太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第7回〕 熱中症に負けない

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今年もまだまだ暑い日が続きます。熱中症は高熱が身体に悪影響を及ぼすことによって起こります。つまり、原因は明らかですので、十分に注意すれば基本的には予防できます。多くの人が正しい知識を身に付けて、予防、早期発見・対応していただきたいと思い、このことはいろいろな折にお話しするようにしています(東京医科大学病院 熱中症に関するお知らせ)。
今回は熱中症の分類、対応、予防から最近の研究までまとめます。ぜひ一般の方に説明される際の参考にしてください。

■ 熱中症とは

高温や多湿な環境下で、脱水と熱によって起こるすべての障害をいいます。高い熱によって細胞は障害を受けます。一般の方には、熱による臓器不全について、目玉焼きを例に説明しています。目玉焼きの白みはフライパンの余熱でも多少白く固まりますが、これは熱によって蛋白質が変性した状態です。その結果、細胞が働かなくなり、細胞から成り立っている臓器も機能しなくなります。これが熱による臓器不全です。

身体は、熱産生(体温を上げる作用)と熱放散(体温を下げる作用:汗の蒸発;気化熱と、皮膚温と環境温の差で起こる皮膚から体外への熱移動)によって、厳密に体温のバランスを保っています。
気温がいくら上がっても、湿度が低く、風があれば、大量に発汗して汗が蒸発するので(熱放散増加)、体温は上がりません。しかし、風もなく、湿度が高くなれば、汗が蒸発しないので、体温は上がります。炎天下の閉め切った車の中はまさにその条件に合致するので、買い物などのちょっとの時間でも子供やペットを車内に残しておくとすぐに熱中症となり生命にも危険が及びます。

古典的熱射病は、夏の猛暑に、座っていることが多く、エアコンをつけず、水分をあまりとらない、高齢者に起こります。記録的な猛暑だった2003年、ヨーロッパで高齢者を中心に多数の死亡が報告されました。発症までに2~3日かかったようです。加齢とともに発汗しにくくなり、皮膚血流量が低下する結果、皮膚から熱が逃げにくくなるので、熱を下げる作用が弱くなり、加えて風のない室内では熱放散がさらに低下し、体温が上昇します。また高齢者は症状に乏しく水分摂取が少ないため、身体の水分(細胞外液)は減少し、体温がより上昇しやすくなります。

一方、労作性熱射病は健康な人でも、高温環境での強度の労作によって、大量発汗による著明な脱水、熱産生増加と汗の蒸発減少に伴う体温上昇が起こります。横紋筋融解、腎不全および凝固異常がみられます。高体温と虚血による各臓器の変化を表にまとめます。

熱中症は、(1)脱水を起こしやすい、(2)自律神経機能が低下しやすい、(3)暑さに順応しにくい、の3つが危険因子で、特に、子供や高齢者、肥満や運動不足、慢性疾患患者(特に心・精神神経・腎・糖尿病・皮膚疾患)が熱中症弱者といわれます。
汗をかいているうちにめまいがしてきたり、ふらついたり、筋肉痛、頭痛等が起こり、だんだんボーっとしてきます。そして、重症になると意識を失い、これは非常に危険です。以下に熱中症の症状を段階的にまとめます。

(1)大量の発汗・めまい・ふらつき・筋肉痛
(2)頭痛・嘔吐・倦怠感・集中力や判断力が低下し意識が朦朧とする
(3)意識障害


※1 石井友理他 熱中症・脱水症への対処方法(耳鼻咽喉科・頭頸部外科 急患・急変対応マニュアル 2013 85 54)より作成。

【体温が上昇しないもの】

<<熱失神>>
頭・項部を長い時間、太陽に直接照らされた場合に起こります。熱により手足の皮膚血管が拡張し、相対的に脳や内臓への血液量が減ります。

体温  : 正常かやや低目
症状  : 頭痛、めまい、意識混濁 (一過性)、頻脈、血圧低下、冷汗、手足冷感
対処法  : 直射日光を避ける、風通しのよい場所へ移す、下肢を高くして寝かせる、水分を摂る
予防法  : 頭・項部に直射日光が当たらないようにする

<<熱痙攣>>
大量に発汗した後、水分や塩分が補給されないと起こります。水分とともに塩分も欠乏する脱水症が原因です。

体温  : 軽度上昇
症状  : 発汗、吐き気、めまい、口渇、腹痛、意識混濁、手足に有痛性の痙攣
対処法  : 水分(塩分)を摂る
予防法  : 発汗の程度に応じ、塩分を摂る、スポーツドリンクを薄めて飲んで補給する

【体温が上昇するもの】

<<熱疲労・熱射病>>
高温多湿な場所で、熱産生が熱放散を上回り、体温調節のバランスがくずれて、体内に熱がこもる、いわゆるうつ熱状態です。熱疲労は体温が40℃以下で、熱射病の前段階です。著しい発汗による高温、脱水、末梢血管拡張による循環不全で、この状態がさらに進行して、高温による組織障害が加わったものが熱射病です。全身の細胞障害が起こり、さらに42~43℃が数分以上続くと細胞は変性・破壊します。熱射病は、多臓器不全およびしばしば死亡を引き起こす全身の炎症反応を伴う高体温です。

症状  :  全身の著しい発汗、耐えがたい口渇、倦怠感、吐き気を感じ、発汗停止、皮膚乾燥・紅潮、体温上昇、意識混濁 (昏睡、痙攣など種々の中枢神経症状)、全身の臓器障害
対処法  :  急速冷却 (ぬるま湯を浸したタオルかガーゼを体にかけ、扇風機などの送風による液体の気化を利用して冷却します。震えると熱を産生しますので注意します。)。

熱中症はこの他にも以下の分類も用いられています。

※2 本邦における熱中症の現状 -Heatstroke STUDY 2010 最終報告より。

■ 対応

現場での対応
高温多湿環境下にある、またはそれ以前にあった場合には、すべて熱中症の可能性を念頭に置きます。対応は、冷やすことと水分(塩分)を補うことが基本ですが、反応(意識)、呼吸(息が早く浅い)、循環(脈が弱い、顔面蒼白等ショック症状がある)が悪い場合には躊躇せず救急要請します。
冷やすには、まず、涼しい場所へ避難させ、次に、服を脱がせ、あおいで風を送る(体表面をぬるま湯で濡らすとさらに効果的です)、氷嚢などで頸部、腋窩部、鼠径部(動脈が体表面にある部位)に当てる、をします。氷嚢で冷やす場合には震えないように注意します。震えると熱を産生しますし、また、冷たくなりすぎると血管が収縮して熱放散が低下しますのでこれにも注意します。

意識がはっきりしていて、自身で飲めそうな場合には、水を飲ませます。汗を大量にかいたときには意識して塩分を飲ませます。スポーツドリンクでもかまいませんが、糖分が多いので、2~3倍に薄めて塩を少量(1~2g)加えます。ブドウ糖が多少あったほうが吸収しやすいとされています。意識が障害されている場合には経口摂取はさせません。回復体位にして冷やします。症状が重いと感じたら、無理をせずかかりつけの医師に、病院に行くか救急車を呼ぶか迷うような場合は東京消防庁 救急相談センター♯7119等に連絡できるよう、紹介しておくのが良いでしょう。

ERでの対応
ABCDEアプローチで全身の安定化を図ります。その後の治療の基本は、冷却と脱水の改善(輸液)です。並行して発熱をきたす疾患との鑑別を進めます。意識障害や感染(敗血症)が先行して高体温になっている場合もあるので、熱中症のみと決めつけずに慎重に原因を検索します。

(1)冷却
深部体温(直腸温・膀胱温・鼓膜温)で体温測定し、必要に応じて、クーリングマット、冷水での胃洗浄や膀胱洗浄などを併用して体温を下げますが、深部体温が39℃になったら低体温に注意します。開胸や人工心肺を用いる報告もあります。解熱剤は体温中枢の設定温を下げて正常化させることによって熱を下げるので、感染症等の体温調節中枢の設定温が上昇する病態には効果があります。熱疲労は体温中枢に異常はなく、熱射病では体温中枢が機能を失っているので効果はありません。

(2)輸液
冷却した細胞外液を用いて急速に大量投与します。量は尿量(0.5/kg/h以上)、尿比重の他、USによる下大静脈径、中心静脈圧等各種モニターを用います。

(3)痙攣
脱水や電解質異常に伴うもの(こむら返り)と中枢神経障害によるものがあります。ジアゼパムが有用です。


※3 石井友理他 熱中症・脱水症への対処方法 (耳鼻咽喉科・頭頸部外科 急患・急変対応マニュアル 2013 85 58.より

■ 予防
熱中症は予防できます。また、なったとしても、有効な治療を行えば、重症でも入院は2日間が最多、死亡も最初の2日間で2/3という報告があります。つまり、死に至る高体温や臓器障害は早期に対応すれば早く回復できるということですから、やはり熱中症はその予防と重症化させないことが重要です。予防は、暑さを避けることと水分(塩分)補給が基本です。

(1)暑さを避ける
暑いところにいなければ熱中症になることはありません。熱中症弱者には特に重要です。高齢者は冷房を嫌がることが多いので扇風機を併用し28℃、70%以下を目標にします(詳しくはこちら)。
7月下旬までに多くが発生していますので、暑さに慣れていない時期には特に注意します。

(2)水分補給
汗をかいたり喉が乾いたら必ず飲むようにします。入浴や睡眠時も汗をかきますので、その前後には飲むのが良いでしょう。こまめに水分を取りましょう、とニュースでも言っていますが、水分制限をしている人は注意してください。尿がいつも通り出ていれば問題ありません。あまり出ない、出ても濃い場合には補給します。ビールやコーヒーは利尿効果があるので水分補給にはなりません。

(3)塩分補給
汗は水分とともに塩分も失われます。大量の汗をかいたり、高温多湿環境にいるときは塩分補給にも注意します。通常通り食事をする場合にはさほど神経質になる必要はないかもしれませんが、冷水(5~15℃)と梅干しやスポーツドリンクや経口補水液が有効です。糖分があると小腸での水と塩分が吸収されやすくなるとも言われています。市販のスポーツドリンクは糖分が多く、大量摂取は糖分の取りすぎに注意します。高齢者や心臓病、高血圧、腎臓病、糖尿病等で塩分や糖分制限がある場合には担当医に相談してください。
ボストンマラソンで低Na血症(Hyponatremia among Runners in the Boston Marathon N Engl J Med 2005;352:1550-6.)を調べた報告では、13%135mmol/L以下、0.6%が120 mmol/L以下で、水分摂取が多い、完走するのに長時間かかった、場合に多いという結果でした。このように運動と低Naには水分摂取、つまり希釈性の要素もあり、また、図のようなメカニズムも報告されています。


※4 Exercise-associated hyponatremia (EAH) CJASN 2007;2:151-161

(4)暑熱順化
やや暑い環境でややきつい運動を1日30分間、1~4週間行うことにより暑さに慣れるとされています。暑さに慣れることで血液量(皮膚血流)や発汗量が増加するので、体温上昇を抑制するとされています。運動直後に糖質とたんぱく質を含んだ食品(牛乳等)を摂取すると血液量増加により効果的とされています。中高年では3分間の速歩が推奨されています。血液量が少ないと皮膚血流量が低下し発汗量も低下する結果、皮膚表面からの熱放散減少、うつ熱、熱中症となります。以下の論文とともに、生気象学会のホームページの「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3に詳しく書かれています(Goto M、et al : Protein and carbohydrate supplementation during 5-day aerobic training enhanced plasma volume expansion and thermoregulatory adaptation in young men. J Appl Physiol. 2010 109:1247-55.)。

■ 熱中症の最近の研究
高体温でATP産生が低下することにより、細胞内がエネルギー危機となる体質の人が日本では13.9%~19.8%の範囲で見られ、これは、遺伝子を原因とする熱不安定型CPTⅡという酵素によることが徳島大学・疾患酵素学研究センターで確認されていました。重篤化した熱中症(熱射病)患者11人中5人(45.5%)が、高体温でATP産生が低下する場合と同じ形の遺伝子のタイプを持っていることが確認されました。つまり、熱中症が重篤化する人には、高温下でエネルギーの産生不全を起こし臓器不全を生じる遺伝子を持つ人が多い、ということがわかってきました。そうなると、熱中症は環境要因による外因性疾患とされてきましたが、遺伝子のタイプによっては、内因性の要素もあるということになります(織田順他:熱中症の新しいリスクファクターとしての 熱不安定性フェノタイプ症. 日本救急医会誌2011; 22: 350-1. )。

最後に、BMJ(British Medical Journal)で見つけたSPORTS DRINKS(The truth about sports drinks BMJ 2012;345:e4737)に書かれていた、Scaremongering(デマ屋)やDisease mongering(病気喧伝)という言葉、If they avoided sports drink they would get thinner and run faster.という文章が刺激的でした。運動中の水分の過剰摂取は、水分不足よりもアスリートにとって大きなリスクになるかもしれないという内容で、どんな論文も批判的に吟味することの重要性を再認識しました。
東京医科大学のホームページもご覧ください。

■ 引用文献
※1,3 石井友里他 熱中症・脱水症への対処方法(耳鼻咽喉科・頭頸部外科 急患・急変マニュアル 2013)
※2 本邦における熱中症の現状 -Heatstroke STUDY 2010 最終報告
※4 Exercise-associated hyponatremia (EAH) CJASN 2007;2:151-161