1. 〔第6回〕救急初期診療のキホン

太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第6回〕 救急初期診療のキホン

>>一覧はこちら

救急初期診療の標準化

昨今、ガイドラインに基づいて様々な救急初期診療が標準化され、外因、内因によらず、整合性が取られています。
第一印象の把握から始まり、第一ステップとしてABCDEアプローチで生理的徴候を、第二ステップとして解剖学的徴候と、順を追って、全身状態を安定させながら、より深く全身を何度も診ていきます。
救急時に最初に対応することが多い看護師(ファーストレスポンダー)の気づきを促進し、医師と協働するための情報伝達法にSBARがあります。

[SBAR]

Situation
: 状態
Background
: 臨床経過
Assessment
: 状況評価の結論(重症度・緊急度)
Recommendation
: 提言、具体的な要望・要請

この中でも観察やフィジカルアセスメントに基づいたRが重要だと思います。Rが促進されるような関係、職場づくりも重要な要件だと思います。

第一印象の把握

まず、最初の2~3秒で、患者を見て、聞いて、外観(見かけ)、呼吸仕事量(努力性か)、循環・皮膚色等を迅速に観察し、緊急度や重症度の高い病態、すなわち処置や蘇生をただちに行う病態かどうかを見極めます。重症感と考えたほうがわかりやすいでしょうか?手を触りながら胸を見る姿勢になりますが、この際にショックの5P'sは役に立ちます。

[5P's]

Pallor
: 皮膚蒼白
Prostration
: 虚脱
Pulselessness
: 脈拍微弱
Perspiration
: 冷汗
Pulmonary deficiency
: 呼吸不全

その後、第一ステップ(一次評価)、第二ステップ(二次評価)、さらに第三ステップ(三次評価)と全身の評価を徐々に詳細に行い、鑑別診断、決定的治療に進みます。

[一次評価]

Airway(気道)
: 発語
Breathing(呼吸)
: 数、努力、換気量、呼吸音、SpO2
Circulation(循環)
: 色、数、リズム、血圧、脈拍、CRT
※CRT(capillary refilling time):毛細血管再充満時間
Disability(意識)
: AVPU、JCS、GCS、対光反射
Exposure(体温環境)
: 全身観察:低体温、出血、腹部膨満等

この際に重要なのはABCの安定化を絶えず確認しつつ進む、何かあればすぐ一次評価に戻ることです。我々はどうしても何も起こらない定常状態であってほしいと思っています。ですから多少変動があってもひとまず、なんとか安定しています、と表現しがちです。救急ではそうではなく逆に、つまり悪い方に考えたほうが無難です。

つまり、以前より少しでも脈が触れにくければショックと判断したほうが、というより、すべきです。良い値を探すのではなく悪い値に反応するということです。そしてショックを疑えばAの確保(気管挿管)です。ここでも、そこまでしなくても大丈夫では、という考えが頭をもたげます。しかし、悪くなってからでは遅く、かつ、それからでは難しいのです。
悪くなったら○○しておいて、という申し送りには注意が必要です。今は悪くないのか、何がどう悪くなったら、何をどのようにするのか、自分だけで対応できるか、をその場で確認しておくのが良いと思います。

得意な手技なら多少は余裕を持てるかもしれませんが、苦手なら、特にAについてなら、くれぐれも、大丈夫なはず、が最も危険であることを肝に銘じておいてください。そして、全例にO2(酸素投与)-IV(輸液)-monitor(酸素飽和度、心電図、血圧等各種モニター)を行って、常に生理学的機能の変化を早期に把握して、異常があればすぐ安定化させることを考えます。

二次評価では、SAMPLE、OPQRSTに沿った系統だった病歴聴取から始まり、頭の先から足の先までの詳細な身体診察、Tertiary Assessment(三次評価)では、各種検査所見、画像所見が加わります。いつも、このように、診療を進めることにより、全身を段階的により詳細に何度も診ていくということになり、見落としも遅れも少なくなります。

[SAMPLE]

Symptoms
: 主訴
Allergy
: アレルギー
Medication
: 内服
Past medical history & Pregnancy
: 既往歴・妊娠
Last oral intake
: 最終摂取
Event
: 状況

[OPQRST]

Onset
: 発症様式
Palliative/Provocative
: 増悪・寛解因子
Quality/Quantity
: 症状の性質・程度
Region/Radiation
: 場所・放散の有無
Severity/associated Symptom
: 程度、随伴症状
Time course
: 時間経過

くも膜下出血、心筋梗塞・狭心症、髄膜炎、腹膜炎、急性大動脈解離などはキラーディジースといわれ、これらはどんなに軽い症状であっても、その警告信号(キラーシンプトム)とともに、たえず念頭に置いて診療を進めます。

救急ワンポイント! ~Aの確保~

救急初期診療の基本はABCですが、その中でもAは重要です。窒息に代表されるような気道閉塞等A自体に問題がある場合はもちろんですが、B,C,D(意識)に問題がある場合にもAの確保を優先します。Cの異常、それも血圧が若干低い、血圧は維持されているが脈拍が早い等の場合にもCの異常があると判断してAを確保しておくことをお勧めします。

今以上に状況が悪くなった場合にAを確保するのは大変難しいので熟練を要します。我々救急医でも難渋することがありますので、慣れていない、自信がない、ならその分早く判断して早く対応しておく方が安心です。

何かあった際のことをあとで振り返ると多くの場合に、安定していると思わないこと(そう思いたいのですが、ぐっとこらえて)、しなくていい理由を探すのではなくする理由がひとつでもあればすること、が大事なように思います。

Aの異常の代表的な病態にアナフィラキシーショックがあります。喉頭浮腫により気道閉塞をきたすので、緊急対応が必要です。気管挿管は細いチューブを用いますが、準備する間に用手気道確保、BVMで換気しながら、まずはアドレナリン0.3mgを筋肉内投与します。その薬理作用としては、化学伝達物質の放出を抑制し、アナフィラキシーの反応そのものを抑えること、及び以下があります。

α1作用 : 血管収縮作用、(血圧上昇、声帯浮腫や気道粘膜充血除去)
β1作用 : 心収縮力増大、(血圧上昇)
β2作用 : 気管支平滑筋の弛緩、(気道拡張)

効果が十分ではない場合には、β遮断薬内服の可能性も考慮してグルカゴンを用います(1~5mg)。ステロイドは遅発性の反応を抑制するために投与します。上気道閉塞が逼迫しているときには救急搬送の準備をしつつ輪状甲状間膜穿刺を行います。

救急初期診療の標準化

エラスター針(12Gや14Gのなるべく太いもの)と5-10mlの注射器(エラスター針と注射器とは接続しておく)、あるいは、市販の経皮的気管穿刺針セット(ミニトラックTM、トラヘルパーTM)を用います。

(1)甲状軟骨正中を確認し、上甲状切痕と輪状軟骨との間の陥没を触れ(図)、
この刺入点を確認して消毒する。
(2)皮膚に垂直に針を刺入し、注射器で陰圧をかけ挿入する。気管に入り空気が引けたら、針の刺入角度をほぼ45度まで頭側に倒して、外筒のみを先に進めて気管内に挿入し、内筒と注射器を抜く。
(3)必要であれば複数の針を挿入する。

これは一時的な避難のための手技です。引き続き開膜切開に移ります。

(1)メス、気管チューブ、曲がりペアンを用意する。
(2)甲状軟骨を固定し、靭帯上の皮膚を横に1-1.5㎝程度切開し、その後、靭帯を切開する。
(3)曲がりぺアンで気管を開き、塞がらないように保持する。
(4)気管チューブをカフが見えない程度まで挿入してカフを膨らませる。