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日本のヘルスケアを展望する ~2018年を未来につなげる地域医療づくり~

講演 3

在宅診療所における医業経営


国保俵津(たわらづ)診療所の運営を引き継ぎ、
年間3,000万円の赤字を初年度で黒字化。
その実績と経験に基づき、ICT連携の活用による医師の偏在対策、
24時間体制の確保といった在宅医療の提供体制を安定させるために
重要なポイントについて解説する。


永井 康徳 氏(医療法人ゆうの森 理事長)

永井 康徳
(医療法人ゆうの森 理事長)

1992年
愛媛大学医学部 卒業
1994年
自治医科大学地域医療学教室
1996年
明浜町俵津診療所 勤務
2000年
たんぽぽクリニック 開設
2002年
「医療法人ゆうの森」設立、理事長に就任
2012年
たんぽぽ俵津診療所 開設
2016年
たんぽぽクリニック 有床化

2000年に在宅専門クリニックを医師1人、看護師1人、事務員2人の4人体制で、患者ゼロから開業した。現在は常勤医11人、多職種の職員100人以上になり、2016年には有床診療所となり、外来を開始した。
2018年2月現在、本院の患者数は570人。新規の患者さんは毎月約40人で看取り数は約15人。看取り段階の患者さんが常時約50人、人工呼吸器(LTV)をつけている患者さんが23人、小児の患者さん(LTVまたは気管切開)が14人いる。
在宅医療は、治らない病、障害、老化に向き合っていくため、単独職種では限界がある。これからは、多職種で連携したチームづくりが大切になる。毎朝一時間ほど、俵津診療所もテレビでつないで全体ミーティングをおこない、患者情報の共有と方針の統一をしている。同じ理念と方針で利用者に関わるには、多職種での議論が重要だ。
今回の診療報酬改定では、患者の状態に応じたきめ細やかな訪問診療が評価されるようになった。在宅医療は、看取り患者や重度患者へのシフトが求められている。

たんぽぽクリニック 施設入居時等医学総合管理料

たんぽぽクリニック 包括的支援加算150点(月1回)対象患者

たんぽぽクリニック 月1回訪問診療した患者を2人診療した場合/月2回以上訪問診療した場合(施医総管の場合)包括的支援加算が取れる患者・取れない患者

たんぽぽクリニックは2016年に有床化し、トランジット、レスパイト、看取りの3つの機能をもたせている。
トランジットは、急性期病院から在宅に帰すときの一時的受け皿だ。レスパイトは、介護者が疲れたときや特別な用事があるときに受け入れる。看取りは、8~9割は最後まで在宅で診られるが、介護力不足や独居で不安がある人には一定のニーズがある。
有床診療所の開設後、病院が在宅は難しいと考える患者さんの紹介が増え、重度化が進んだ。年間看取り数は開設前の65人から、翌年122人、翌々年は159人と増大している。
現在、有床診療所の在宅復帰率は85%で、平均在院日数は約12日だ。いまのところ赤字だが、在宅医療をおこなう診療所が有床診療所をもつことは非常に有用だ。

有床診療所の地域包括ケアモデル(医療・介護併用モデル)の具体例(案)

今回の改定で、ICTを活用した遠隔医療(オンライン診療)が本格的に認められた。月2回の訪問診療はまだ不要と思う在宅患者や毎月の受診は必要ない外来患者について、オンライン診療を活用して、診療の質を高めたり患者さんの不安を解消したりできる。
在宅医療は患者さんがご自宅でご自身らしく生活できるよう支えるものであり、自宅を病院化してしまうような医療者都合の在宅医療にならないよう注意すべきだ。医師偏在の解消には、強制的配置ではなく、へき地に行けるシステムづくりと教育研修機能などインセンティブの供与が必要だ。
私たちは、都市部の医療機関と循環型の、24時間体制の在宅医療をへき地で構築した。松山市の本院からへき地の分院まで、高速道路で約1時間半かかる。曜日ごとに交代で医師がへき地へ泊まり込み、翌朝に次の医師と交代をする。人口1200人のへき地で年間3千万円の赤字だった診療所が4か月で黒字経営になった。

俵津プロジェクトの方法と結果

在宅の看取りでは、意思決定支援は大きな課題だ。在宅の看取りは、今回5000円アップした。その算定要件として、厚生労働省の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を備える必要がある。
意思決定支援で大切なポイントは、家族だけではなく本人の意思を最優先すること、すべての選択肢を呈示して、関係するすべての人と充分に議論すること、それから、家族の重荷に配慮し、気持ちが揺れてもよいと伝えることだ。
多死社会を迎えて、医療の最小化を考える必要がある。亡くなるまで点滴や注入を続けると、過剰な水分で吸引が必要になり、むくみが出て、絶食になる。過剰な水分をとらなければ、人は亡くなる直前まで食べられる。
病院で点滴を受け絶食だった高齢者が、笑顔でムース食を食べられるようになり、自宅に帰る例が本当に多い。
私たちの診療所では、調理師が、味はそのまま見た目も本物そっくりの寿司やハンバーグをムース食で提供している。

たんぽぽのおうち 最期まで食べる食支援の取り組み

私たちは、老老介護や独居でも、たくさん自宅で看取っている。独居の人を自宅で看取る条件は、本人も家族も自宅での看取りを望んでいること、点滴や胃ろうをせずに自然な看取りをおこなうこと、そして「亡くなる瞬間を誰かがみていなくてよい」ことを関わるみんなが理解することだ。
在宅での看取りは、ほとんどの人にとって初めての体験なので、看取りのパンフレットを渡して、これからの変化や対応を説明している。
いまは在宅医療の質が問われる時代になった。質を高めるには、理念(患者への熱い思い)とシステム(ノウハウ)と人財(制度の知識)の3つを高める必要がある。

終末期の医療と介護に関する松山宣言