太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第9回〕 敗血症に強くなる

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■ 敗血症の概要
超高齢社会では、敗血症はこれまで以上に重要な病態だと思います。敗血症のガイドラインは2013年に一部変更されました(日本集中治療医学会誌 2013;20:124-73)。ここでは以前のガイドラインに沿ってまとめます。というのも、私はSIRSは重症化しやすさの指標としてとても役に立ち、特に現場での第一印象としても誰でもが用いることができると考えているからです。 敗血症(sepsis)とは、感染が原因で全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)が引き起こされていること、と定義されています(ACCP/SCCM Consensus Conference(Chest101 : 1644 - 1655,1992.))。 SIRSとは、

  • (1) 38℃以上の発熱または35℃未満の低体温
  • (2) 毎分90 回以上の頻脈
  • (3) 毎分20 回以上の頻呼吸、またはPaCO2が32Torr未満
  • (4) 白血球数が12,000以上あるいは4,000未満、または未熟型白血球が10%以上

の4 項目のうち2 項目以上を満たす場合をいいます。
つまり、菌血症やエンドトキシン血症でなくても、全身状態から早期に疑えます。早期に診断できれば、早期に治療を開始できます。特徴的な症状が出にくい高齢者には有用だと思います。SIRSが長い、項目が多いほど重症といわれていて、急性期DICスコアにもSIRS項目数が用いられています。

急性期DIC診断基準
[出展] 日本救急医学会雑誌 vol 18 P237-272. 急性期DIC 診断基準. 第二次多施設共同前向き試験結果報告. P239 より作成

さらに、重症敗血症(severe sepsis)は敗血症のうち、乳酸アシドーシス、乏尿、意識混濁などの臓器灌流低下による臓器障害や低血圧を示す場合と定義され、敗血症性ショック(septic shock)は、十分な輸液負荷を行っても収縮期血圧が90mmHg 未満、または通常の血圧よりも40mmHg 以上の低下が持続する敗血症と定義されます。ただし、昇圧剤で血圧を維持されている場合は、この血圧でなくてもショックと診断できます。つまり早期に診断、重症度判断することで、早期の対応が可能となり、救命率が上がる可能性があるということです。

■ 高齢社会と敗血症
敗血症というと、ましてや敗血症性ショックというと、救命救急センターでしか見ない特殊な重症病態と考えられるかもしれません。しかし、この高齢社会では非常に多く起こっている可能性があります。
高齢者は肺炎、尿路感染などの感染症に罹りやすく、特に肺炎は死因の上位を占めています。しかし、発熱に代表されるような、特徴的な症状が出ないので、早期の診断は非常に難しくなります。その間に病状は敗血症、敗血症性ショックと進行し、意識状態が悪くなってから気づかれ、救急要請されます。
そういえば少し前からだんだん元気がなくなり、食が細くなり、寝たきりになって水も飲まなくなり、そのうちぐったりして、というような流れが典型ですので、脱水や腎不全(AKI)も加わっている可能性が高まります。

高齢者が意識障害というと、脳血管障害に代表されるような中枢神経系の疾患を思い浮かべることが多いかもしれません。これは、脳が直接障害されるので、元の状態に戻ることは非常に難しくなります。このような際には血圧が高いことが多く(Ikeda M, Matsunaga T, Irabu N, Yoshida S. Using vital signs to diagnose impaired consciousness: cross sectional observational study.. BMJ 2002;325:800)、また多くの場合(脳幹出血やくも膜下出血以外では)、瞳孔や麻痺の左右差等巣症状が見られます(巣症状:片麻痺、感覚障害、言語障害、失語等、脳の機能は局在しているため、障害された局所の神経障害が現れます)。

敗血症による意識障害は、循環障害による脳への酸素供給低下によって起こりますので、高血圧も巣症状も見られません。意識がなく、血圧も高くなく、SIRSがあれば疑うことができます。こちらは救急治療によって社会復帰、元の生活に戻る、可能性が高まります。

■ 敗血症のガイドライン
アメリカとヨーロッパの集中治療医学会が合同で敗血症のガイドラインを策定しています(SURVIVING SEPSIS CAMPAIGN GUIDELINE)。日本集中治療医学会からも発表されました(発表内容はこちら)。
その中にBUNDLESという言葉が出てきます。バンドルは直訳すると束ということですが、指示の束という意味で、一連の指示がまとまっています。バンドルがあるとガイドライン順守率が上がり、救命率が上がる、ということです。

つまり、先にお話ししたように敗血症を疑うことができれば、その後の治療は既存の指示通りすれば良いということです(Phua J et al.Management of severe sepsis in patients admitted to Asian intensive care units: prospective cohort study.BMJ 2011; 342:d3245.)。
このバンドルには時間に応じて達成すべき目標が記されています(early goal-directed therapy(EGDT))())

3時間以内に達成すべき目標
  • (1) 乳酸値測定
  • (2) 抗菌薬投与前に血液培養採取
  • (3) 広域スペクトラム抗菌薬を投与
  • (4) 血圧低下または乳酸4mmol/L以上で晶質液を30mL/kgで投与
6時間以内に達成すべき目標
  • (1) 初期輸液に反応しない血圧低下は平均動脈圧65mmHg以上を目標に昇圧剤投与
  • (2) 十分な輸液を行なっても血圧低下が持続する、または乳酸の最初の値が4mmol/L(36mg/dL)以上はCVP、中心静脈酸素飽和度(ScvO2)測定
  • (3) 最初の乳酸の値が上昇していれば再測定

このようにバンドルは非常に便利です。その場でできるだけのことをして、決められた時間内に何をどうするかを決めるのが良いと思います。
バンドルはこの他に、人工呼吸器関連肺炎予防、深在性真菌症初期のバンドルがあります。
ガイドラインから薬剤についてピックアップしてみます。

昇圧剤
十分な輸液後ですが、ノルアドレナリンが第一選択薬で、次はバソプレシン0.03単位/分を投与しても良いとされています。
コルチコステロイド
十分な輸液と昇圧剤でも不安定な場合に限り、ハイドロコルチゾン200mg/日の静脈内投与が推奨されています。
血液製剤
赤血球輸血は7.0-9.0g/dLを目標に<7.0g/dL以下にのみ行う。凝固異常の補正を目的に新鮮凍結血漿を投与すべきではない。
重症敗血症や敗血症性ショックの治療にアンチトロンビン製剤や免疫グロブリンを使用すべきではない。血小板は、明らかな出血がなければ10000/mm3以下、出血のリスクがあれば20000/mm3以下、で投与する。外科的、侵襲的処置では50000/mm3以上あることが望ましい。
等々が書かれています。エビデンスが証明しにくいところでもありますが、特効薬はなさそうです。

一方で、栄養管理は重要な治療で、48時間以内に経口または経腸栄養を開始すべきである、最初は500kcal/日以下で構わない、とされています。さらに、侵襲による高血糖に対しては、インスリンで180mg/dl以下にコントロールすることが推奨されています。

さらに、ゴールについても、できるだけ早く(72時間以内)設定し、患者本人や家族とよく話し、治療と終末期医療を組み合わせて考え、必要であれば緩和ケアの原理なども活用すべきであるということも書かれています。これは高齢社会に重要なことで、ICUだけでなく、広く医療の現場に求められていると思います。