講演 2
新たな医療提供体制を考えるうえで、
現状とめざすべき姿をいかにして共有していくのか。
DPCやNDBなどのデータをもとに、それらが地域医療構想にどう活かされ、
構想区域における調整が進められているのかを、
自身が関わる福岡県の実例に沿って解説する。
松田 晋哉 氏
(産業医科大学 医学部 公衆衛生学教室 教授)
産業医科大学医学部 卒業
地域医療構想は、各医療機関が地域における自院の病院機能をデータに基づいて客観的に把握し、自院の将来を考えていく仕組みを作れるかどうかがポイントだ。そのための調整会議では、関係者が推計の意味を理解できるようにすることだ。
高度急性期・急性期は、専門医の研修指定施設との関係が重要になる。回復期病床(地域包括ケア病床)は、患者さんの日常生活圏域に即した地域的な配置を考える必要がある。療養病床は、介護及び在宅医療との関係が重要になる。
調整会議では、DPCやNDBのデータを利用する。これらはあくまで過去のデータなので、将来の人口構成から将来の入院患者数を推計する。専門調査会推計は、一定の仮定のもとで患者数を推計しているので、仮定が少しずれれば、当然変わってくる。その仮定の妥当性を調整会議で話し合っていただきたい。医療需要推計では、細かい分類ごとに2013年の受療率が将来も変わらないと考えて、2025年の人口分布から患者数を割り出した。
私が関わった福岡県では、さまざまな関係者が集まって、データをどう読むかという勉強会を3年間で延べ100回近く行った。調整会議でデータをきちんと説明できる人間を養成しないと議論が進まないからだ。
県医師会と大学で13の構成区域ごとに策定素案を作成し、福岡県に提出した。これを参考に、福岡県の地域医療構想を作ってほしいということになっている。
調整会議のときには、医療提供体制・課題のチェックリストを作り、課題ごとに参照するべき資料を提示して、分析をしていただいた。こういう議論を医師会、病院会、自治体の関係者を交えてやったかどうかで、その後の実行可能性が違ってくるだろう。
日本はこれから多死社会に入っていく。亡くなる前3年間の医療・介護をどうするかを具体的に考えていく必要がある。なかでも75歳以上の女性の肺炎、骨折、脳血管障害、慢性心不全が増えてくる。急性期機能を麻痺させないためには、予防的な観点が必要だ。逆に減るものには分娩がある。病院や介護施設の担い手として働く若い女性を確保する観点からも、出産できる環境の整備は非常に重要だ。
医療職の確保可能性を見るために医療職の性別・年齢の分布を調べると、准看護師の高齢化が進んでいる。准看護師が引退したときに、現在准看護師が支えている慢性期と精神科病床をどうするか考えていく必要がある。
医療計画を住民に理解してもらうことも大切だ。福岡県では住民主体の医療計画にすることをめざしている。住民が理解できないと、どんなに病院同士が連携しても患者さんが乗ってきてくれない。
慢性期の患者さんの増加は大きな問題だ。ひとつは医療区分1相当の高齢者が急激に増えるということだ。医療区分1の患者さんの70%を退院させるとすれば、その人たちはどこへ行くのか。福岡県と山口県で療養病床に入院中の人が退院可能かどうかを調べたところ、条件が整えば可能な人は約50%だった。なかでも、「家族の受け入れ」と「十分な介護サービス」が退院可能性に大きく影響している。
患者さんの在宅医療をつづけるには、ほぼ在宅で、ときどき入院するというかたちで看てくれる地域包括ケア病床が必要だ。また、訪問看護が必須だが、現在、訪問看護はほとんど使われていない。看護師的な視点で予防ができるケアマネジメントが必要だ。
急性期病院で、脳梗塞の治療を受けた患者さんの4割が、半年前に介護保険を使っている。つまり、介護を必要としていた人が脳梗塞を起こしているわけで、急性期医療、回復期医療、慢性期医療と介護の複合化が起きている。このネットワークをうまく動かすには、調整する人(機関)が必要だ。
地域包括ケアでは、住宅が重要になる。例えば福岡県飯塚市の中心部にあるサンメディラック飯塚という複合ビルには、バスターミナル、コンビニ、医師会、急患センター、訪問看護ステーションなどが入り、上階はマンションになっている。今後、街づくりの視点からも、こういうものを作っていく必要があるだろう。