1. 【第18回】精神病院のいまとこれから 『ブラックジャックによろしく』×西脇健三郎(医療法人志仁会西脇病院理事長・院長)

著者とモデルを直撃! 医療マンガ・ドラマの裏話を教えます!

【第18回】精神病院のいまとこれから
『ブラックジャックによろしく』×西脇健三郎(医療法人志仁会西脇病院理事長・院長)

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精神医療の実際を少しでも多くの人に理解してもらいたいと、 「ブラックジャックによろしく」作者の体験入院を受け入れ、自身も指導医・伊勢谷のモデルとなった、西脇氏を尋ねた。

『ブラックジャックによろしく』佐藤秀峰(作者)
テレビドラマ『ブラックジャックによろしく』(出演・妻夫木聡、国仲涼子、鈴木京香、綾瀬はるか)


© ブラックジャックによろしく/佐藤秀峰 作/漫画on Web

永禄大学医学部を卒業した斉藤英二郎は25歳。永禄大学附属病院で研修医として働くことになる。医師になるには医師免許を取得してから2年間、実際の医療現場の指導医について臨床研修を受けなければならない。卒業時には医者としての理想を抱き希望に燃えていた英二郎だったが、その月給は3万8000円。親元を離れての一人暮らしにはそれだけでは足りない。他の病院で夜間救急の当直医のアルバイトをすることになる。患者のためを思い奔走する毎日だが、臨床研修制度の不条理さ、医局の都合により歪められる医療、健康保険制度の矛盾、患者や家族との葛藤などを経て研修医・英二郎は成長してゆく──。連載開始後すぐに大反響を巻き起こし、医療漫画に新しい地平を切り開いた作品として高い評価を得ている。

2002~06年に講談社『モーニング』で連載。「第一外科編」、「循環器内科編」、「NICU(新生児集中治療室)編」、「がん医療編」、「精神科編」と続く。
2002年第6回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。2007年から小学館『ビッグコミックスピリッツ』に発表の場を移し『新ブラックジャックによろしく』と改題し連載(移植編)を再開した。2010年シリーズ連載終了。「精神科編」(単行本9~13巻)の指導医・伊勢谷のモデルが西脇健三郎氏で、研修先の精神科病棟は西脇病院がもとになっている。
また、テレビドラマ『ブラックジャックによろしく』が2003年4月11日~6月20日、TBS系列の「金曜ドラマ」枠で放送された。

自発的入院患者が多いわけ

私の父の生家は江戸時代から続く村医者でした。大正生まれの父は、第2次世界大戦中は軍医として戦地に赴き、終戦後は地元の大学の付属病院精神神経科に勤務。そこで精神鑑定医(現在の精神保健指定医)の資格を取って、西脇病院を開設します。1957年(昭和32年)、私が10歳の時です。

昭和30年代初頭は、精神病院の開設ラッシュを迎えていました。1954年の全国精神障害者実態調査で入院を必要とする患者が35万人いたのに対して、当時の精神科病床は3万しかなかったのです。そのため、国は精神衛生法を改正し、民間病院の開設に国庫補助規定が設けられ、特別低利で病院を建てられるようになりました。さらに措置入院患者の入院費に対する国庫負担率が引き上げられ、「病院を建てて患者さんを集めれば経営が成り立つ」図式ができあがったのです。その後、全国の精神病院では社会の保護収容の要請に応えるかたちで入院患者を増やしていきます。

父の急逝にともなって私が西脇病院を引き継いだ1982年には、定床260に対し300人を超える入院患者がいました。開設当時の病床数が56ですから、25年で5倍近く増えたのです。当時の行政は超過入院に対しては寛容で、むしろ増床を勧めていました。ところが、私は患者さんをどんどん退院させるほうに舵をきります。

その背景には、疾病構造の変化があります。1980年代に精神科医療の主流だった統合失調症は、糖尿病や高血圧と同様、慢性疾患です。ただ、90年代以降の薬物療法の進歩で、速やかな改善と寛解を維持することが可能となってきている病といっていいでしょう。また、統合失調症は洋の古今東西を問わず、100人に1人が発症するといわれています。好発年齢は10代後半から20代。団塊の世代がその年齢に達する1970年代には入院患者が急増しました。しかしその後、人口の減少とともに、母数が減れば子数の患者数も減り、加えて、先に述べた薬物療法の進化などで通院治療のみで症状が安定することから、統合失調症の新規入院が占める割合は減少傾向にあります。当院でも開設当時は初診の患者さんの半数以上が統合失調症でしたが、徐々に減り、現在は10%以下にしかすぎません。

そんな統合失調症の減少傾向にも関わらず、精神疾患は増加しているのです。そして、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病に精神疾患が加わった、五大疾病の時代となりました。なかでも精神疾患は最も多く、がんの2倍以上。うつ病などの気分障害、ストレス関連疾患や依存症の増加はもちろんですが、最近指摘されている睡眠負債による心身の不調を訴える患者さんの受診増もあるようです。また、別の要因として、全国で精神科医が心療内科を標榜するクリニックの開業が相次いだことで、精神科を受診するハードルが低くなってきたといえるでしょう。これは、これまで精神病院に長期入院していた統合失調症の患者さんの地域移行の促進と相まって、今日、精神医療政策として推し進められているところです。

そこで精神科救急対応が求められることから、精神科救急入院料病棟が設けられました。その取得要件は、「6割以上が3か月以内に自宅退院すること」、「4割以上が新規入院(3か月以内に精神科に入院歴のない患者)であること」、加えて「年間の入院患者の6割以上が非自発的入院(任意入院でない)であること」となっています。そして、それは精神科で最も高額な入院医療費を請求できる病棟です。昨今、病院経営の上では当然のことですが、この精神科救急入院料病棟の届け出が増えています。そのためかどうか分かりませんが、医療保護入院、つまり非自発的入院が増加しているのです。

私はこの現象を先祖返りと言っています。先に述べたように統合失調症は減少傾向にあり、うつ病などの気分障害、ストレス関連疾患や依存症が増加しています。よって、非自発的入院を要する対象の精神科疾患は少なくなっているはずです。たとえ救急処遇が必要だとしても、3か月以内という期間設定には疑問があります。そこで、当院は『精神保健福祉法第20条』に従い任意入院に努めています。年間500名強の入院いただく患者さんは、90%以上が任意入院、つまり自発的な入院です。それは決して容易なことではありません。患者さんとご家族に同意を得てから入院・治療にあたらなければなりません。説得より納得です。原則として病院施設の見学、治療プログラム等を説明した上で入院していただくようにしています。


  • レストラン「たべよう屋」。病院職員、ストレスケア病棟に入院中の方、デイケア通所、外来通院の方が利用できる。

  • デイケアセンター(集団療法室)。

  • 入院患者さんらが利用する男女別の浴室。

職員に秘して作者を体験入院

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これからの精神科に求められること

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