太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第8回〕 止血への挑戦

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■ 内視鏡的止血法
上部消化管出血に対する第一選択の治療は内視鏡的止血です。内視鏡的止血法にはいろいろなモダリティーがありますが、どの方法を選択しても治療成績は良好で、差もあまりありません。つまりどの方法でもたいていは一度で止血でき、止血率は90%後半です。逆に考えると数%は何を用いても止まらない、という可能性があります。
私の上部消化管出血の経験の多くは救命救急センターです。救命救急センターには救急隊が重症あるいは緊急度が高いと判断した場合に搬送されますので(疾病観察カード)、消化管出血では多くはショックを伴っています。

また、重篤な基礎疾患に併発するいわゆるStress-related mucosal disease(以前はストレス性潰瘍と呼ばれていました。(以下SRMD)などいずれも最重症例です。我々はこのような重症上部消化管出血にクリップによる内視鏡止血を第一選択で行ってきました。
理由はこれは機械的止血法なので粘膜=局所に対する侵襲が少ないからです。他の化学的、物理的止血法の原理は組織をある程度傷害して止血しますので、重症例では止血困難、あるいは止血後の修復遅延が予想されます。
診療の手順は通常は下図のように説明されることが多いと思いますが、これですとショックを離脱しないと内視鏡はしない、ということになります。

胃・十二指腸潰瘍出血への対応

■ SRMDに対して
SRMDは重篤な基礎疾患からの侵襲によるカテコラミンやサイトカインなどの影響から臓器低灌流が起こり、粘膜血流や消化管運動の低下等によって急性潰瘍ができると説明されています(Stollman N, Metz DC. Pathophysiology and prophylaxis of stress ulcer in intensive care unit patients. J Crit Care. 2005;20(1):35?45.)。つまり、SIRS、敗血症による多臓器障害(MODS)で、上部消化管に起こる一分症ということです。
Cook DJらが、N Engl J Med. 1994 Feb 10;330(6):377-81.に、Risk factors for gastrointestinal bleeding in critically ill patients. Canadian Critical Care Trials Group.でその頻度やリスクファクターを報告しています。2252例のうち33例、1.5%で臨床上重要な出血が見られ、呼吸不全(人工呼吸器使用)と凝固障害がリスクファクターでした。致死率は48.5%と出血がなかった9.1%に比べて非常に悪かったので、予防の重要性が指摘されていました。

これを受けて我々は、救命救急センターでどれぐらい発生して、止血成績がどうか、を調べてみることにしました。Hemostasis with endoscopic hemoclipping for severe gastrointestinal bleeding in critically ill patients(Am J Gastroenterol. 1996 Apr;91(4):701-4.).発生率は1.1%で、全例人工呼吸器管理されていました。全例一次止血に成功し、止血後のアパッチスコアは止血前より低下していました。
このことから、重篤な状態でも積極的に止血を試みることによって救命率が上がるかもしれない、と考えました。そこでSRMDに積極的にクリップ止血法を行って予後がどうなるか検討しました。発生率は0.7%で致死率が19%と、先ほどのCookらに比べて低下させることができました(Nemoto M, Ohta S, et al.; Aggressive endoscopic hemostasis for severe gastrointestinal bleeding in critically ill patients to decrease mortality. Hepatogastroenterology 2006;53:381-4.)。

■ ショックに対して
何よりもまず、ショックを早期に認識することが重要です。出血があっても、カテコラミン等の代償機転が働くので、血圧はすぐには下がりません。このカテコラミンによる代償機転は冷汗、血管収縮による蒼白、冷感、心拍数増加等の所見によって把握できます。ですから、数値にとらわれずに身体を診る、触れる、ことが重要なのです。
また、Shock Index(心拍数/収縮期血圧)は参考になります。その後だんだんに血圧は低下しますが、これは代償機転の限界を超えたということを意味しているので、収縮期血圧が低下したらかなり危険な状態なので急いで直ちに反応しなければなりません。脳灌流も低下するので、不穏や非協調性等の精神症状も出てきます。これらの症状を単なる精神的なものと片付けてしまうのは危険です。
その他には、脈圧狭小化、平均動脈圧低下、尿量減少、尿比重上昇等があります。まずは、血圧に頼りすぎないで、ショックの早期の認知に心がけ、ショックなら早く対応します。モニター装着と同時に酸素投与や静脈路確保を行うことが標準的な救急対応です。これは、ABCDEアプローチに沿って、全身を生理的に評価し、異常を安定化させます。

標準的な救急対応

続いて、ショックへの対応とその鑑別を図に示します。

ショックへの初期診療アプローチ

初期輸液は2ルート以上を用いて、温めた細胞外液を1~2L行い、血圧が反応して90mmHgを超えるものをResponder、反応しないものをnon-Responderといい、この場合には輸血などの根本治療をすぐに始めないと救命が難しくなります。

さて、上部消化管出血の重症度や内視鏡的止血法の効果については局所所見(活動性出血の有無等)によって検討されることが多く、これが重症度にも反映されています(スコア表)。
しかし、救命救急センターでは全身状態が悪いことが多いので、全身の状態であるショックと局所の状態である出血形態のどちらが重症度や止血率に影響しているのかを検討しました。その結果、ショック例は凝固機能が悪く、輸血量が多い、つまり重症度が高いことが予想され、クリップ止血法による止血率は出血形態(局所所見)より、ショック(全身状態)に依存しました(Ohta S, et al.,: Efficacy of endoscopic hemoclipping for GI bleeding in relation to severity of shock. Hepatogastroenterology 2003;50:721-4.)。

この結果から、止血率向上には、止血とともに全身状態の早期改善つまり、さらに積極的な抗ショック療法が必要だと考えました。さらに止血率を上げるために、重症例(non-Responder)には、積極的な全身管理とともに、局所にも積極的な治療が必要と考えて、HSE+クリップ併用療法を行い、さらに、入念なフォローアップ(24時間以内、3日毎)を行い、高い止血率が得られました(Goto H, Ohta S, et al.: Prospective evaluation of hemoclip application with injection of epinephrine in hypertonic saline solution for hemostasis in unstable patients with shock caused by upper GI bleeding. Gastrointest Endosc 2002;56:78-82.)。
2010年にAnn Intern Med.; 152:101-113に報告された非静脈瘤性上部消化管出血患者の管理に関する国際同意勧告では、蘇生、重症度評価、輸血、リスク患者への併用療法等が記載されています(資料)。

?再出血、死亡リスクを増加させる因子としては、全身的なものとしては、65歳以上(高齢者)、ショック、全身(栄養)状態不良、基礎疾患有、初診時Hb低値、出血傾向、メレナ、輸血必要性、鮮血出血、敗血症、内視鏡所見としては、活動性出血(噴出性)、太い露出血管、凝血塊付着、2cm以上の潰瘍、等が報告されています。
私自身はnon-Responderに対して、これは消化管出血だけでなく、外傷でも、通常通りの対応をしていたのでは救命が困難であることを多く経験してきました。そのために、上部消化管出血による出血性ショックの場合にはCの評価と安定化のために、つまりショックに対する蘇生の一環として内視鏡が必要と考えてきました。

ショックでは、Aを確保し、Bを安定化させます。Aの確保は再吐血や内視鏡施行時の嘔吐による気道緊急に備える、内視鏡施行時のセデーションによるBの抑制に対して、という意味で、普段より早めに検討します。Cについては、急速輸液の効果により重症度を判断し、輸血(Hb<7g/dl (7~9 g/dl )、予測上昇値=投与Hb量(g)/循環血液量(dL)(70mL/kg/100))や止血法等の治療方針を選択します。
さらに、大出血では、外傷での死の3徴候といわれる、アシドーシス、低体温、凝固異常があれば、予後がきわめて悪いので、これらの早期の是正とともに、いっときに生体に侵襲を与えすぎないように、手術によるダメージを分割する(コントロール)、ダメージコントロールという考え方が重要で、これには、単に術式のみではなく時間も大きな因子です。

このように重症の消化管出血に対しては、重症度判断に基づいて全身状態、つまり全身の生理学的安定化を第一とする救命救急診療の全身管理(組織酸素化の最大化(組織灌流上昇【輸液、昇圧】、Abdominal Compartment Syndrome)、保温(喪失予防、温輸液、持続保温) 、凝固因子補充療法(FFP:PTINR>2、APTT基準値の2倍以上、循環血漿量の2~30%を補完、血小板:5万/μL不安定、予測上昇値=輸血総数/循環血液量mL×103×2/3)、等も含め)の一部として、内視鏡的治療が位置づけられると考えています。

胃・十二指腸潰瘍出血に対する診療フローチャート

このLife-saving endoscopyというべき内視鏡は単に内視鏡だけでなく総合的な治療の一環、つまりInterventional radiology、手術が可能な場所、人とともに検討されていくことが望まれます。
東京医科大学病院救命救急センターでは、ERを放射線管理区域としてmobile radiologyが可能で、かつ緊急手術にも対応しており、ここで止血治療を完結することができます。そこで、侵襲を制御するダメージコントロールの概念のもとで、限られた時間軸のなかで、現存する止血手技を縦横無尽に駆使して、超重症例の救命にチャレンジしています。

外科的止血を考慮すべき状態として、①内視鏡止血困難、②急速大量輸血、③繰り返す再出血、④高齢者、⑤重篤な合併症等が言われていますが、時期等を含めて明らかなエビデンスはなく、内視鏡で止血不能、3回目の内視鏡治療で再出血、4単位の輸血で循環動態が安定しない、輸血量が2,000mlを超えても止血不能、ショックを伴う再出血等、様々です。
我々の最近の検討では、ショックの治療の一環として内視鏡検査を行い、活動性出血が続いているショック持続例で止血困難、視野不良ではすぐ外科的止血へ、視野不良で活動性出血がなく、ショックではない場合は経過観察かIVRを即座に判断しています。視野不良の場合にはやみくもに時間を費やさないことが大切です。

さて、このような挑戦に対応可能な救急医を育成するためには、基礎的な内視鏡研修、臨床での重症例での経験、学会発表や論文を読む等の考察や勉強が大事ですが、さらに早く育成することが急務だと考えています。そのためには、シミュレーターや動物を用いた総合的なシミュレーション教育、診療前後のフィードバックを用いることが有用だと思っています。重症になればなるだけ、術者だけでなく、介助や全身管理のサポート等チーム医療が重要になってきますが、これに対しては、多職種で連携して、ノンテクニカルスキル、チームビルディングも学べるような環境づくりをしたいと考えています。

■ ちょっとしたコツ

ショックでは低侵襲で、確実な止血を心がけます。
凝血塊は色、量、周辺の状況をみて、活動性か否かを判断します。視野不良の場合には、体位変換や洗浄も有用ですが、これらに時間を取られすぎることなく、緊急性を判断して、翌日再検、IVR、手術を判断します。
クリップによるマーキングはIVR時に有用です。確実に止血するには、クリップで深く把持します。つまり、より、垂直に、より強く押して、ということになりますが、クリップを閉じる際に吸引する、クリップを閉じたまま当てて押し付けながら開く、クリップ鉗子だけでなくスコープ操作、空気量の調整も併せて行う、等があります。
HSEとクリップを併用する場合には、HSEを先行させ、柔らかくしておくとより深くかかります。出血点が確認できて止血処置に入る場合には輸液・輸血量を調整して出血量をコントロールして見やすくします。

■ 止血剤の効果
トランサミンはトラネキサム酸(アミノ酸リジンの合成誘導体)でプラスミノーゲンのリジン結合体を切断し線溶を抑制します。40カ国、274施設で行われた研究では、多量出血(SBP<90mmHg, and/or HR>110回/分)もしくはリスク有に対して、8時間以内に1g/10分+1g/8時間を投与し、4週以内の在院死で有意差が報告されています(Clinical Randomisation of an Antifibrinolytic in Significant Haemorrhage 2)。
我々は血友病に使われる薬剤(遺伝子組換え活性型第VII因子製剤)を用いて、骨盤骨折における止血効果を血管造影で確認するという研究をしました(Visualization of efficacy of recombinant factor FVIIa in a pelvic fracture patient. Journal of Trauma 64(6): E86-E88, 2008)。

このように救急医は出血との闘いで、いかに早く、上手に止めて、その後何もなく社会復帰できるか、ということを考えています。