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プライマリ・ケアの本質とこれからの地域医療(前編)

新たな専門医制度案には、第19の専門領域として「総合診療医」が盛り込まれました。
総合診療の根底にある「プライマリ・ケア」、そして総合診療医の役割と求められるスキル、医療制度、地域医療との関わり――今後の医療を語るうえで欠かせないこれらの視点について、日本プライマリ・ケア連合学会理事で、地域医療振興協会 地域医療研究所所長の山田隆司先生にお聞きしました。

山田 隆司氏
山田 隆司(やまだ たかし)地域医療振興協会 地域医療研究所所長
岐阜大学地域医療医学センター特任教授
日本プライマリ・ケア連合学会理事

1980年自治医科大学卒業。県立岐阜病院での研修後、揖斐郡久瀬村診療所(現揖斐郡北西部地域医療センター)でおよそ20年間第一線のへき地医療に従事する。その後公益社団法人地域医療振興協会の枠組みで多数の自治体医療機関の再建に関わる。現在地域医療振興協会副理事長、台東区立台東病院管理者、日本専門医機構総合診療専門医に関する委員会委員などの役職も兼ねている。

プライマリ・ケアが担うもの、求められるスキルとは

「プライマリ・ケア」は“何でも相談できる医療の窓口”

山田 隆司氏

「プライマリ・ケア」とは、“Primary”の持つ「初期の、基本の」という意味からもわかるとおり、セカンダリー・ケア(二次医療)、ターシャリー・ケア(三次医療)の前にある一次医療という、医療の入り口としての役割・機能という意味があります。

現在、地域の開業医の先生方が実践されているような“何かあった時にまず相談できる身近な医療”がおおむねプライマリ・ケアと呼べるでしょう。「風邪をひいたかな」「湿疹ができた」など、どこか調子が悪いとき、軽症な段階で診てくれる近所のクリニックのイメージですね。必ずしも高度な医療、先端的治療を必要とするわけではないけれど、患者さんの人となりを理解し、時には直接治療には及ばないような相談にも乗ってくれる、身近な医師としての役割です。

ただ、「入り口機能」とだけ考えると誤解が生じやすいのも事実です。本当のプライマリ・ケアというのは単なる病気の振り分け役だけではありません。いつも身近にいて、健康に関わるあらゆることを幅広く相談でき、場合によっては5年、10年、20年と長く付き合い、患者さんや家族のことまで気軽に相談にのることができるような医師であって、必要であれば病院を紹介したり、介護サービスの窓口につないだりする役割もあります。地域で個別的な関係を積み重ね、患者、家族と信頼を築いていくことで本当のプライマリ・ケア医となれるのです。

もともとの専門がなんであれ、患者さんが「喉が痛い」、「腰が痛い」と相談に来ればある程度診ることができる、幅広く受け入れる態度が必要です。「先ずはこの先生に相談すれば大丈夫」という信頼関係がつくれるかどうか、そういう関係性を長年保てるかどうかというのがプライマリ・ケアの本質といえるかもしれません。

最近は、1つの専門をうたったクリニックも増えていますし、患者さんも各疾患によって直接それぞれの専門医に診てもらったほうが分かり易くていいという風潮もあります。しかし、高齢になると特に専門的治療を要しない様々な軽微な愁訴や症状、また複数の慢性疾患を抱えることはめずらしくありません。専門分野の病気だけを診るようなクリニックばかりですと、患者さんは何カ所にも通わねばならず、高齢者にとっては不都合なことになります。

プライマリ・ケアへの適切な評価には、患者さんの理解も重要


※画像はイメージです

地域の一次医療においては、いつでも、誰でも、なんでも相談にのることが求められます。そうしたことからは、日本で本当の「プライマリ・ケア医」と呼べる医師は、まだ診療所医師の1割もいないという見方もあります。しかし一方で、これまで体系的な研修システムが確立されていない中でも、地域の診療所の先生方が日々の診療を通して生涯学習をしながら、地域のさまざまな医療ニーズに対応してこられた現実もあり、すでに診療所医師の多くは「プライマリ・ケア医」として一次医療を提供しておられるのかもしれません。現在はこういった医師を「かかりつけ医」とよんでいますが、この「かかりつけ」という用語は、「この医師は相談しやすく、信頼できる」「ずっと通い続けたい」という患者さん側の自由選択に重みを置いた用語であって、医療者側から一次医療の要素を定義した用語というわけではありません。ですから今後は高齢化が進むとともに、単にかかりやすい「かかりつけ医」というのではなく、本来の意味の「プライマリ・ケア医」が多く求められてくると思われます。

高齢になると認知症を発症したり、身体的介護が必要になったり、あるいはがんの終末期のように、なかなか医療だけでは支えきれないような状態になることが珍しくありません。そんな時には患者さんが安心して暮せるように医療以外のことにも配慮してサポートができる医師が必要となってきます。肺がんを手術した専門医は、肺がんの治療が終了すれば基本的にはそれから先は患者さんに関わりません。しかし患者さんにとっては病気の種類や期間を越えて、生涯付き添ってもらえる医師が身近にいることは非常に安心で有益です。そう考える患者さん、国民が増えればそうした医師の必要性も自ずと理解されてくるでしょう。

その人に“本当に必要な医療”を見極める役割も

また、医療の無駄をなくす意味からも、プライマリ・ケアの果たす役割は少なくありません。日本は世界に冠たるCT、MRI保有国ですが、患者さんの希望に従って安易にCT、MRI検査を繰り返すことが決して質の高い診療とは思えません。問診に時間をかけ、患者の心理社会的背景にも考慮し、全身を管理するようなプライマリ・ケアの視点があれば、不必要な検査を減らしコストの削減にもつながります。

また、高齢者医療においては、過剰な検査と同様に、過剰な投薬も問題視されています。高血圧、動脈硬化、骨粗しょう症、白内障など、年齢が上がるにつれ罹患する疾病も増えてきます。これらの慢性疾患に対して、若い成人に対する管理と同じように疾患ごとに管理をすることは、かえって不利益をもたらしている場合も少なくありません。患者さんの年齢や生活、仕事の有無や家庭環境、家族内での役割などをしっかりと捉えたうえで、本当に必要な治療を考え調整するのもプライマリ・ケアの重要な役割だと思います。

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