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【第1部】
「病院総合医の役割と、その働き方」
講師:社会福祉法人恩賜財団 済生会熊本病院 包括診療科部 部長 園田幸生氏

<チーム医療と働き方改革>

医師の働き方改革では、医療の質を落とさず、むしろ向上させなくてはいけない。そのためには、今までと異なる考え方をする必要がある。厚生労働省は、医師の時間外労働時間を最高2000時間まで認める案を発表したが、それでは今までと何も変わらない。医師の過重労働は、医師の健康問題に加えて、医療の質を落とす。また、多額の残業代は医療機関の経営を圧迫することになる。

医師の働き方改革では、本当の意味でのチーム医療が重要だ。そのために、医師にはマネジメント力が必要であり、その役割を担う病院総合医が求められている。

<病院総合医とは>

病院総合医は、高い倫理観、人間性、社会性をもって総合的な医療を展開する医師だ。日本病院会は、2018年4月から認定病院総合医の育成プログラムを開始した。

育成プログラム対象施設は現在134施設あり、認定医の多くは40代以上。対象施設は、300床以下が4割を占め、200床以下の施設もある。病院総合医は、必ずしも大病院のためのものではない。

現在の臨床現場では、患者さんの重症化、複雑化、高齢化、多様化が進んでいる。例えば、糖尿病で心不全のある患者さんが骨折をしたとき、整形外科の医師が、この患者さんを全体的に診るのは難しい。病気を治療(Cure)するだけでなく、それ以外にかかえている病気を悪化させないように包括的に管理(Care)する医療チームが必要となる。

<包括診療部と病院総合医(済生会熊本病院の場合)>

私が所属している、済生会熊本病院では2017年4月に包括診療部を立ち上げた。

済生会熊本病院は高次機能病院で、病床数は400床。救急搬送は年間約1万台で、平均在院日数は8.5日だ。

包括診療部の医師はそれぞれの専門性を活かしながら、病院総合医として病棟を包括的に担当する。病院内の、かかりつけ医のような役割だ。

包括診療部には、多職種のコーディネーション、専門性の高い処置が必要かを判断するコンサルテーション、チーム医療を活性化させるファシリテーション、包括的に医療を おこなうインテグレーション、病院運営を実践するマネジメントの5つのスキルが必要である。

チーム医療には、医師によるマネジメントが不可欠だが、病院ではそれが難しい場合が多い。主治医の働く場は、病棟以外にも、外来や手術室があり、病棟に不在の時間帯が多いからだ。

例えば患者さんが便秘薬を希望しても、主治医に連絡がとれなければ対応が遅れてしまう。その件で看護師がクレームを受けると、看護師に余分な業務が発生する。患者さんにも医療スタッフにもよいことはない。

主治医が病棟にいない空白の時間を埋めるのが、病院総合医だ。病院総合医は、病棟スタッフと同じ空間と同じ時間軸で勤務して、医師でなければできない業務を実施する。例えば、褥瘡の処置や点滴漏れの確認は病院総合医が担い、記録して情報を共有すればよい。

チーム医療を円滑におこなうために、在院日数14日以上の患者さんを対象に、週に1回多職種のケアカンファランスとケアラウンドをおこなっている。病室を一つの自宅のように考えて、在宅医療のような形を病院の中でも実践する。

1病棟60名の患者さんの情報は、IT機器で確認する。電子カルテに入力した情報は、ETL(Extract, Transform, Load)システムで、必要な情報を自動的に集約し表示させる。

私は現在、「基本的に総合医で、ときどき専門医」という立場で働いている。これからの医師は、若いときは100パーセント専門医としてスキルを身につけ、年齢を重ねるとともに総合医となる割合が増えていくようなキャリアパスが考えられる。

病院総合医導入の効果を病院内でアンケート調査したところ、医師も含めて50~80パーセントが、「診療の質が向上した」「患者満足度が向上した」「業務軽減につながった」と回答した。また、処方オーダーが夕方から午前中にシフトした。

<地域医療における病院総合医の役割>

地域包括ケアシステムは、高齢者の尊厳の保持と日常生活支援を目的として、可能な限り住み慣れた地域で暮らせるようにするものだ。高次医療機関にも、地域包括ケア・回復期リハ・緩和ケアなど病棟機能をもつ病院にも病院総合医がいて、切れ目のないケア連携をおこなえば、地域包括ケアシステムが発展していく。

住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けるには、健康寿命を延ばす必要がある。そのためには、生活の視点で「くうねるかいべん」をめざすとよい。 食べて、寝て、快便であることは健康的な日常生活の指標になる。

症状が悪化する前、未病の段階で対処をすれば、医療者・介護者・家族・病院・社会の負担を増加させないですむ。例えば、嚥下障害で誤嚥性肺炎を起こしたり、摂食量の低下から脱水や認知症の進行が起こったりすると治療が必要になり、負担が増加する。当院では昨年7月から嚥下内視鏡検査による嚥下機能評価を開始した。嚥下機能をきちんと評価することで、肺炎を予防し、栄養障害・ADL低下・認知症の進行を防ぐことができる。これは、医療の賢い選択(Choosing Wisely)だ。

<最後に>

医師による医療マネジメントの実践は日本の未来に不可欠な「新しい働き方改革」である。また、病院総合医の育成は、働き方改革はもちろん、医療の質の向上、地域包括ケアシステム推進など、すべての要素に結びつくものである。

【お問い合わせ先】
・総合メディカル株式会社 九州営業統括部 担当:森口
Mail:t-moriguchi@sogo-medical.co.jp
・済生会熊本病院 包括診療科部 部長 園田幸生先生
Mail: yukio-sonoda@saiseikaikumamoto.jp