1. 〔第5回〕学会・論文発表のキホン

太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第5回〕 学会・論文発表のキホン

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考える、ということ

ある入学式での式辞で、この変化の時代では、自分の頭で考えることが重要、というお話がありました。さらに、自分の頭で考えられるようになるためには、学問をすることが大事で、学問をするとは、自らが抱いた疑問に対して、何らかの方法で答えを求め、その答えが正しいかを何らかの方法で検証することである、とのことでした。このようなお話を伺って、学問をしていれば社会の変動にも順応していけそうな実感が湧いてきました。

これはまさに臨床医学そのものです。臨床では、その場、その場での状態を把握して、何が起こっているかを考え、それに対応する。そしてその結果どうなったか、今後さらにどうなると思うか、だから何を準備すればいいのか、を考えます。学問をするためには、興味や疑問を持つことから始まります。本当か? と疑うことも、その根拠を理解しようとすることも必要でしょう。今はインターネットを用いて世界中に聞いて確認することができます。専門の○○先生がこう言っていた、家族の希望だから、というだけでなく、診療方針を決める際はエビデンスを元に自分で考えてみることが必要だと思います。

学会発表

考えるきっかけとしては、まずは学会発表が良いのではないでしょうか?
学会、正確には学術集会での最初の発表は先輩から言われるままに始まることが多いと思います。先輩に言われたとおりに整理して報告すると、何が言いたいの?と聞かれたりします。何が言いたいも、言われたから、というのが本音かもしれませんが、一度請け負ったらそこからは自分の仕事です。
発表するのですから、当たり前のことを当たり前に話すのでは面白くないので、とにかく『お土産』を探して見つけ出します。
「お土産」とは、この発表を聞く人にとって何がありがたいか、つまり明日からの臨床に具体的に活かせるもの、です。その中でもオリジナリティーの高い発見が良いでしょう。私もこの「お土産」を見つけるために毎日毎日、朝から晩まで考え続けたものです。

そうしていると、夜、飲みながらでも、朝起きたらその場から、考えていることが浮かんできます。私はこれを「頭の中で浮かせておく」と表現しています。頭の中に置いて常に意識しておくと、ある時、何かの時にすっと、光に照らされたり、繋がるときがあります。これは快感です。
こういう時には忘れないようにメモしておきましょう。このようにぎりぎりまでお土産を見つけ出して、それをできるだけわかりやすく伝える、のが学会発表です。とことん、ぎりぎりまであきらめたり妥協せずに、考えて、絞り出してください。

わかりやすく伝える

「救急診療ではこれらのことも考えておく必要が示唆された」という結論から明日の臨床に活かせることは、「いろいろなことを幅広く考えておくこと」となります。これは確かに大事です。でもその中でも、何をどのように考えておくと、実際により活かせるのか、それにどこまで意味があるのか、つまり実際の臨床現場で活かすためには、より具体的なことが必要とされます。そこまで、ぎりぎりまで研ぎ澄まさないと実際の臨床の場面では使えないかもしれません。

プレゼンテーションでは言いたいことを、よりわかりやすく伝えられるように考えます。まずは見やすく、が基本ですから、文字や色が多すぎないように注意します。従来の形にあわせるよりも、言いたいことを、正しく伝えるために、どのように見せたら良いか、つまり、見せる意味を考えるのが良いと思います。
今までの決まった体裁や定型を疑ってみるのはどうでしょう。検査結果などの陰性所見を列記するのは、引用文献を載せるのは、どういう意味があるのでしょうか。限られた枚数ですから、意味のあるものを、こちらの意図が伝わるようにプレゼンテーションします。これは日々のケースカンファレンスでのプレゼンテーションも同じです。

準備が整ったら予演会です。予演会では仲間内からいろいろな意見や質問が出てくると思います。ここでは、無難に済まそうと思わずに侃々諤々(かんかんがくがく)、意見を闘わせるのが良いと思います。内容がより研ぎ澄まされていきます。予演会が活発であればあるほど良い発表になります。そして、いざ本番です。本番では時間厳守を心がけてください。東京医科大学救急医学講座が担当した第39回日本救急医学会では抄録集に「会長(行岡哲男)からの特段のお願い」を載せました(参加者へのお知らせ)。

論文発表

学会で発表したらそれを文字に残します。発表用のパワーポイントや読み原稿を文語に変えるだけで良いので、発表後すぐにまめに書いておくのが良いと思います。これがくせになると積もり積もってまとまった量になります。またそのうちに、としまっておくと…これはよく経験する結果になります。
まめさは良い臨床医になるためにも必須だと思います。医学雑誌に投稿してしばらくするといろいろなコメントが返ってきます。"It is unfortunately…"とか、"There are no space in…"とかの文言があればその場でアウト!即死です。
最初にわかってしまうところが英語ですが、ただ、reviewerのコメントは有用なことが多いので、参考にして内容を追加し研ぎ澄ませて書き換えていくと、論文の精度が上がっていきます。

発表や論文の内容についてはとにかくいろいろな人とディスカッションするのが良いと思います。自分では気づかなかったことを気づかせてくれます。医学雑誌は、出版数や引用回数でImpact Factor(IF)が決まっています。何度も直しているうちに最終的にIFの高い雑誌にアクセプトされた、という話もあります。あきらめない心、が大事だと思います。アクセプトの通知を手にすると、よく頑張った、と喜びもひとしおです。
和文誌は日本人の目にしか触れませんが、英文誌は世界中の人が見ていますので、地球の裏側から質問が来る時もあります。書いて残すことによってそれが日本以外でも活用され、実際の臨床に活かされる、とてもいいものだと思いませんか?

論文は日常の疑問から湧き出てくるものですが、論文がアクセプトされるためには、論文を読む相手にとって興味があることがいいでしょう。どういう雑誌がどういう特集をしているか、どういう論文を採用しているかを見ることは、相手を知ることも役に立ちます。

救急ワンポイント! ~転院搬送~

重症救急患者は初期診療、特に、ABCを安定化させつつ、より高度な医療機関に急いで転院搬送するのが原則です。従来は知り合いの先生を頼って、あるいは直接、連携している病院に電話して、等々でお願いすることが多かったと思いますが、これらの連絡にはかなり時間がかかります。急を要する場合にはそうもしていられないので、消防と連携して医療機関を探します。日頃から救急隊は現場で傷病者の重症度や緊急度を判断し、それにあわせた医療機関を選定しています。

わが国の救急医療体制は重症度や緊急度にあわせて医療機関が初期・二次・三次(救命救急センター)と層別化されています。そして東京の場合、救命救急センターの様子は東京消防庁の司令室が把握しています。
救急救命士制度が導入され、救急現場で高度な医療行為(特定行為)ができるようになりました。医師法第17条では医業は医師にのみに許されています。医業とは反復継続して医行為を行うことです。このため特定行為を行う際には直接の医師の指示を受けることが義務付けられています。

このようにこの制度によって、消防機関と救急医療機関との連携が強化されました。そこでメディカルコントロール体制という概念ができました。
メディカルコントロール(MC)とは、救急現場から病院まで(病院前救護、プレホスピタルケアと言います)の医療の質を保証するシステムで、具体的には、救急救命士の業務そのものへの指示・指導・助言を直接その場で行うこと(直接MC)、行ったことの事後検証とそれに基づいた再教育(間接MC)があります。

これを実践するために各地域で行政も加わってMC協議会が組織されています。このMC体制は、救急、特に病院前救護に限らず、医療・福祉に広くあてはまると思います。