1. 〔第3回〕DtoD救命救急塾 ~前編~

太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第3回〕 DtoD救命救急塾 ~前編~

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第1回DtoD救命救急塾ちらし
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昨年2012年11月18日、東京都品川区大崎で開催しました、第1回DtoD救命救急塾について、これから2回にわたって振り返ります。
まず今回は、前半部分の、METシミュレーショントレーニング、ランチョンセミナー、ERなカンファレンスについてまとめました。

1. METシミュレーショントレーニング

【講師】 児玉 貴光(The University of Texas Southwestern Medicine, Department of Surgery)

児玉先生は地域医療を経て、救急集中治療を経験されています。現在テキサスに留学されていて災害を勉強中です。
日本救急医学会認定救急科専門医、プライマリ・ケア連合学会認定医、内科学会認定内科医、化学療法学会抗菌化学療法認定医でいらっしゃいます。
METとは、2005年6月に開催されたthe International Conference on Medical Emergency Team (ICMT ) に、患者安全、病院医学、集中治療、METの専門家が集まり、「院内で重症化する前に徴候を発見し、介入することで、予後を改善するために、Rapid Response Systemを病院に導入する必要がある」と宣言したそうです(Devita MA, Bellomo R, Hillman K, et al. Findings of the first consensus conference on medical emergency teams. Crit Care Med.2006 Sep;34(9):2463-2478.)。
米国医療の質改善研究所(Institute for Healthcare Improvement: IHI、世界のヘルス・ケアの改善を先導する非営利財団)からHow to guideが出ています(http://jsem.umin.ac.jp/pdf/How-toGuide_rrt_j_130109.pdf)。
RRSで活躍するチームとして、Medical Emergency Team (MET) は、集中治療医を中心とした医師が主導するチームで、ベッドサイドであらゆる処置が可能です。Rapid Response Team(RRT) は、米国では看護師や理学療法士を中心としたチームとされていますが、オーストラリアではほぼMETと同義とされているそうです。
さらに、Critical Care Outreach (CCO) Team は、主として英国で稼働しているICU看護師と集中治療医が共同して運営するチームで、急変入室患者のみならず、ICUを退出した患者の術後疼痛や気管切開に関する管理も行うそうです。
METシミュレーショントレーニングでは、チームがどのように動けばいいかをシミュレータを用いて実際に体験していただきました。

2. ランチョンセミナー

「肺炎診療における新しい知見―注射用マクロライドは肺炎治療のアウトカムを変える事ができるか―」
【座長】 太田 祥一(東京医科大学救急医学講座教授)
【演者】 舘田 一博(東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授)
【共催】 ファイザー株式会社

館田先生とは救急感染症塾でご一緒させていただいていますが、お話はいつもわかりやすく大変勉強になり、感染症への興味が深まります。ここでは、マクロライドと肺炎治療について、簡単に論文紹介しておきます。

ATS/IDSA guidelineでは、肺炎の重症度に関係なくΒラクタム系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用が初期治療に推奨されている。特に重症度が高い場合には、Βラクタム系抗菌薬とマクロライド系あるいはキノロン系抗菌薬の併用が推奨されている。マクロライド系薬剤の併用は抗菌作用の他、抗サイトカイン作用が期待されている。
海外での肺炎治療でマクロライドの併用療法が生存率改善に寄与しているという報告が相次いでいる。
Combination antibiotic therapy with macrolides improves survival in intubated patients with community-acquired pneumonia.I Martin-Loeches et al. Intensive Care Med 2007;36:612-620.

[文献紹介]
Mattu, A et al. Electrocardiography in Emergency Medicine. ACEP Bookstore 2007. 133-8. 204-5.
救急医の目から鱗のECGの本だそうです。

ヨーロッパ9か国、27のICUでの試験で、重症市中肺炎でICUで48時間以上人工呼吸管理をされた患者にβラクタムにマクロライド併用群はフルオロキノロン併用群に比べ、(敗血症に関わらず)ICU死亡率が低下した。
Antibiotics for bacteremic pneumonia Improved outcomes with macrolides but not fluoroquinolones. Metersky ML. Chest 2007; 131:466-473.

菌血症性肺炎2209例で非定型を病原体をカバーした抗菌薬投与(マクロライド、キノロン、テトラサイクリンのいずれか投与)で、なかでもマクロライド投与が再入院リスク、30日死亡リスクとも低かった。これはマクロライドの免疫調整作用のためで、より早くより長く投与することが予後を左右する。
Impact of initial antibiotic choice on clinical outcomes in ca pneumonia. Brown BB et al. Chest 2007; 131:466-473.

非重症市中肺炎(初期よりICUへ入院、人工呼吸器装着ではない)の初期治療で、βラクタム、ペニシリン、キノロンの単独療法と比較し、各薬剤とマクロライドの併用療法では、治療後30日間の死亡率が有意に低かった。その理由としては、(1)スペクトル拡大、(2)作用機序の異なる抗菌薬併用によるシナジー効果、(3)抗炎症作用の3つが考えられる。

3. ERなカンファレンス

【講師】 日比野 誠恵(ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部)

米国のERを想定し、多様な診療科に関わる多岐にわたる急性度の患者を、時に同時進行で、マネージメントするという設定で、行われました。米国の救急医学専門医口頭試問を参考にし、やや複雑な2症例、比較的簡単な3症例を検討しました。既往歴、現病歴等の症例呈示、簡単な検査結果から、ERでどうマネージメントするかが問題です。解説では鑑別診断や参考文献にまで触れていただきました。

日比野誠恵先生は、北里大学を卒業された後、海軍病院を経てアメリカで活躍されています。アメリカ救急医学会では日本大使、日本救急医学会でもER検討委員会のアクティブメンバーでいらっしゃいます。

症例1 : 57歳白人男性 胸痛と呼吸困難
HT、COPDのある肥満患者ですのでACSはまず念頭に置きます。踵の術後で浮腫は左に強く、ECGはST低下、胸部レントゲンは軽度うっ血があります。
鑑別は、1?ACS with CHF、2?PE、3?Sepsis with ARDSで、US、CTでPEの診断がつきました(PE mimicking AMI)。PEの心電図では、異常所見が70%に見られるものの特異的ではなく、有名なS1Q3T3は12%程にみられるそうです。T波の陰転化は AW(usually deep)、IW(usually shallow)の特徴があるそうです。ACSとPEではその後の治療が大きく変わりますので、これはとても貴重な症例だと思います。

症例2、3、4はほぼ同時に来院した。
2 : 60歳白人女性 舌下及び頸部腫脹、疼痛
3 : 52歳白人女性 足を組んだ後の左臀部痛
4 : 20歳白人男性 発達障害の既往、肛門部の違和感

問題は、
1?肛門病変は疼痛が強いので最初に診る。
2?肛門周囲膿瘍からフルニエ壊疽の可能性もあるので最初に診る。
3?確か股関節脱臼は早く整復しないと大腿骨頭壊死が起こるので最初に診る。
4?頸部病変からの気道に問題がないことを最初に確認する。
さて?

症例2 : 60歳白人女性 舌下及び頸部腫脹、疼痛
Ludwig's Anginaで歯科治療後によく見られる感染症です。臨床的に疑えばCTで診断し、抗菌薬治療を開始します。頸、口腔の問題ですから、まずAの問題に注意します。

[文献紹介]
Ludwig Angina
https://umem.org/pearl_view.php?p=280
http://www.emalliance.org/wp/archives/4665
http://journals.lww.com/em-news/Fulltext/2004/02000/Diagnosis__Ludwig_s_Angina.14.aspx
症例3 : 52歳白人女性 足を組んだ後の左臀部痛
補綴股関節脱臼は始めの2ヶ月に起こります。後方脱臼がほとんどで、大腿骨頭壊死はありませんが、坐骨神経の損傷の可能性はあります。整復はCaptain Morgan Techniqueといわれる方法があるそうです。Captain Morganとは、有名なラム酒のラベルになっている人で、その左足が整復の際と似ていることから来ているそうです。
救急医は整形外科医と整復率はほとんど同じですが、より迅速に整復すると報告されているようです。

[文献紹介]
Prosthetic hip dislocations: is relocation in the emergency department by emergency medicine staff better? Emerg Med Australas. 2012 Apr;24(2):166-74. (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22487666
我々救急医にとっては追い風になる論文です。日本でも様々な分野で挑戦していきたいものです。
症例4 : 20歳白人男性 発達障害の既往、肛門部の違和感
直腸脱は小児、年配者に多く、腹圧上昇(咳、便秘/下痢、前立腺肥大)、骨盤靭帯等の脆弱(多産など)で見られます。多くは徒手整復できますが、時に浮腫による困難例があります。この浮腫を取るために、砂糖を使うと15分程度で容易に整復できるようになるそうです。

[文献紹介]
Coburn WM III, Russell MA, Hofstetter WL. Sucrose as an aid to manual reduction of incarcerated rectal prolapse. Ann Emerg Med. Sep 1997;30(3):347-9.
Ramanujam PS, Venkatesh KS. Management of acute incarcerated rectal prolapse. Dis Colon Rectum. Dec 1992;35(12):1154-6.

総論
http://www.uptodate.com/contents/overview-of-rectal-procidentia-rectal-prolapse
症例5 : 27歳黒人女性 不妊症治療中妊娠8週の腹部膨満と呼吸困難
卵巣過剰刺激症候群(Ovarian Hyperstimulation Syndrome)で、病態は、不妊症治療に使われる排卵促進薬(特にbetaHCG)によって起こる毛細血管透過性亢進だそうです。ARF、ARDS、タンポナーデ、塞栓症等の致死的な合併症があるので注意が必要です。治療は、生食あるいはアルブミンによる脱水の治療、NSAIDを使わない鎮痛、腹水/胸水穿刺等の支持療法です。

[文献紹介]
一般向けの不妊症総論
一般向けのOHSS総論
OHSS総論ガイドライン?アメリカ

とても勉強になりました。今回のカンファレンスの要点を以下にまとめておきます。日比野先生にはまた次もお願いしたいと思います。

1. ACSと似たST/T下降がPEでも起こる。
2. Ludwig's Anginaは緊急度が高い。
3. 補綴股関節脱臼は救急医による整復の方が速い?
4. 直腸脱は砂糖で治す。
5. OHSSという病態が不妊症治療中に起こる。

おまけ

日比野先生にはこの日の前日に東京医科大学病院でも、ほっととぴっくす2012と銘打ってご講演いただきました。おまけというにはためになりすぎますが、要点と感想をまとめておきます。

・ コロラドの乱射事件:準備、臨機応変な対応、チームワークが命を助ける。
・ ウェストナイルと日本脳炎は同じ血清型群、稀にポリオ様病態、Deetを含む虫よけが有効である。
・ カルシウム拮抗剤過量摂取に高インスリン正常血糖療法,静脈脂肪乳剤が有効である。
・ 病的肥満患者のABCの安定化は難しいので体格等にあわせて最適化(optimisation)を図る、合併症も多いので注意する。

この中で印象に残ったのは、まず、コロラドの事件での、スクープアンドランです。今やプレホスピタルケアはロードアンドゴー、つまり現場では生命維持に最低限必要なことのみ行うことになっていますが、遠い昔、救急救命士もいないころには何もしないでスクープストレッチャーで掬って運ぶ、スクープアンドランといわれていました。コロラドでは最初に到着した警察が運んで多くの人が助かったとのことでしたが、確かに銃創ではそうかもしれません。外傷では4分の3以上は数時間以内で亡くなっていますので、もう一度時間についてはしっかり意識したほうが良いと思います。警察も消防も同じ電話番号のアメリカならではですが、特に貫通性の銃創で、多量の出血が予想される場合は、日本でも考えたほうが良いかもしれません。先に到着すれば警察でも消防でも。

・ ED Thoracotomy pts in Philadelphia, Survival 17.2%(Police or Private Car) vs 8%(EMS)
・ In rural setting, Survivial ALS74% better than BLS64%

次は、RUSH です。救急での超音波は医療制度の違いもあり、日本の救急医の得意技でした。FASTが普及しましたが、最近のアメリカは先を行っていて、ショックの際に行なう超音波検査を、RUSH Exam: Rapid US for Shock and Hypotensionと名付けてルーティンで行っているそうです。名前の付け方がさすがです。見るポイントは、1:タンク(循環血液量)、2:ポンプ(心機能、閉塞性ショック含め)、3:パイプ(管、血管抵抗)の3つで、つまり、BP(血圧)=CO(心拍出量)×TPR(血管抵抗)の病態理解に則って、エコーで原因検索をするということです。

1. Tank-volume: free fluid(bleed), heart, IVC(preload).
2. Pump-heart(EF, Wall Motion, Tamponade), Lung(PTX, PE).
3. Pipe-IVC, Aorta.
RUSH exam, Weingart S et al. Emergency Department Resuscitation of the Critically Ill. ACEP 2011: 4

そして局所麻酔薬中毒に対する脂肪製剤投与(lipid rescue)についてです。脂肪製剤はCa拮抗薬などの脂溶性の薬剤による心毒性にも拮抗するということです。1.5ml/kgのボーラス投与から0.25-0.5ml/kg/minの持続投与が推奨されています。
Weinberg GL: Lipid emulsion infusion: resuscitation for local anesthetic and other drug overdose. Anesthesiology 2012; 117: 180-7

第4回では、DtoD救命救急塾の後半部分(ICUにおける災害対応、ICUな回診)についてご紹介します。