1. オピニオンドクターインタビュー「D's Mind 医の道をつなぐ」
  2. 宇山 一朗 藤田保健衛生大学医学部 外科学講座(消化器外科・上部消化管担当)教授 ダヴィンチ低侵襲手術トレーニングセンター長
宇山 一朗 藤田保健衛生大学医学部 外科学講座(消化器外科・上部消化管担当)教授 ダヴィンチ低侵襲手術トレーニングセンター長
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宇山 一朗

藤田保健衛生大学医学部
外科学講座(消化器外科・
上部消化管担当)教授
ダヴィンチ低侵襲手術
トレーニングセンター長

低侵襲手術のフロントランナーとして
進行がんの集学的治療をリードする

韓国で見学したロボット支援手術に衝撃を受け、5か月後にロボット支援腹腔鏡視下胃がん切除手術を実施。合併症を大幅に減少させ、先進医療として承認される道を拓いた。
「なせば成る」の信念で上部消化管における内視鏡手術領域を牽引してきたその眼差しの先に、がん治療の未来を見た。

プロフィール

宇山 一朗(うやま いちろう)

経歴
  • 昭和60年 岐阜大学医学部卒業
  • 昭和60年 慶應義塾大学外科学教室入局
  • 平成3年 練馬総合病院勤務
  • 平成9年 藤田保健衛生大学医学部外科学講師
  • 平成14年 藤田保健衛生大学医学部外科学助教授
  • 平成18年 藤田保健衛生大学医学部外科学教授
所属学会等

日本胃癌学会、日本食道学会、日本内視鏡外科学会、
日本肝胆膵外科学会 など多数

宇山 一朗(うやま いちろう)

思い切って進んだ道で外科に開眼

転勤族のサラリーマン家庭で育った宇山一朗は、徳島県に生まれ、中四国を移り住み、中学・高校時代は静岡県で過ごした。高校3年生の夏まで打ち込んでいたフェンシングでは、インターハイに出場するほどの剣士で、理系を選択してはいたものの、まさか数年後にサーブル(剣)をメスに持ち替え、さらに後年、コンソールでロボットアームを操縦しているとは想像すらしていなかった。

岐阜大学医学部に進学して最初に興味をもったのは膠原病だったが、実習が始まると外科に関心が移った。術者として治療をおこなうことで、患者さんや家族の喜びや感謝を実感できると思ったからだ。卒業後は、姉のいる都内でレジデントとしての働き口を探したが、なかなかうまく見つからなかった。岐阜大学に残ることも考えていた矢先、当時の麻酔科・山本道雄教授が主宰する学内の勉強会で、慶應義塾大学出身の山本教授から「慶應は良いところだから行ったらどうだ」と声を掛けられた。

「何となく敷居が高いので一度はお断りしたのですが、医局には他大学出身者も多く、自由なところだという話も伺い、思い切って慶應の外科に進むことにしました」

阿部令彦教授が主宰する外科学教室に入局後、宇山は1年間慶應義塾大学病院内のさまざまな外科や麻酔科で研修し、2年目には練馬総合病院で飯田修平先生に、3年目は立川病院で故守谷孝夫先生に師事し、外科医としての研鑽を積んだ。4年目に大学病院に戻り、同期25名で臓器別の研究班を決めることになった。宇山は肝臓班に希望を出したが、胃班に所属することになる。その後3年間、慶應病院で臨床・研究に邁進し、再び練馬総合病院に移り約6年勤務したのち当時の北島政樹教授から藤田保健衛生大学第一外科への異動が告げられた。

新天地で内視鏡手術の技術向上に没頭

藤田保健衛生大学に赴任した当時、外科は学閥によって第一外科から第四外科に分かれ、それぞれが独自の外科診療をおこなっていた。宇山は第一外科で胃がんの腹腔鏡視下手術に積極的に取り組んだ。しかし、第一外科の胃がんの症例は近隣開業医からの紹介や医局員が院外の医療機関で診断した症例が月に1、2例あるだけだったという。

「今でこそ年間約200例の胃がん腹腔鏡視下手術がありますが、当時は本当に少なかったのです。でも、だからこそ、手術の過程をビデオでじっくり振り返って改善点を見つける時間が生まれ、次の症例にいかすというサイクルがうまく回ってノウハウを蓄積できたと思います」

第三外科教授であった船曳孝彦先生が学長になると、臓器別診療科への改組という大幅な改革が実施された。所属していた旧第一外科は肝臓外科に改組されることになり、医局に残るか専門の上部消化管外科に移籍するか選択を迫られたが、この頃すでに胃がんの腹腔鏡視下手術の経験を積んでいた宇山は、上部消化管外科に移ることに決めた。

ロボット支援手術の衝撃

2000年3月、慶應義塾大学病院にアジアで初めて内視鏡視下手術支援ロボット「da Vinci」※が導入され、その後導入した九州大学病院と共に日本での薬事承認をめざして治験が進められた。ところが、治験は中止に追い込まれてしまう。

「第一世代のda Vinciはまだ洗練されていない印象でしたし、治験が頓挫したことと、腹腔鏡視下手術技術への自信もあって、日本はロボット手術ではなく腹腔鏡でいこうという雰囲気がありました」と宇山は述懐する。

韓国では2006年からda Vinciが導入され、以前、宇山に腹腔鏡視下手術を教わった延世大学の外科医WJ Hyungも、多くの胃がん症例のロボット支援手術を手がけていた。Dr.Hyungから「一度見学に来ないか」と誘われるとすぐに韓国に渡ったのだが、その時点ではまだ「自分たちがやっている腹腔鏡視下手術のほうが精度が高い」という印象だったという。しかし、2008年夏にDr.Hyungから再び連絡があった。今度はda Vinci Sという第二世代を導入したということだった。あまり期待はしていなかったが、見学したライブ手術は素晴らしく、宇山は衝撃を受けた。

「腹腔鏡手術を教えたのは日本人だという自負があったのに、知らない間にロボット支援手術の領域で水をあけられてしまったと感じました」

※ da Vinci (da Vinci Surgical System)

電光石火のロボット導入

帰国後の宇山の行動は早かった。2008年8月中に藤田保健衛生大学にda Vinci Sの購入希望を提出し、12月1日には納入された。しかしこの3か月ほどの間には紆余曲折があった。まず、約248万ドルという金額の問題もあるが、それ以上に、万が一ロボットを導入して医療事故などが起こった場合に、これまでに確立した大学の内視鏡手術におけるステータスを台無しにしてしまうのではという危惧があった。リスクを負ってまで導入する必要性が議論されたが、最終的には私立大学としての独自性を打ち出すためにも「安全な導入に宇山君が全力を尽くすのであれば」ということで学内の意見はまとまった。

大学からの了解は取り付けたものの、当時の日本では薬事未承認であったため輸入代理店もなく、アメリカの製造販売元から直接、個人輸入の手続をする必要が生じた。

「直接アメリカのIntuitive Surgical社に問い合わせたところ、da Vinciは簡単には売れないと言われました。というのも、これから日本の薬事承認を受けてビジネスとして広げようとしていたので、まずは安全な導入をしないと次のビジネス展開にマイナスになるということでした」

日本での導入後のクリニカルプランの提出を求められ、「早期胃がん症例で開始し、進行がんにも適応を拡大していく」というプランを示したが、アメリカでは胃がん症例が比較的少なく難しい手術と位置付けられているため、認められなかった。代わりに提示されたのは、胆石10例と食道裂孔ヘルニア10例を安全に実施した後に、胃がん手術をおこなうというプランだった。宇山は、ロボットの導入にあたり、最初の5例は大学の負担でおこなうという了解を得ていたため、その5例はどうしても胃がん症例で実施したかった。最終的に、自分が執刀した手術のビデオを持参し、「われわれにとっての早期胃がんの手術は、あなた方にとっての胆石手術と同じようなものだ」と啖呵を切った。その熱意が伝わり、早期胃がん10例の手術を安全に実施するという条件で決着した。その後、導入に先駆けて宇山ら4名のチームがアメリカでda Vinciのトレーニングを受け、2009年1月には1例目のロボット支援腹腔鏡視下胃がん切除手術が安全におこなわれた。

充実したトレーニングセンター

da Vinciは2009年11月、国内での製造販売が承認された。その後は導入施設が増加し、現在では全国の医療機関で190台あまりが稼働している。厚労省はその承認時に、新規に導入する医療機関が国内のトレーニングセンターで資格をもつトレーナーからトレーニングを受けることを義務付け、それに対応すべく藤田保健衛生大学および東京医療センター内にIntuitive Surgical社と契約したトレーニングセンターが設置された。藤田保健衛生大学内のトレーニングセンターには、第二世代のda Vinci Sと第三世代のda Vinci Siがあり、Siはコックピットの役割をもつサージョンコンソールを2台並べ、トレーナーとビギナーが3Dの視野を共有しながら、細かな操作方法を体得することができる。現状では国内にこの2施設しかないため、da Vinciの取り扱い方法を習得することを目的としているが、将来的には、da Vinciを使って胃がんや大腸がんなどの手術法を検討する実践的なトレーニングコースも見据えている。

合併症の減少に寄与するロボット支援手術

近年では、外科手術、化学療法、放射線療法などの集学的治療により、がんの治療成績は向上しつつある。早期がんは外科手術などの局所治療で治癒が見込める一方で、進行がんについては手術だけでは不十分なことも多い。

「胃がんに対しては、早期がんであれば手術でがんを切除し治癒をめざしますが、進行がんの場合にはその前後の全身療法を考慮に入れた局所制御が重要です。その意味で手術の精度や安全性は非常に大事な要素で、十分な切除やリンパ節郭清はもちろんのこと、合併症を減らすことによって、化学療法の早期開始や十分量の投与にもつなげることができます」

手術の精度を高め、合併症を減らすことができれば、術後化学療法のコンプライアンスが向上し、全体の治療成績も上がる。腹腔鏡視下手術は、開腹手術よりも低侵襲で開腹手術と同等の成果を得るために開発された。当初は、「腹腔鏡手術は傷が小さいことにこだわっているが、開腹手術と同じクオリティを担保できない」という批判もあったが、宇山らの努力の積み重ねにより、腹腔鏡手術では開腹手術よりも手術時間は長くなるものの、出血量が少なく、術後、歩行・食事が早期に開始可能で、入院期間も短縮できることがデータとして示されている。しかし、手術後の合併症を減らすことが課題として残された。今後の内視鏡手術の方向性は二つあると宇山は言う。

「一つは、単孔式腹腔鏡下手術のように、より低侵襲な手技を突き詰めていくことです。もう一つは、開腹手術よりも手術の精度を高める、あるいは合併症を少なくするという質の向上をめざす考え方です。精度を高め、合併症を少なくするためには、モニターが2Dである、関節がないといった現行の腹腔鏡手術における技術的なハードルを下げればよく、それを可能にするのがda Vinciだと思います」

この方向性を後押しする論文も宇山らにより発表されている。2009から2012年の4年間におこなわれた腹腔鏡手術とロボット支援手術を比較したところ、ロボット支援手術による合併症の発生率は腹腔鏡手術の約5分の1であることがわかった。このデータは胃がんにおけるロボット支援手術を厚労省に先進医療として申請する際のベースになり、現在は330例を目標とした多施設共同臨床試験により再現性の検証を進めている。その結果、同様にロボット支援手術により合併症を減らすことができれば、少なくとも入院期間の短縮に寄与することから、将来の保険収載につながる可能性がある。

ガイドラインを変えていくという考え方

現在、先進医療の適格症例とされているのは、ステージⅠおよびⅡの胃がん症例である。ステージⅡ以降の進行がんの場合は、早期がんよりも合併症のリスクが高いうえに、合併症を起こすと化学療法へスムーズに移行できないため、特に進行がんの症例に対してロボット支援手術を考慮するべきだと宇山は考えている。ただ、「進行がんにダヴィンチを」ということを強調しすぎてしまうと、ロボット支援手術を始めるときに最初から難しい手術をしなければならなくなる危険性も指摘する。やはりトレーニングとしては早期がんから始めて徐々にレベルアップしていくことが大事だという。ロボット支援手術により集学的治療のレベルを向上させて進行がんの治療成績を上げることを今後の目標の一つに掲げる。そして将来的には、より細部にまでこだわった日本製ロボットの登場に期待している。

ロボット支援手術の普及に力を入れている宇山であるが、決して患者さんへ治療法を押しつけることはしない。胃癌治療ガイドラインにおける標準治療は開腹手術であることを含め、腹腔鏡手術、ロボット支援手術、それぞれの利点・欠点を説明したうえで、本人と家族に選択を委ねている。外来での説明に加えて、週1回の「胃がん手術教室」で、医局員が時間をかけて丁寧に説明し、理解を深めたうえで手術を受けられるように配慮している。しかし宇山の根底には「胃がんの場合、開腹手術で切除できるものは、気腹できない症例を除いて腹腔鏡手術かロボット支援手術でも必ず切除できる」という信念がある。現在の胃癌治療ガイドラインでは進行がんに対する腹腔鏡手術は推奨されておらず、宇山の考えはガイドラインを逸脱しているということもできる。この点について、宇山は次のように喝破する。

「ガイドラインというのは法律ではなく、遵守する人と変えていく人が必要だと思います。全員が遵守していたら、100年後もガイドラインは変わりません。われわれは胃がん治療の専門医として、新しい技術を導入してより有用な治療法を確立していく責務があると思います」

宇山はこれまで、上部消化管における内視鏡手術のフロントランナーとして自ら手術をおこなうとともに、インストラクターとなり得る優秀な術者を育成してきた。「望まれれば70歳でも手術室に入りたい」と言うが、ロボットを用いればさらに長く一線で活躍できるかもしれない。

若手医師へのメッセージ

新しいことに挑戦するような場合に、それが可能か不可能かは自分で決めたほうがいいというのが私の持論です。人にダメだと言われたからといって、ダメだと決めつけてあきらめてしまうのは間違っていると思います。そのような情熱をもった若者に、日本の医療を牽引していってもらいたいです。

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