1. 「世界の医療団」が進める被災地支援「福島そうそうプロジェクト」 ~後編~

社会貢献ジャーナル

「世界の医療団」が進める被災地支援「福島そうそうプロジェクト」 ~後編~

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「つくる会」と連携し、包括的な医療・保健サービスを展開

「世界の医療団」が、東日本大震災で医療体制が崩壊した福島県相双地区の精神科医療の復旧を支援するため立ち上げた「福島そうそうプロジェクト」。相双地区のクリニックやケアセンターに医師・看護師の派遣や医療機器の提供などを行っている。

後編では、同プロジェクトが支援するNPO法人「相双に新しい精神科医療保健福祉システムをつくる会(以下、つくる会)」(理事長・大川貴子福島県立医科大学看護学部准教授)の活動について紹介しよう。つくる会の活動は3年目に入り、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や認知症など個別ケースに対し包括的なケアを提供するシステムの構築が進んでいる。

避難生活の長期化、復興の格差がストレスに

土曜日に開催するサロン活動「ちょっとここで一休みの会」は、ふだん家に閉じこもりがちになりやすい小さい子どもを持つ母親が、親子で参加し、遊びながら気軽に専門スタッフに相談できる場となっている。土曜日に開催するサロン活動「ちょっとここで一休みの会」は、ふだん家に閉じこもりがちになりやすい小さい子どもを持つ母親が、親子で参加し、遊びながら気軽に専門スタッフに相談できる場となっている。
サロン活動で専門スタッフの指導のもと体操する参加者。定期的にサロンに参加することで、生活にリズムができ、健康維持につながっている。サロン活動で専門スタッフの指導のもと体操する参加者。定期的にサロンに参加することで、生活にリズムができ、健康維持につながっている。

福島県立医科大学の神経精神医学講座が中心となって設立したNPO法人「つくる会」は、2012年1月、活動の拠点となる「相馬広域こころのケアセンターなごみ」を福島県相馬市に開設。同時にオープンした医療法人「メンタルクリニックなごみ」と連携し、相双地区に新たな精神科医療保健福祉システムを構築するため活動している。
震災から3年が経ち、復興が進む地域もある一方、いまだに多くの人が仮設住宅で暮らし、さまざまな心の問題を抱えている人も少なくない。

世界の医療団が実施する「福島そうそうプロジェクト」では、こころのケアセンターとメンタルクリニックに医師や看護師を派遣し、つくる会と協働して被災地に暮らす人たちの心のケアに取り組んでいる。
こころのケアセンターなごみは、仮設住宅で定期的にサロン(集団)活動を開催し、被災者の健康相談や健康診断を行っている。心の問題を抱えている人を早期に見つけ、クリニックでの治療につなげるためだ。

サロン活動では参加者は、血圧の測定や心の状態を把握する"フェイスシート"を記入した後、お茶を飲みながら折り紙や人形づくりなどを楽しむ。看護師たちはときにはいっしょに折り紙を折りながら、フェイスシートをもとに参加者の話を聴き、悩みや不安が軽減されるようにアドバイスし、治療が必要だと判断した場合はクリニックでの受診を勧める。
仮設住宅のサロン活動の参加者は高齢者が多いが、ほかに避難者の親子を対象にしたサロン活動や、精神障害者が集うサロン活動もあり、保健師や臨床心理士など専門資格をもったスタッフがケアに携わっている。

仮設住宅で行った聞き取り調査で、「仮設住宅から退去して新しい生活を再建する人が増えていて、取り残される不安や寂しさ、コミュニティのつながりが希薄化する実感がある」といった声が寄せられた。また、「仕事がなく生活リズムが乱れてぐっすり眠れない」との声があり、先行きの見えない不安感が長期化し、身体の不調となって現れてきていることがわかった。

相双地区の被災者をとりまく状況には、大きく4つの問題があるという。

1つめは 復興の格差。これは、障害のある人や高齢者などの生活弱者は生活再建が困難な状況にあり、復興が進む周囲の人々との間に格差が生じているという問題。
2つめは、仮設住宅という地域コミュニティの再構築の必要性。これは、環境の変化が認知症に与える影響は震災以前から指摘されていたことだが、仮設住宅で避難生活を送る高齢者の間では認知症の悪化が深刻な問題となっており、仮設住宅をひとつの地域社会として人間関係を再構築する必要が生じている。
3つめは避難生活の長期化によるストレスの増大。被災者は、長期にわたる避難生活により、不眠などの身体症状を訴えるケースが増えていることや、運動不足や偏った食事による生活習慣病の悪化が指摘されている。
4つめは精神科医療体制の回復が不十分であるという問題。また、避難生活によって治療が中断されてしまった精神障害者や、心のケアが必要な人を見つけ出し、治療につなげることも課題となっている。

これらの問題に対応するために必要な医療・福祉スタッフの不足も関係者を悩ませているが、世界の医療団の福島そうそうプロジェクトでは、精神科医、看護師、臨床心理士を派遣し、精神科医療の回復と充実を図っている。
こころのケアセンターなごみの米倉一磨センター長は、「世界の医療団は、週1回という高い頻度で同じ人を派遣してくれますから、患者さんを担当してもらうことができるのでとても助かっています」と話す。同じスタッフが継続的に担当することは患者にとっても、安心してケアを受けられるという大きなメリットがある。

相双地区の心のケアを全国モデルに

つくる会は、個別相談を行った内容をもとに、患者ニーズの高い6分野(PTSD・放射能不安、自殺問題、アルコール問題、精神障害者、子ども、高齢者)ごとに課題を整理し、新たな対策を打ち出した。これまでは心のケアが必要な人を拾い上げるだけだったが、今後は分野ごとに専門的な視点から介入することを目指し、スタッフのスキルアップやケア体制づくりを進めていく。
たとえばPTSDでは、本人が症状を正しく理解し、初期のうちに治療を受けることが課題となるため、講演会などを開催し、住民にPTSDに関する知識を伝え、セルフ・モニタリング力を高めることにより、病気の早期発見につなげる。

また、認知症患者に対しては、初期の介入とBPSD(行動・心理障害)への対応を強化。福島県外から認知症医療の専門家を招き、アセスメントやケアについて助言を受け、スタッフのスキルアップをはかる。
さらに今年4月、精神科の訪問看護を行う「訪問看護ステーションなごみ」が開設し、訪問看護ステーション、こころのケアセンター、メンタルクリニックの3施設が連携して、包括的な医療・保健サービスを提供する体制が整った。
米倉センター長は「相双地区は、震災をきっかけに心のケア体制の脆弱さが浮かび上がったといえます。ここでの取り組みをモデルとして全国に発信し、多職種による心のケア体制を全国に広げたい」と話す。

世界の医療団が実施する「福島そうそうプロジェクト」も引き続き、つくる会の活動を支援していく方針だ。震災直後から支援のため被災地に入り、「心のケアチーム」のころから活動に参加している小綿一平医師は、現在神奈川でクリニックを開業している。小綿医師は、「世界の医療団は息の長い支援が特徴のひとつです。ある震災ボランティアの方はとにかく10年続けましょうとおっしゃっていました。私もこの東日本大震災を経験した同時代人として、そして残念ながらこれからも発生する可能性のある各種災害において、必要とされる限り微力ながら支援を続けていきたいと思っています」と話している。
なお、「つくる会」では継続的な活動を支えてくれる会員を募っている。

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