1. 〔第2回〕生粋の救急医にとって専門医・学位とは

太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第2回〕 生粋の救急医にとって専門医・学位とは

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第1回は、私の所属する東京医科大学救急医学講座、略歴について紹介しました。
次に私の経験から、若手の先生方に興味のありそうな、専門医、学位についてのお話をしましょう。

専門医について

「生粋の救急医として、どれくらいの専門医を取得できるのか」というのが、当初の私のテーマの一つでした。
ここでの生粋の救急医は、医師になってまず最初に救急部門に専従した人たちのことを言います。
もともと救急医は様々なことに興味がある人が多いのではないかと思いますが、私も救急以外の、学会に出かけて発表したり、雑誌に投稿したりして、「救急医はこんなことを考えて、こんな仕事をしている」ということを伝えるとともに、それぞれの診療領域の皆さんと様々な連携をしてきました。
私が取得した専門医とその想い、考えをまとめてみます。

日本救急医学会:指導医、専門医

救急医学会の専門医は「救急専門医」ではなく、「救急科専門医」といいます。これは、診療科としての救急の必要性への想いから名づけられたものだと思います。専門医に合格した時には一人前になった満足感がありました。やはり公的なところから認められるというのはそういう実感があるものでしょうか。現在、救急科専門医は初期研修終了後3年の救急の専従で取得できます。長い医師人生ですから、最初に救急か専門医になって、それから各専門科に進んでも遅くないと思います。まず、何が起こっても自身を持って対応できるようになります。そして、何よりこの国のインフラである救急医療が保障されるようになるので、とても良いことだと思いますが、いかがでしょう?

指導医試験では口頭試問があります。当時は私のような内科系救急医は珍しかったようで、外科や手術に関することをいろいろと聞かれたことを覚えています。救命救急センターは、いろいろな要件を満たさないといけないのですが、責任者は救急医学会指導医が望ましいとされています。このように臨床の現場に学会が関与していることも、実社会での救急医療の上に成り立つ学問としての、救急医学ならではの特徴だと思います。 多くの救急医に指導医を目指してほしいと思います。

指導医の条件に「救急医学会雑誌に論文がある」という項目があります。論文執筆に向けて、指導医とディスカッションしてテーマを決め、計画を立てるのも良いですし、仲間とスタディデザインや役割分担を相談して進めるのも良いでしょう。何かのテーマを持って臨床をすると見え方が変わってきます。より深くより先を診るようになるのかもしれません。まずは、日頃から、疑問を持つことが大事だと思います。興味があれば、その疑問を調べて答えを探そうとするでしょう。そうすると、確かめたいことが出てくるので、必然的に調査や研究が必要になります。
多くの論文は、背景・目的、対象・方法、結果、考察、結語、という構成ですから、これに沿って考えるとわかりやすいでしょう。興味が湧いたら是非一度、東京医科大学 救急医学講座へ遊びに来てください。私たちの研究やその成果はホームページをご覧ください(http://eccm.tokyo-med.ac.jp)。

日本内科学会:認定内科医、総合内科専門医

内科系救急医の証として取得したかった専門医です。試験は難しかったです。認定内科医にようやく合格したのですが、その他に専門医があることを知りました。内科の各専門領域の専門医は認定内科医を取得することがその条件です。私は消化器内視鏡、消化器病、循環器等が関連する分野でしたが、やはり救急医として総合的に診ている、それだったらその次もと思い総合内科専門医に挑みました。この試験はさらに難しく大変で、何度か受験しました。取得後も更新のためにセルフトレーニング問題に取り組むことになっています。5年に1回ですが、このような問題に実際に取り組むことはかなり新鮮でためになります。

日本プライマリ・ケア連合学会:認定医

当時、特に3次救急を専門にしている救急医は、重症救急患者に対応できるならば、関心さえあれば、プライマリケアにも対応できるようになることも必要だと考えていました。2003年、第26回学会の「在宅医療と救急医療」でシンポジストに指名いただいたときのことは今でもよく覚えています。取り組んでいることはどこかで誰かが見ていてくれるものだと思います。それからこの領域が私のライフワークの一つになりました。

日本消化器内視鏡学会:専門医

私のサブスペシャリティーの一つです。私が始めたころはファイバースコープから電子内視鏡への移行期でした。その視野の違いにびっくりしました。その後、内視鏡治療も進み、カプセル内視鏡や経鼻内視鏡も開発され、進歩は著しい分野ですので、追いついていくために勉強しています。

救急で内視鏡といえば内視鏡的止血法です。内視鏡的止血の適応は大きく、静脈瘤と潰瘍からの出血に二分されます。後者は止血さえできれば抗潰瘍薬の内服で社会復帰できますから、急性期の医療が救急で完結できます。こういう意味からも救急医が積極的に関わるべき病態だと考え、取り組んできました。我々が扱う吐血はショックを伴うあるいは重症病態に伴う出血等重症例がほとんどですが、全体でみると多くは軽症なので、世に出ている報告とその特徴や止血率、予後も我々が扱っている重症例とは異なっているように思いました。そこを明らかにするために、重症例、ショック例についてまとめ、さらにどうすればより救命率が上がるかを考えてきました。その最初が「重症消化管出血に対するクリップ止血法」という論文となり、これは私の学位論文になりました。

専門医の話に戻しますが、この専門医は件数等手技についての書類とともに筆記試験があります。問題は消化管(上部・下部)、超音波、腹腔鏡の各領域から出題されるので、偏りのない勉強が必要でした。最近でも定期的に内視鏡検査をしているので学会に行ったり学会誌を読んだりして遅れないようにしています。

日本集中治療医学会:専門医

3次救急で集中治療にも関わっていたので、以前から気になっていました。わが国の救急にもERという形態が定着し始め、学会でER検討委員会を担当させていただいている関係から、そこから救急全体を見渡すと、救急からだけに限らず、術後や内因性の急性増悪も含めた、集中治療の独自性、それとともに、救急と集中治療の連携が重要ではないかと考えるようになりました。筆記試験は選択式とともに記述もあり、集中治療に関して広く勉強し直すことができて良かったと思います。受験したのが50歳を過ぎていましたので、こっそり受けましたが、試験監督に知っている先生がいらっしゃり、受験するなら当然ではありますが、若いうちが良いなあと思いました。

日本抗加齢医学会:専門医

時代のニーズでしょうか。これからの高齢社会に必要で、広く貢献できる分野ではないかと思い勉強を始めました。セミナーやテキストで勉強しているうちに、抗加齢医学は救急医学と同様に、基本の一つに侵襲学があることがわかりました。前者は長期間に渡る侵襲の結果です。そういった意味で実は非常に似通っていると言っていいでしょう。私の興味の一つに上述したように高齢者救急があり、『高齢者介護救急マニュアル』という本を書いています。加齢とそれによって起こる救急事態をわかりやすく説明したものですが、その予防については抗加齢医学の知識が役立ちますし、また、健康長寿への夢も出てきます。

日本医師会:認定産業医、健康スポーツ医
日本体育協会:公認スポーツドクター

救急医学は社会から生まれてきたので、社会に有効に活用され還元されることが理想です。それも何か起こって119番するだけでなく、それまでどうするか、119番した後どうなるかを知ることによって、それまでをさらにどうするか、を知っておくことは重要なことだと思います。そのために、労働やスポーツ環境では特に、正しい救急の知識を確実に広めるとともに、あらかじめ救急体制を準備しておくことが重要です。救急蘇生法はその基本ですが、それだけではなく、その指導体制、AED設置など救急体制の確立、起こりやすい事故に対するファーストエイドなどの普及も必要です。この普及はまさに我々救急医の仕事だと考えて様々な領域で実践してきましたが、最近は災害対応も視野に入れてこの傾向はさらに強まっているように思います。

ICD制度協議会:認定ICD(Infection Control Doctor)

もともと救急と感染症は切っても切れない関係です。また、肺炎はもとより、他の疾患や外傷などがきっかけでも、感染症でなくなることは非常に多く、いろいろな教科書でもかなりのページが割かれています。2012年からは、日本感染症学会、日本化学療法学会等の専門の先生方に実践的に教えていただける「救急感染症塾」に関わっています。話題も豊富で多岐にわたりとても面白く臨床にすぐ役に立ちます。ICDの講習会はすぐにいっぱいになるので早くから申し込んだほうが良いです。

他にも、日本外傷学会:専門医、日本蘇生学会:指導医等と取得してきました。それぞれにいろいろな想いや理由がありましたが、日々の生活の中で、専門医取得あるいは更新というきっかけがあると、いろいろな分野に関心を持って勉強する、ということもありますので、良かったと思っています。専門医の今後についてはまさに議論されているところですが、これからの専門医は社会の求めに応じて変革していくことになるのではないでしょうか。より学問的な要素も加わってくるように思います。そこから世界のガイドラインの基となるエビデンスが発信されるわけですから。2017年には総合医も含めて専門医制度は大きく変わる可能性があるので、今後の動向を見守りたいと思います。専門医は数ではなく質であることはもちろんですが、興味のある領域の学会に顔を出すのはためになります。
また、関心のあるものについては、早めにどうすれば専門医を取得できるのか調べておくことをお勧めします。

最近では救急、災害、集中治療領域にいろいろな標準化コースが普及しており、それぞれにインストラクター資格があります。私もAHABLS・ACLS・PALS、救急医学会ICLS、内科学会JMECC、JPTEC、JATEC、MIMMS等、様々なコースを受講し、インストラクターになってきました。今では多くが期限切れで失効していますが、多くの方々と出会い、教育、診療の標準化について学び、考えるようになりました。他にもABLS、FCCS、PSLS、ISLS、PEEC、JTAS等、実に多くのコースが行われています。短時間でその分野をレビューすることができるのでうまく活用して、興味が湧けばそれについてさらに勉強してインストラクターを目指すのも良いと思います。

学位について

昔、足の裏に付いたお米と聞いたことがあります。取らないと気持ち悪いけど、取っても食べられない、という意味だそうです。大学院卒業の有無に関わらず、研究した結果を論文にして、権威のある医学雑誌に採用され、出版されれば、条件が整います。学内の規定(当大学では英語の試験があります)に則って申請して審査を受けます。審査ではプレゼンテーションして質問を受けます。つまり、自分で正しく勉強して結果を残した証ですので、チャレンジする価値はあると思いますし、大学にいる若いうちに限られます。講師以上への昇任には学位があることが望ましいとされていることが多いかもしれません。研究内容は、動物実験等の基礎研究だけでなく、臨床研究でもかまいません。先輩から継続しているテーマ以外にも、日頃の臨床上でのちょっとした疑問から調査研究を進めていけば、何らかの結果が得られるでしょう。

そうすることによって確実に臨床能力はアップしていきます。つまり、臨床能力をあげるために研究するわけで、研究のために研究することが目的ではありません。研究を進めて行けば同じようなことを報告している論文に出くわします。そうなると仲間が増え、興味もさらに湧きますので、論文を読むのも楽しくなります。

専門医と学位について、私の経験からお話ししてきましたが、若いうちにはとにかく何にでもチャレンジして、型にはまらずに自分独自の道を切り開いて行って欲しいと思います。若いというだけで可能性はたくさんありますし、たとえ失敗したとしてもまだまだ人生は長いです。すべて「ものにする」つもりで貪欲に突き進んで欲しいと思います。 そのためにも何でも相談できる先輩をたくさん見つけてください。