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日本のヘルスケアを展望する 地域医療構想を実現する医業経営とは

パネルディスカッション

地域医療構想を実現する
医業経営とは


2025年を見据え、大きなステップになるであろう2018年を目前に控え、
これからの地域医療提供体制の中、あるべき病院の姿とは。
各講師への質問から、考慮すべき医療の質や地域医療構想調整会議における課題と展望、
そして病院のあり方や連携体制の構築について議論する。


コーディネーター:
鈴木 康裕 氏(厚生労働省 保険局長)
パネリスト:
佐々木 健 氏(厚生労働省 医政局 地域医療計画課長)
松田 晋哉 氏(産業医科大学 医学部 公衆衛生学教室 教授)
相澤 孝夫 氏(社会医療法人慈泉会 相澤病院 理事長・院長)

コーディネーター

鈴木 康裕 氏(厚生労働省 保険局長)

鈴木 康裕
(厚生労働省 保険局長)

昭和59年
慶応義塾大学医学部 卒業

秋田県立脳血管研究センター・神経内科にて臨床研修。その後、厚生労働省等にて精神保健、環境保健、食品保健、国際保健、老人保健を担当。ハーバード大学公衆衛生大学院にて修士課程修了。

平成10~14年
世界保健機関(WHO)本部(ジュネーブ)にて局長。
平成15年
栃木県保健福祉部長
平成18年
厚生労働省研究開発振興課長として医薬品・医療機器のR&Dを担当
平成21年
老人保健課長として介護報酬改定を担当
平成22年
厚生労働省インフルエンザ対策本部事務次長
平成24年
医療課長として診療報酬改定を担当
平成25年
防衛省大臣官房衛生監に就任
平成26年
厚生労働省大臣官房技術総括審議官に就任
平成28年
厚生労働省 保険局長

パネリスト

佐々木 健 氏(厚生労働省 医政局 地域医療計画課長)

佐々木 健
(厚生労働省 医政局 地域医療計画課長)

和歌山県立医科大学医学部 卒業

平成 5年
厚生省入省
平成12年
広島県福祉保健部健康対策課長
平成17年
厚生労働省九州厚生局医事課長
平成22年
岡山県保健福祉部長
平成24年
厚生労働省健康局
新型インフルエンザ対策推進室長
平成25年
厚生労働省大臣官房総務課企画官(保険局併任)
平成27年
厚生労働省健康局がん・疾病対策課長
平成28年
厚生労働省 医政局 地域医療計画課長
松田 晋哉 氏(産業医科大学 医学部 公衆衛生学教室 教授)

松田 晋哉
(産業医科大学 医学部 公衆衛生学教室 教授)

産業医科大学医学部 卒業

昭和60年
産業医科大学医学部 助手
(公衆衛生学教室)
平成 5年
産業医科大学医学部 講師
(公衆衛生学教室)
平成 9年
産業医科大学医学部 助教授
(公衆衛生学教室)
平成11年
産業医科大学医学部 教授
(公衆衛生学教室)
相澤 孝夫 氏(社会医療法人慈泉会 相澤病院 理事長・院長)

相澤 孝夫
(社会医療法人慈泉会 相澤病院 理事長・院長)

昭和48年
東京慈恵医科大学 卒業
昭和56年
特定医療法人慈泉会相澤病院 副院長
昭和63年
社会福祉法人恵清会 特別養護老人ホーム 真寿園設立、理事長に就任
平成 6年
医療法人慈泉会理事長、同相澤病院院長
平成20年
社会医療法人の認定を受け、社会医療法人財団慈泉会相澤病院に名称変更

現在、社会医療法人財団慈泉会相澤病院 理事長・院長のほか、日本病院会副会長、全国病院経営管理学会会長など、要職を務める。


地域から求められる医療を考える

鈴木貴重な講演をありがとうございました。ご自分の講演の補足やほかの方の講演へのコメントがあればお願いします。

佐々木まずは各地域で話し合いをすることが大切です。各病院がどういう立ち位置にあり、何をめざしていくのか、データに基づいて考えていただければと思います。

松田大事なことは、これからどういう理念で日本の医療をつくっていくかです。高度高齢化社会と少子化による人口減少は、確実に進んでいきます。人口が減るので医療費の総額はほとんど変わりませんが、1人あたりの医療費は増大します。しかも人口の4割がいわゆる年金生活者という状況で、医療をどう経済的に支えていくのか。これからは、医療者は自分たちがやりたい医療ではなく、地域から求められる医療を考える必要があります。

相澤重要なのは、自院の診療圏の範囲を把握することです。疾病ごとに分析すると、自院の現在の姿がはっきりと見えてきます。さらに周りの病院の状況も把握して、話し合いを進めていくことです。今後は、急性期の患者数も平均在院日数も確実に減っていきます。経営は大変厳しくなっていくので、生産性を高めるためには医療機関も標準化と、それを実行するための訓練が必要でしょう。

どうやってギャップを解消するのか

鈴木事前にセミナー参加者からいただいた質問で多かったのは、地域医療計画と地域医療構想とのギャップをどう解消するのかということでした。佐々木課長はどう考えますか。

佐々木とても大事なことだと思います。毎年の病床機能報告で、各病院の現状と6年後の選択をフォローしていきます。その進め方について、私の責任の範囲内で申し上げると、まず地域医療介護総合確保基金の使い方が重要です。詳細は今後通知していきますが、具体的な再編プランが整ったところに予算がつくようにしていきます。また、休眠病床の扱いや病床の機能転換については、都道府県がどのように権限を行使していくかをフォローアップします。ただ、これらに求められるのは、現場の医療機関がどう議論してどう行動されるかだと思います。

鈴木日本の医療機関の70%は民間病院ですが、その経営者の方々にどうやる気になっていただくかが問題です。松田先生、先ほどお話ししていただいた福岡県の例では、何か成功の秘訣のようなものはありますか。

松田福岡県について言えば、伝統的に医師会と病院会と大学と県の仲がいいんです。ですから、さまざまな勉強会や研修会が気軽にできます。学習や情報交換の機会をどう作るかがポイントだと思います。大学の社会学系教室に声をかけて、引っ張り出していただければと思います。大学に地域の情報を分析してもらい、各病院はそれを活用して意志決定をしていく。そういう地域の仕組みが作られなければ、病院経営者の方たちの心には響かないでしょう。

鈴木相澤先生、経営者が「変わらなければ」と決断するために、鍵になることはありますか。

相澤大変難しい質問です。おそらく現場は、より自分に都合のよいようにデータを見ようとします。データをきちんと読む訓練をどう積んでいくかが非常に大事です。もうひとつ大切なのは、自分の病院の位置づけを知るためのデータを、必ずほかと比べてみることです。

鈴木スタッフの説得も難しいと思いますが、いかがでしょうか。

相澤経営者が情熱を持って「一緒に闘おう」と語ることだと思います。私の経験では、自分に情熱がないことは、たいてい成功しません。

30万人の受け皿をどうするか

鈴木佐々木課長、今のままでは、2025年には全体で152万床必要と推計されるものを115~119万床に抑えるというお話でした。そうすると、30万人近くの方が、介護施設なり自宅なり、地域にいなければなりません。その受け皿はどうなるか、そのあたりの分析はいかがでしょう。

佐々木いわゆる30万人問題としてとらえています。医療計画の検討会では、この30万人は最終的に在宅医療等で看ていくと言っています。「等」のなかには、介護サービスが含まれます。介護サービスは市町村ごとに計画を立て、それを積み上げて全体の計画にしていきます。ですから、各市町村で介護サービスの具体的な数字がないと、平成30年に向けた議論が進みません。まずはどのくらいのボリュームが必要になるのか、できるだけ細かい範囲で数字を示したいと思います。そのなかで、どれだけを介護で、残りは外来や療養病床でといった議論をするための素材を提供していく予定です。

鈴木松田先生、将来の入院受療率は、入院期間の短縮や従来の入院患者を介護施設が担うといった、医療のあり方の変化によって変わってきます。このような変化は見過ごせないと思いますが、いかがでしょうか。

松田研究者として非常に興味があるテーマで、さまざまなシミュレーションの研究をしています。脳血管障害の患者数がどうなるか、脳血管障害から肺炎になる患者数がどうなるかといったデータなど、シミュレーションのためのツールも作っています。
現状は慢性期病床の患者さんの2~3割が脳梗塞の後遺症で、次に多いのが四肢拘縮で寝たきりになっている人たちです。現場の先生たちの意見を聞きながら、こういう患者さんへの医療・介護のあり方を考えていかなければなりません。
 慢性期の現場にはさまざまな知見があるのに、集めきれていません。知見を集めてシミュレーションをすることで、医療や介護のあり方を考えるためのツールを提供していきたいと思います。

鈴木相澤先生、ダウンサイジングで病床が減ると収入が減りますから、経営者にとって怖い話だと思います。単価を上げて回転をよくすることで利益率の上昇をめざすのだろうと思いますが、こうやればうまくいくという経験則はありますか。

相澤ダウンサイジングは、入院医療だけの話です。とくに急性期では、私たちがどうあがこうと、必然的に減っていきます。そうなると入院で減った収入をどう補うかを経営者は考えなければなりません。その分コストを下げるのか、減らしたベッドで何かをやるのか、もしくは外来、訪問看護、訪問介護など在宅の支援で収入を得るのか。どうすれば地域のためになるかを考えて、自分たちの病院の医療を思い切って変えることが大切です。
 私の病院は、変えてから1年目は大変な赤字でスタッフにボーナスを我慢してもらっている状況ですが、来年はもとに戻りそうな目処がついてきました。行政には、この1年か2年を支援していただければ、変われる病院がもっと出てくると思います。

みんなが自分事として考えるには

鈴木地域医療計画や地域医療構想を作るにあたり、地域の医療関係者と綿密な議論をしている県もあれば、コンサルタントに丸投げして中味がない県もあると思います。基金の使い方をよい方向に転じていくために、どのように評価をするのでしょうか。

佐々木行政面では、基金は具体的なプランを持って転換・再編を進めているところに使っていただくようにします。そうすれば、結果的に議論をしていただけるようになると期待しています。それから、国の幹部が担当の都道府県を決めて、一緒に考えるかたちをとっていきます。私たちも現場の課題を知りたいですし、そうやって各地域に合った支援をできればと思っています。

松田みなさんが自分事として考えられるようにするためには、話し合いの場を設けていくことが大事です。丸投げしている都道府県は、おそらくそれしか方法がない状況なのでしょう。私たち研究者にとっては研究と政策がつながる大きなチャンスですから、行政と医療関係者の間に入る緩衝剤になる必要があると思います。首長さんは、これをしっかりとやれば行政職として評価が高まるはずです。医療関係者の側から歩み寄り、行政をサポートすることも必要でしょう。

鈴木公的病院の一部で、主として経営の観点から急性期しか担ってこなかったところが、地域包括ケアを取り入れて在院日数を短くしたり、重症度・医療看護必要度をクリアしたりという動きがあります。これは経営の観点からは合理的だと思いますが、「自治体の補助を受ける公立病院がそれをやるのは民間病院としては受け入れがたい」という意見もあるようです。相澤先生は、どうお考えですか。

相澤それは地域の事情があると思います。例えば、ある地域にひとつの病院しかないというときに、どうするか。データをきちんと分析して「この地域では公的病院にやってもらうしかない」となったら、民間か公立かは関係がありません。どんな医療が必要で、その病院がどんな医療を行うのかが大切でしょう。

県境の出入りは、どう考える?

鈴木ここで、フロアからも質問をいただきたいと思います。

質問者1地域医療構想について松田先生にうかがいます。千葉県では、県によってしっかり構想区域が分けられていますが、県境が問題です。福岡県では、周辺県との関係はどのようにしておられますか。

松田福岡県は周辺県とも患者さんのやり取りがあるので、こういう方針です。まず、急性期と高度急性期に関しては、県内外を問わずに医療施設所在地ベースで考えます。急性期は大きな投資が必要ですから、現実的に、現在急性期病院があるところで担う。一方で、地域包括ケア病床と慢性期・回復期病床は、地域包括ケアの基盤となるものですから、住民の居住地域でやらなければなりません。構想区域で8割以上は自己完結するという方針で議論しています。
 福岡県では、福岡・糸島医療圏だけは人口が増えていて、ベッド数が足りなくなります。周辺の3医療圏は車などで15分あれば行ける距離なのですが、急性期が余ってしまいます。4医療圏で話しあって、「福岡・糸島医療圏で急性期が足りなくなる分は、粕谷、筑紫、宗像の3医療圏でやりましょう」という話になりました。  5疾病・5事業プラス肺炎・骨折といったところを細かく分析していって、例えばがんを全部担当するといっても、現実的に肺がんの手術ができる医師を多く確保するのは難しいですよね。そこで、福岡県ではこういったかたちをとっています。

質問者2相澤先生にうかがいます。ERで受け入れた患者さんを、状態によって急性期病床か地域包括ケア病床か決めるというお話でしたが、地域包括ケア病床に入ったあとで悪化して、やっぱり急性期のほうがよかったということにならないでしょうか。

相澤ERには、重症度や家族の背景がさまざまで、非常に多彩な患者さんがいらっしゃいます。いまERから地域包括ケア病院に入院していただく方は、家族が一緒に来ていて、きちんと説明をして、地域包括ケアでもよいと言ってくださった方たちです。ですから、一昨年の2月から始動していて、トラブルは1例もありません。ERでの選択がすごく大事だと思っています。

質問者2夜間でも同じですか。

相澤夜間は移動できませんから、一般救急ベッドに1日居ていただいて、次の日の昼間に移っていただいています。

質問者3大学病院も地域包括ケア病棟を持ってよいとうかがいました。これから地域に根付く医師や看護師を育てるためには、むしろ積極的に大学でそういう病床を持った方がよいと思うのですが、いかがでしょうか。

鈴木医学教育は急性期に集中しすぎているというご指摘が、先ほど相澤先生からありましたね。佐々木課長、行政として何かコメントはありますか。

佐々木地域包括ケア病棟は診療報酬上の概念ですので、私の立場でのコメントはありません。高度急性期、急性期、回復期、慢性期のどれを選択するかについては、制度上のしばりはありません。むしろ大学病院では、すべての病床を高度急性期として報告されていることが気になっています。これは、3000点以上は高度急性期という話にとらわれた誤解ではないかと思います。適切に必要な病床を報告していただくことが大切です。

鈴木大学病院の場合は、経営上の観点だけでなく、医師や看護師の教育という観点からも、地域包括ケアのための病床が必要だと思います。

変化は自分で生み出していくもの

鈴木最後にお三方からひとことずついただけますか。

佐々木繰り返しになりますが、地域医療構想は各地域で各病院が話し合い、主体的に参加していただくことが大切です。今日ご来場の皆さまも、「自分たちが主体になって行うのだ」ということを現場にフィードバックしていただければ幸いです。

松田おそらく、これからものすごい量の情報が出てくると思います。私たちも情報を分析する技術を蓄積してきていて、それを仲間と共有して、厚生労働省が持つデータを使わせていただけるようになりました。ぜひこれを活用してください。地域医療をどうつくっていくかを考えることが一般的になると思います。情報に対する感度を上げてください。

相澤地域医療構想調整会議をどう進めるかは、今後の地域医療をつくっていくために非常に大切です。ぜひ地域で話し合う仕組みを設けてください。変化は他人から与えられるものではなく、自分で生み出していくものです。そして、変化は必須になっています。ぜひ頑張っていただきたいと思います。

鈴木今日お三方が指摘されたことは、主に2点だと考えます。1つめは、今回こそ動かなければいけないということ。今後の変化を考えると、今年から来年にかけて動かなければ、火傷をするまで気づかないということになりそうです。2つめは、地域によって相当に差があるので、一律のものにはならないということ。地域によって環境が違うので、自ら議論していただくことが必要だと思います。