1. 〔第10回 その2〕 第2回DtoD救命救急塾レポート 前編

太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第10回 その2〕 第2回DtoD救命救急塾レポート 前編

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■ ランチョンセミナー「救急DIC塾~症例から学ぶDIC診療~」

講師:櫻井 淳
講師:櫻井 淳

講師:櫻井 淳(日本大学医学部救急医学系 救急集中治療医学分野 診療准教授)
共催:一般社団法人 日本血液製剤機構

次は、ランチョンセミナーです。「救急DIC塾から~症例から学ぶDIC診療~」と題し、櫻井淳先生(日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野)の登場です。櫻井先生は、日本大学医学部付属板橋病院救命救急センターにて、重症症例の麻酔や全身管理を主に担当され、心停止蘇生後脳症の研究にも携わっていらっしゃいます。また、米国マイアミ大学留学時には、頭部外傷と体温に関する研究を深めました。

「最先端のDIC治療を熟知できているわけではありませんが、20年近く救急集中治療にかかわってきた経験から、本日は、基本的なことをお話しさせていただきます」と櫻井先生。「血液とは何か?」からスタートです。
「血液や血管と聞くと循環器科だと思われますが、循環の三要素"血液""血管""心臓"を扱うのは、重症の患者さんを見る救急医であり、集中治療医であることを、まずご理解ください」と櫻井先生。また、血液は形がないので臓器というイメージはありませんが、臓器の一つ。よって、輸血は、臓器移植と一緒とのこと。

「ヒトには優れた止血系があります。血管内皮には、抗血栓活性が必要であり、さらに、一度できた血管内の血栓を溶かすための線溶機構もあります。これが病的な状態に陥ったのがDIC(Disseminated intravascular coagulation=血液の血管の障害)です。DICは、血液凝固因子の一つトロンビンが、血管内で時間的・空間的に誤作動した特殊な病態なのです。誤作動になった原因が存在し、凝固は必ず亢(こう)進しますが、線溶の活性は、病態によりさまざま」とのこと。

ここで、DICの病型の3つの分類の説明と、急性期DIC診断基準の説明がありました。以前にも、厚労省基準などがありましたが、早期診断と治療介入の必要性から、2005年に救急医学会が「急性期DIC診断基準」を作成し、現場で広く用いられているとのこと。
ここからは症例を見ながら、考えていきます。

【症例1:70代、男性】
・腹痛により路上で動けなくなっているところを発見され、救急搬入された
・来院時、血圧は測定できないほど低値であった
・脈拍数102回/分、呼吸数32回/分、体温38.4℃であった
・腹部診察で板状硬であり、腹部CTでフリーエアーを認めた

「何だと思います? さぁ、何でしょう? 検査の結果、WBC2,000 Plt73,000です」と櫻井先生。

SIRSスコア4p、急性期DICスコア8pで、大腸穿(せん)孔が原因と考えられる敗血症性ショックと予想されます。
「今までの話を聞いた皆さんなら、さっそくDICの治療を考えるでしょう。そうしないと、虚血になり、臓器不全になります。でも、DICの治療の前にやるべきことが山ほどあります。敗血症性ショックの治療の基本は3つです。(1)早期に蘇生をきちんとすること、(2)早期に感染巣コントロールを行うこと、(3)適切な抗菌薬を投与すること」と櫻井先生。
そして、敗血症性の線容抑圧型DICは、DIC治療は必要ではありますが、循環に問題があれば、先にすべきことは、全身の血流を整えること、とのこと。

【症例2:60代、男性】
外傷による凝固障害の症例では、橋から河川敷に転落して受傷した60代の男性の症例が登場し、早期の凝固因子の補充など止血機能を重視した蘇生戦略について説明がありました。既存の輸血に関するガイドラインの説明では、Massive transfusion protocolの有用性に触れました。「大量輸血が必要な外傷症例では、赤血球濃厚液:新鮮凍結血漿(けっしょう)=1:1で投与する方法が提唱され、エビデンスは高くはありませんが、あちこちで評価されている」とのことです。

最後に、全体のまとめをした上で、「敗血症性DICの治療薬としては、AT-Ⅲやトロンボモジュリンの研究が進み、非常にホットな分野です。特にAT-Ⅲは、わが国が世界に先駆けて研究を進めていますので、今後の発展が期待されています。研究分野としても、アドバンテージがあると思います」と締めくくりました。

櫻井先生の講演の後、総合司会の太田先生が、会場の後ろで聴講していた阿南先生に感想を求めました。「むちゃぶりしますね」と阿南先生は笑いながら、「重要なことは、DICは表に出てきている部分。奥深いところに問題があり、それは蘇生と根本治療ということでした。さらにDICという病態も一つではないということでした。櫻井先生のメッセージは、先読みをした治療までいけるもしれないということと理解し、非常にありがたいお話しをいただいたと思います」と答えられました。