1. 〔第12回〕高齢社会の地域救急医療体制

太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第12回〕高齢社会の地域救急医療体制

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救急といえばまず119番通報から始まるのが一般的ですが、最近はその前に、救急車を呼んだほうが良いかを相談できる電話(#7119)もあります。

■ #7119
高齢社会で、救急需要は増加する一方ですが、救急病院は減っていて、受け入れが困難な場合も増えています。
この対策として東京都では東京ルールを策定しました。これは医療機関はもちろん、社会のみんなで協力しあって対応しようというルールですが、このなかで救急車を呼んだほうが良いかの判断に悩んだ場合に電話で相談できる体制ができました。
この電話番号が#7119で、この番号にかけると救急相談センターにつながり、看護師や医師が対応します。

緊急性が高い場合にはそこから直接救急車対応になります。このような電話相談は民間の付帯サービスでも行われています。最近ではWeb上でも緊急度判定を支援してくれるガイドがあります。(東京都版救急受診ガイド)
救急病院でも看護師(トリアージナース)が緊急度判断(トリアージ)をする体制が始まりました。これらの体制は増加する救急需要に対して、必要な人に必要な医療を早く届けるために考えられましたが、これらの体制が定着して有効に活かされるためには、広く市民が理解して協力しあうことが重要です。

■ 119番通報
東京の場合、この通報は、近くの消防署ではなく、大手町あるいは立川にある東京消防庁の災害情報センターにつながります。センターの係員はまず、「火事ですか?救急ですか?」 と聞きます。そして「何区何町ですか?」と続け、電話をかけている場所を確定します。近くに目安になる建物があればそれを伝えてください。

通常は最も近い消防署から救急車が出場します。出場中の場合には、消防車(消防士も救急の訓練は受けています)を先に出場させるという方法=PA連携 (P:ポンプ車、A:救急車)もあります。
サイレンを鳴らさないで来てほしいという方が多いようですが、救急隊は場所がわかればサイレンを止めますので、道に出て案内します。

■ 現場での救急隊の活動
現場に到着した救急隊は、傷病者の状態を確認し重症度を判断します。そして、必要な応急処置を行いつつ重症度にあわせて病院を選定します。
状況や病状、かかりつけ医等必要な情報は簡単にまとめて話してください。救急隊は軽症と判断すればかかりつけ医(初期救急医療機関)や近くの救急病院(二次救急医療機関)に連絡し、受け入れが可能であれば搬送を開始します。

その後は傷病者を病院に搬送して、医療機関に引き継ぎ、消防署に戻って(あるいは戻りつつ)次の出場体制を整えます。ですから救急車を早めに返すことも次の出場に向けては大切なことです。
あらかじめ現場で病院やかかりつけ医に連絡をしておくとそれから先がスムーズに進みます。その際には○○病院の□△先生に連絡済みと救急隊に伝えてください。
1991年(平成3年)に法律により制定された救急救命士は、

  • (1) 致死的な不整脈である心室細動(心臓の筋肉が痙攣したような状態で、心臓から血液が送り出せていない状態)に対して、電気的にこの細動を除く=除細動 (カウンターショック)を行うこと
  • (2) 心肺停止の傷病者に対して、末梢より点滴をすること
  • (3) 心肺停止の傷病者に対して器具を使った気道確保をすること

の3つが可能となりました。その後処置が拡大され、一部包括的な指示、つまり、その都度指示がなくても処置が可能となり(2014年4月からは血糖測定、心肺停止前の点滴も)、救急救命士の活動範囲はますます広がっています。

一方で活動の質を評価することも重要です。救急救命士を代表とする病院前救護体制の医学的な質を担保するために、メディカルコントロール体制(以下、「MC」)があります。
これには、救急救命士が特定行為を行う際に直接医師に連絡しなくてはならず、これ以外にも助言などを求められるオンライン (直接的) MCとプロトコール作成や教育、事後検証などのオフライン (間接的) MCがあります。
これらのために救急救命士は救急救命処置録を記載し、それをもとにPDCAサイクルに則って救急隊活動の継続的な品質管理と品質改善が管理される仕組みです。

一方、重症では救命救急センターに搬送します。統計的には軽症が半数以上ですが、高齢者は中等症以上が多くなっています。

■ 救命救急センターの特徴

救命救急センターに救急隊によって現場あるいは医療機関から直接搬送され、様々な医療機器、多くのマンパワーを用いて、積極的な救命救急医療が行われています。それとともに、毎日毎日、入院ベッドを可能な限り多く確保し、24時間365日体制で、救急外来から重症患者の集中治療室での入院治療を担当します。
救急外来での初期診療で心筋梗塞等診療科が明らかであれば院内で転科します。高齢社会では外傷より脳血管障害や心疾患などの内因性疾患の割合が多くなっています。

高齢社会を反映して、救命救急センターでも高齢者が多く搬送されています。在宅医療患者や老人施設入所者の搬送も多く、最近ではデイサービス中というのもよく聞くようになりました。
私が以前研究した内容をまとめます。

■ 1.在宅医療中の救急搬送について (太田祥一,鈴木義彦,山口均,他:在宅療養患者の三次救急対応の現状
   分析.日救急医会誌 2001;12:401-5)

救急隊が重症と判断した理由には意識障害、呼吸困難、ショック、心肺停止などの病態が多くみられました。
診断名は肺炎を含め呼吸器疾患の増悪が多く、これらの予後は比較的良いのでこのような状態では救命救急治療を行なえば元に戻れる可能性が高いことが予想されます。
しかし、そのほかの予後はあまりよくなく、来院時心肺停止では目撃者がない場合が多く、その予後はよくありませんでした。

119番通報時にかかりつけ医療機関に連絡されることは多くなく、また、徐々に具合が悪くなってから119番通報ということもあり、結果として救命救急センターで積極的な治療を望まれないことも少なくありませんでした。
在宅酸素療法 (Home Oxygen Therapy:HOT) 施行中の救急搬送では、基礎疾患に、慢性呼吸不全 (肺気腫) が最も多く、ほかにはうっ血性心不全、肺結核、悪性腫瘍 (肺癌) などがありました。
急性病態としてはCO2ナルコーシスが多く、こういった場合には気管挿管、人工呼吸器管理が行われます。救急初期診療では、一般に気道が開通していないだけでなく、呼吸、循環、意識がよくないときには、気管に管を入れて (気管挿管) 、人工呼吸器を装着して呼吸を補助します。

その後病状が回復に向かうと徐々に人工呼吸器に頼る比率を減らし、呼吸がしっかりすれば気管内に入れた管を抜きます。
気管内に入れたチューブは詰まる可能性があるので、長期間人工呼吸器に頼る場合や意識がはっきりせず、自分で痰を喀出できないときなどには、気管切開 (直接頸部の気管を切開して管を入れること) しますが、これも症状がよくなれば閉鎖します。

高齢者では一度人工呼吸器をつけるとなかなか外せなくなることが多いとされていますが、管を抜くことができ、自分で呼吸をすることができるようになることもあります。
HOT施行中の高齢者も、脳血管障害、悪性腫瘍、呼吸不全状態の進行などの合併する重篤な疾患がなければ、積極的に呼吸を管理することで比較的予後は良好でした。
今後は、人工呼吸器離脱前にも転院可能な医療機関、在宅での人工呼吸管理等の整備が必要になってくると思われます。

■ 2.老人施設入所者の救急搬送について(太田祥一,三島史朗,行岡哲男,他:老人施設入所者の3次救急
   搬送の現状.Jpn.J.Prim.Care 2001;vol.24:no.4:272-6)

在宅医療中とは異なり、老人施設入所者の場合は心肺停止が多く、そのほかは意識障害が多くみられます。心肺停止以外の診断名は在宅医療中と同様に呼吸器疾患が多く、尿路感染症などからの敗血症性ショックも少なくありません。
救急隊到着時心肺停止は目撃者がない場合が多く予後は不良ですが、それ以外の予後は比較的よいようです。

老人施設入所者の場合は、119番通報の時点で積極的治療を望まない、施設の提携医療機関と連絡がとられていない、などの問題がありますが、軽快後は提携医療機関に比較的早期に転院が可能なことが多く、病病連携は良好であると思います。
終末期や看取りに関して、個々人の意思の確認とその尊重、目撃者のない心肺停止をどうするか、提携医療機関との関係などがあげられます。現状では救急隊は重症度にて病院選定を行うので、重症化しやすい高齢者の救急対応では、二次救急医療機関を経由せずに直接三次救急対応になることも少なくありません。

その結果、本人や家族の希望と合致しないこともありますが、このような場合もその予後からみるとやはり救命救急センターは最後の砦です。救急事態の際には誰しも慌てるものです。このようなときにもできるだけ慌てずにスムーズに対応していくためには、かかりつけ医を持って病状やその経過について正しく理解し、そのうえで普段からの話し合いや将来に対してのある程度の準備が必要だと思います。
そしていつも飲んでいる薬などや、いつからどのような治療を受けているかをすぐ伝えられるようにしておいたほうがよいでしょう。また、本人の希望や家族の希望はできるなら日頃から話し合って、救急対応の際にそれを考慮したうえで対応できればさらによいのではないかと思います。
医療機関だけでなく、介護福祉や救急隊との連携を強化する、救急医療や看取りについて患者や家族の意志やQOL (生活の質) を反映できるシステムをつくる、地域としての取り組みを促進し広く総合的に取り組む、などがあると思います。

このように救急体制はとにかく人のいのちをよりよく助けるためのシステムですから、年齢や看取り等についてはあまり加味されていません。つまり年齢がいくつであってもとにかく助けたいと思う、あるいは助かると判断された場合には、救命救急センターに搬送して積極的な治療が行われます。
一方で、救命のためにいったん始めた集中治療は良くならないからといって途中でその治療を止める、あるいは治療に用いた管を抜くことは難しいのが現状です。当然のことですが安楽死も認められていませんし、緩和医療もがん患者に対してが主です。
この結果の場面だけを見ると延命治療と誤解される方もいらっしゃるかもしれませんが、これは大きく違います。
古い言葉かもしれませんが、自宅で安らかに看取る、ということが当たり前に行われるように、社会全体で看取りと救急についてを考える必要を感じています。
その実現にはかかりつけ医を中心とした体制づくり、社会啓発が必要だと思っています。

以上は2001年に報告した論文ですが、今も傾向は変わらず、今後もますます検討が必要になってくると考えられます。
救命救急センターはその社会的責務を果たすために、ハード・ソフトの両面から整備されています。先にお話ししたように入院ベッドを確保しておくというのがいちばんの課題です。
ベッドがないと初期診療しか対応できません。入院患者の病状がある程度落ち着いて、集中治療の必要がなくなれば、速やかに院内の後方病棟に転床あるいは他院に転院していただき、リハビリを含めた継続治療を受けていただくということになります。

このような後方ベッドを確保・手配し、ご家族に話して理解していただくことも救急医にとって重要な仕事の1つです。
しかし、高齢者は多病で慢性化しやすいので幅広い診療と最期まで診られる場所が必要になり、そういったことまで考えると転床・転院に時間がかかります。
つまり、一時的にお預かりする医療機関だけでなく、その後の人生を医療とともに過ごす場所、が必要です。今後の高齢者救急を考えるときは、受け入れ後方ベッドの確保や介護との連携等、地域で考える必要が出てきていると思います。
具体的には、高齢者の地域包括ケアシステムのなかに救急との接点を作りたいと考えています。