て、たった数人ではとてもできない成果を与えてくれるようになりました。その成果は、数万人の子どもたちの健康の回復であり、人生の質の向上でした。

この間に私が悟ったことは、医師として、子どもたちを何とか助けてあげたいという私の個人的な欲求が、実は多くの人たちと同じ欲求であったのだということでした」

現在ではジャパンハートの活動も、サイクロン(台風)で発生した災害孤児の養育支援や、難病の子どもたちを日本に搬送し、日本の医療機関で治療するプロジェクト、そしてミャンマーに続いてカンボジアでも医学生・看護学生を支援する奨学金制度「夢の架け橋プロジェクト」を始動させるなど、年々幅広くなってきている。

日本国内では、小児がんの子どもとその家族に家族旅行をプレゼントし、楽しい思い出作りをサポートする「すまいるスマイルプロジェクト」を展開中だ。子どもの旅費と付き添いスタッフ(医師・看護師)の旅行代金はジャパンハートで負担(家族の旅費は家族負担)。旅先は東京ディズニーリゾートが人気という。

「医療の届かないところに医療を届ける」ジャパンハートのチャレンジは、これからのボランティア医療の可能性を、私たちに指し示している。

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