1. 〔第11回 その1〕 第2回DtoD救命救急塾レポート 後編

太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第11回 その1〕 第2回DtoD救命救急塾レポート 後編

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2013年10月26日(土)、東京医療専門学校 代々木校舎(東京都・代々木)において開催された第2回「DtoD救命救急塾」。第10回の前編では、午前の部に行われた阿南英明先生(藤沢市民病院救命救急センター)によるハンズオンセミナー1「緊急病態の背景を知ると打つ手が変わる」、櫻井淳先生(日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野 診療准教授)のランチョンセミナー「救急DIC塾―症例から学ぶDIC診療」、そして、スポンサードセミナー「救急での処置時の鎮静・鎮痛」をレポートしました。
後編では、午後に行われた日比野誠恵先生(ミネソタ大学病院救急医学部)の「ERなカンファレンスと、ちょっとホットトピックス」「ハンズオンセミナー2」の様子をお伝えします。

■ 「ERなカンファレンスと、ちょっとホットトピックス」

講師:日比野誠恵
講師:日比野誠恵

講師:日比野誠恵先生(ミネソタ大学病院救急医学部)

午後は、「ERなカンファレンスと、ちょっとホットトピックス」からスタートしました。講師は、日比野誠恵先生(ミネソタ大学病院救急医学部)です。昨年の第1回DtoD救命救急塾での「ERなカンファレンス」が「救急先進国の様子が分かる」「ホットな話題が多く、参考になった」と大変好評だったため、今回もご登場いただきました。
日比野先生は、北里大学医学部卒業後、横須賀米海軍病院を経て、ピッツバーグ大学病院にてレジデント、1992年よりミネソタ大学病院救急医学部准教授としてご活躍中です。
09年からは、米国救急医学会日本主任国際大使も務められています。今回も、米国から駆けつけてくださいました。

最初に、日比野先生から「英語と日本語が混ざっていますが、医学英語にも親しんでいただくためです」というお断りがあり、さっそくスタートです。
日比野先生がいらっしゃるミネソタ州はカナダに隣接し、冬はアメリカの冷凍庫と呼ばれるぐらい寒いそうです。会場には、インディアナ・ジョーンズのテーマ曲が流れ、やおら会場の雰囲気も盛り上がります。
症例検討は、米国の救急医学専門医口頭試問を参考に、比較的簡単な3症例、やや複雑な2症例が登場しました。

【症例1】
さっそく、症例1からです。
COPDの既往歴のある、70歳の男性。「3日間咳(せき)、呼吸困難、発熱」の症状で来院されました。「今日は、ふらふらしてきて、ちょっと様子がおかしいんです」と家族の方。酸素吸入はしていません。たばこは1日1~2箱。身体所見は、血圧が高く、頻呼吸、頻脈でした。かなりの発熱、GCS15、BMI35で少し太めです。お腹と手足は大丈夫、とのこと。

マネジメントの選択です。
(1)ヘビースモーカーなので、さっそくたばこをやめるよう説教する。
(2)肥満の患者さんで気道確保が難しそうなので、同僚に任せる。
(3)すぐにベッドサイドでABC?
「先生はどれにします?」と会場に質問すると、「3番です」との答えが返ってきました。

次に、経過です。
急性の腎障害もあり、胸部X線を見ると、「肺炎かな、それとも……」。
酸素吸入をし、しっかりバイタルサインを取り直しましたが、回復しません。肺炎、敗血症あたりが予想されます。
あっという間に、呼吸も血圧も悪化したので、気管挿管となりました。
研修医の先生が担当し、無事に入りましたが、酸素飽和度が上がりません。
血圧も呼吸も、良くなりません。「何が、起こってしまったのでしょうね?」と、日比野先生。
気管挿管後に状態が悪くなることがたまにありますが、その時にやっていただきたいのは、DOPESやDOTTSとのこと。
「聞いたことある先生、いらっしゃいますか? DOPEは、聞いたことありますよね」と日比野先生。

D:Dislodge(チューブのずれ)
O:Obstruction(チューブの閉塞)
P:PTX(気胸)
E:Equipment(医療器具の不具合)
S:Stacking(自動呼気終末陽圧/AutoPEEP)

S:Stackingは、最近、米国で追加された項目です。
それでは、どう対処していくかですが、はずして100%酸素で、スタッキングがありましたので、ゆっくり、ゆっくりやることで、状態が改善します。チューブがはずれていないか、しっかり確認します。超音波で気胸を見ます。

「気胸を超音波で見られている先生、いらっしゃいますか?」
1人、手が上がりました。
「増えてきましたね」。

状態が良くなり、AutoPEEPもなくなってきた、という症例です。これで安定したかと思いきや、血圧が下がりました。腹水もかなり(2~3リットル)溜まり、処置をしても、改善しません。
ACSを聞いたことある人は、いますか?
この患者さんは、もう一つのACS「腹部コンパートメント症候群」とのことです。

概念は簡単です。体はどこでもコンパートメントです。なんらかの理由で内圧が上昇したら、その中にある重要なものが圧迫されて、障害が起こります。体幹部(頭、胸など)では、相関関係があるそうです。19世紀に初めて登場した病態で、80年代は外傷や外科の患者さんに見られました。2002年には、救命救急の重鎮である、行岡哲男先生(東京医科大学救急医学講座 主任教授)により、病態の説明なども行われています。腹部コンパートメント症候群は、ここ5、6年は、外科はもちろん、内科でも集中治療が必要な患者さんの4~7%に起こっているそうです。
腹部コンパートメント症候群のリスクファクターは、敗血症、腹水、肥満など、何らかの理由で内圧が上がってしまう状態が考えられます。
実際の診断は、膀胱内圧を測ります。膀胱内圧が12mmHg以上だとコンパートメント症候群とまではいかないけれど疑いがあり、20mmHgを超えるようになると、コンパートメント症候群です。
マネジメントは、外科的に開いて、内圧を下げます。最近では、ACSは、血圧が下がっていなくても、お腹が膨れていて、腎機能障害が起こっている方は膀胱圧を調べてみた方がいい、と奨励されています。

【症例2、3、4】
次は同時進行の症例です。
症例2は、28歳の中近東出身の男性です。左の人差し指にけがをしたとのこと。3週間ほど前に、調理中にナイフで切ってしまったとのことです。一週間前にも、治療薬を出してもらったとのことですが、改善しませんでした。身体所見はバイタルも安定していて特記することはありませんでしたが、けがの部分が突き出たようになっていました。

症例3は、65歳の肥満の患者さん。糖尿病、高血圧でコレステロールが高いといわれたこともあるそうです。2日間の運動時発作性呼吸困難(DOE)で来院されました。6月でしたが「暑いねー」といいながら、汗をかいていました。身体所見によると血圧が高めです。すぐに心電図をとりました。

症例4は、33歳の白人男性です。車輪に挟まれたと来院されました。挟まれた左の下腕に浮腫(ふしゅ)があり、とても痛がっていました。30分前に事故が起こったとのこと。もしかしたら変形しているかもしれません。神経学的には大丈夫でした。早速レントゲンをとりました。
「明らかにおかしなところが1ヶ所ありますので、覚えておいてください」と日比野先生。

優先順位の選択です
(1)手の創傷は医療訴訟になりやすいので、症例2を、最初に診る。
(2)夏に暑いのは当たり前なので、症例3の風邪の人は、後回し。
(3)開放骨折ではないようなので、症例4は、後回し。
(4)症例3の肥満の患者さんは、呼吸困難で心臓かもしれないので、最初に診る。

症例3は、心電図を見るとaVRでStがちょっと上がっています。日本救急医学会でも取り上げた先生がいましたが、aVRは忘れられている心電図誘導とも呼ばれます。確証を得るために15分くらいしてもう一度心電図をとったところ、ST上昇型心筋梗塞(ST-elevation myocardial infarction ; STEMI)と、診断されました。

症例4は、機械に挟まれた男性です。
「それだけでしょうか?」と日比野先生。実は、少し脱臼(だっきゅう)骨折をしています。
「病名が分かる人?」
「Galeazzi Fxというものです」日比野先生にとっても2例目とのこと。合併症としては、関節が不安定になるので非常にまれにコンパートメント症候群も見られます。また、長期的に疼痛(とうつう)があるため、訴訟の対象になる可能性がある疾病とのこと。「救命救急医の皆さんは、しっかり覚えてください」と日比野先生。

症例2は、羊肉を調理中に切傷したものですが、実は「羊鵞口瘡(ひつじがこうそう)」というものです。数年前に、日本でも話題になった家畜伝染病の一つ、口蹄疫とは違い、家畜にとって危ないものではありません。イボの親戚のようなもので、人から人への感染もありません。切開排膿しても治らないため、「2、3ヶ月すれば自然に治ります」と伝え、帰ってもらいました。

【症例5】
症例5は、少し複雑です。72歳のLVAD(人工心臓)の男性です。人工心臓を使う場合は、主に(1)一時的なサポート、(2)移植でドナーを待っている間、(3)年配で移植の可能性がない、の3ケースがありますが、この患者さんは(3)です。奥さんが、朝「起きてこない」と見にいったら、動かなかったため、救急車を呼んだとのことです。昨夜は、友人と楽しくお酒を飲んで、9時半には寝たとのこと。外傷はない様子です。
身体所見は、頻脈、頻呼吸、発熱あり。酸素も落ちていました。GCSは5、瞳孔を見ると右が大きく左が小さい。救急隊員は「右側があまり動いていないみたい」といいます。

マネジメント選択は、どうしましょう?
(1)人工心臓といわれても困るので、早急にコーディネーターと心臓内科を呼ぶ?
(2)右側が動いていないのでストローク(脳梗塞)かもしれないので、ストロークコードを出して神経内科を巻き込む。
(3)人工心臓で、INRが高すぎるかもしれないので、POCで調べる。
(4)とりあえず、まず気道確保をして、安定化した後、頭部CTスキャンを撮る。

この症例では、気道確保の最適化を目指したいのですが、気管挿管で一番大切なのは、(1)喉頭蓋(こうとうがい)を見ること。そして、(2)なるべく声帯を直視できるように、(3)低酸素のないようにすることです。
声帯を直視するため、肥満の患者さんの場合は、頭を上げ足を下げて耳と胸骨のラインが水平になるようにします。また、胃液の逆流と誤嚥を防ぐとして多くの人がCricoid Pressureを習ったと思いますが、首のあたりのMRIを見ると食道は気道の真後ろにあるのではなく、半分は後ろにはありません。Cricoid Pressureをしてしまうと、食道がつぶれるのではなく横にそれ、代わりに80%以上の割合で声帯がつぶれて見えなくなり、挿管しにくくなります。「声帯がつぶれていると、LMAも入らなくなるので、Cricoid Pressureはやめましょう!」と日比野先生。

3つ目の低酸素について、1988年の興味深い研究に、無換気で酸素を送り続けることによって18分から55分酸素飽和度が保たれたというものがあります。逆に室内の空気にしたところ、すぐに酸素飽和度が低下しました。経鼻挿管をしておくと、少ない量の酸素でも平均して3分から4分、無換気の酸素飽和度が保たれたそうです。

症例5の患者さんの実際の経過に戻ると、結果的に人工心臓を止めることになり、「集中治療から終末期医療までを約3時間で進めた症例となりました。今後、このような症例が増えるのではないかと思っています」と日比野先生。

最後は、スター・ウォーズのテーマ曲に乗せて、まとめをし、終了となりました。

【まとめ】
・もう一つのACS:Abdominal Compartment Syndromeも考えよう!!!
・忘れられた心電図誘導 aVRにも注意!!!
・Galeazzi fracture/dislocationを見逃すな!
・Orfに切開排膿はしない
・期間挿管時に"ハナ"も使いましょう!

質疑応答では、4つの質問が出ました。そのうちの一つ、気管挿管の際に行われるBURP手技についてはスタディがあり、日比野先生も関わった一人とのこと。90年代後半に検討がなされ、(1)そのまま行う、(2)Cricoid Pressureを行う、(3)BURP法、(4)挿管する人が自分で動かしてみる、の4つで検討した結果、(4)がよく見えて、一番成功率が高いという結果になりました。
日比野先生は、「自分がやるときは、必ずサポートしてくれる人を1人つける」とのことでした。