講演 3
民間病院の視点による地域医療構想の必要性と、
新たな医療提供体制における自院に求められる医療の変化とは何か。
また、これからの民間病院が変化に取り組むためにすべきことを提言する。
相澤 孝夫 氏
(社会医療法人財団慈泉会 相澤病院 理事長・院長)
現在、社会医療法人財団慈泉会相澤病院 理事長・院長のほか、
日本病院会副会長、全国病院経営管理学会会長など、要職を務める。
高齢者の平均在院日数が減り、急性期の一般病床のベッドが空いてきている。
75歳以上の入院患者の多くは要支援・要介護で、在宅のときから生活支援が必要だ。高齢者医療への対応が求められているが、これまでの医学教育の影響か、若い医師の多くは急性期を優先して考えている。
日本の社会保障と医療保障制度は、高度経済成長期に作られたが、現在は少子高齢化と長期の経済低迷で、社会保障費と医療費が大きな負担になってきている。社会保障制度改革国民会議の報告では、改革のポイントは2つある。ひとつは医療機能の分化と連携、もうひとつは地域包括ケアだ。
医療機能の分化で鍵となるのが、病床機能報告制度だ。これは各病院に、現状を把握し、将来のビジョンを考えてもらうというものだ。
医療の需給バランスをとるためには、急性期を減らして慢性期をどう増やすかが問題だ。変化のためには、おそらくあと1年くらいが重要な時期になるだろう。
病院経営者に必要なのは、自分の病院の等身大の姿をしっかりと把握することだ。DPCによる入院患者数のグラフを見ると、だいたい自分の病院の立ち位置や強い診療科がわかってくる。
DPCのデータを見ると、例えば脳梗塞でエダラボンを使って治療をした人は、数日するとほとんどが食事とリハビリしかしていない。大腿骨骨頭近位骨折も同様だ。この状態は本当に急性期と言えるだろうか。急性期を終えて集中的なリハビリが必要な人は回復期リハ病棟へ、リハビリをやっても生活機能の回復が見込めない人は、支援して在宅で暮らせるようにする。それができるのが地域包括ケア病棟ではないか。急性期から回復期まであわせた入院期間は変わらなくても、急性期の入院期間はもっと短縮できるだろう。
自院の診療圏は、しっかり把握したほうがよい。地域包括ケアにどれだけ取り組むかは、診療圏に大きく影響するからだ。
相澤病院は遠方からの患者さんもいるが近所の患者さんも多く、広域型と地域型の2つの機能を持っている。
また地域には私たち以外に、地域包括ケアのできる病院はない。それなら、自分たちで地域包括ケアをやるしかない。
市からもらったデータを基に、この生活圏域にどんな老人福祉施設があり、生活支援が必要な高齢者が自宅で暮らし続けるにはどういうサービスが必要かを調べた。松本地域では、「ずっと自宅で暮らし続けるためにあればいいと思う支援」の1番目は緊急時などにショートステイが利用できること、2番目は通院時に送迎サービスを受けられることだった。これは地域差が大きいので、ぜひ自院の地域について調べ、対応を考える必要がある。
相澤病院では急性期の42床を切り取って、相澤東病院という地域介護支援病院を設立した。介護の重度化予防や廃用症候群予防のリハビリが必要な患者さんは、相澤病院から相澤東病院へ移ってもらう。急性期に行くほどではないが、在宅は心配だという患者さんも受け入れる。相澤病院のERに来られた患者さんで、急性期が必要ではない方も東病院に入院してもらう。実際に動き始めると、レスパイト入院と終末期の看取り機能の要望が意外に多かった。
高齢の入院患者の多くは、基本的な生活支援が必要だ。看護師が片手間にやるのではなく介護福祉士に任せたところ、非常にうまくいっている。入院時に多職種が関わっていれば、在宅に移るときに、訪問看護と訪問介護との分担を決めやすい。
つまり医療と介護の総合確保で戦略を立てることが大切だ。私たちは地域包括ケア病院(相澤東病院)から徒歩150mのところに、訪問看護、訪問リハビリ、訪問介護、居宅介護支援事業所、通所リハビリ、デイサービスセンターを含むサービス付き高齢者住宅や在宅医療支援センターをつくった。今後、24時間対応の随時対応型訪問介護・看護サービスを行って、2kmくらいの範囲を確保しようと考えている。高齢者をある地域内でコンパクトにケアしていくことが必要だ。