1. 〔第10回 その1〕 第2回DtoD救命救急塾レポート 前編

太田祥一の救命救急入門

連載 太田祥一の救命救急入門

〔第10回 その1〕 第2回DtoD救命救急塾レポート 前編

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DtoD救命救急塾資料
DtoD救命救急塾資料(クリックで拡大します)

2013年10月26日(土)、東京医療専門学校代々木校舎(東京都・代々木)で、第2回「DtoD救命救急塾」が11時30分から16時30分まで、開催されました。当日は、台風27号の影響で、あいにくの雨模様となりましたが、北は青森県、南は宮崎県まで、34名の方が足を運んでくださいました。参加者は、医学生から臨床研修医、そしてキャリア10年以上の医師までと幅広く、皆さん熱心に耳を傾け、メモをとる姿が印象的でした。質疑応答なども活発に行われ、それぞれが救命救急のヒントを得る有意義な一日になったようです。

前編では、ハンズオンセミナー1、ランチョンセミナー、スポンサードセミナー、そして12月末に公開予定の後編では、ERなカンファレンス、ハンズオンセミナー2、参加者の感想などをレポートします。

まずは、塾長であり、総合司会を務める太田祥一先生(医療法人社団親樹会理事長、恵泉クリニック院長、東京医科大学救急医学講座兼任教授)の開会あいさつです。

■ DtoD救命救急塾 塾長から

DtoD救命救急塾 塾長 太田祥一
DtoD救命救急塾 塾長 太田祥一

北米ER で活躍され、アメリカ救急医学会(ACEP)の日本大使でもいらっしゃる日比野先生に昨年同様の「ER なカンファレンス」とともに、ショックの原因検索のための超音波検査「RUSH」の実技セミナーもお願いしました。

元祖ERともいえる、藤沢市民病院 救命救急センターから阿南英明先生にER診療の基礎知識について。都市型重症救命救急センターから、日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野の櫻井淳先生に敗血症、DICについて。新進気鋭の、健和会大手町病院の山口征啓先生、下里アキヒカリ先生や、東京ベイ・浦安市川医療センターの本間洋輔先生、船越拓先生方には、今まで取り上げられることが少なかった、救急での処置時の鎮静・鎮痛についてのシミュレーションをしていただきました。長時間にわたりましたが、参加された皆さんはとても熱心に取り組んでいらっしゃいました。

各企業のご協力をいただき、このようにERからICUまで勉強できる幅広い内容になりました。ご協力いただいた多くの皆様にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。
講師はもちろん、隣の席の方とも気軽にコミュニケーションを図り、有意義な時間にしましょう、との言葉の後、さっそくハンズオンセミナーです。

■ ハンズオンセミナー1「緊急病態の背景を知ると打つ手が変わる」

講師:阿南 英明
講師:阿南 英明

講師:阿南 英明(藤沢市民病院 救命救急センター)
共催:レールダル メディカル ジャパン株式会社

講師は、東日本大震災では、災害派遣医療チームDMATの中核メンバーとして活躍された阿南英明先生(藤沢市民病院救命救急センター)。阿南先生が所属する藤沢市民病院は、年間約3万人の患者さんを受け入れるわが国でもトップクラスの救命救急拠点として知られています。
「名簿を見ると、学生さんから、キャリア十分の方までいらっしゃるようです。全ての方にご満足いただける内容になるかどうか辛いところですが(笑)、ぜひ、楽しい時間にしましょう」と阿南先生。

今回のテーマにもあるように、阿南先生が生理学・生化学にこだわっているのは、次のことが理由です。「救急医は、常に次に起こるかもしれない危機を予測して、2手、3手先の対処を準備しなくてはならないが、生命の危機に瀕する病態に際して、救命のための手段は一つではない。その都度、それを選択すべきか、ダメだったときにどうするかを考えなくてはいけない。その判断のためには、病態論を含めた生理・生化学・解剖の知識と思考力が欠かせない」「生化学が嫌いだった人?」と阿南先生が参加者に問いかけると、ほとんどの方が手を挙げました。
「でも、生化学は、必要なんです! 基礎を固めれば、あとは応用が利きますから」と阿南先生。
ここからは、症例を見ながら、解説していきます。

【こんな症例が搬送されてきたら1】
・今朝自宅で意識のない状態で発見されて救急搬送されていた56歳、男性
・2型糖尿病で通院している(インスリン治療中)ことが分かった
・昨日の夕方までは、普通に食事をしていた。簡易血糖測定でLowだった

「治療は、どうしますか?」と阿南先生が、医学生の男性に問いかけると、「ブドウ糖です」
阿南先生「そう、ブドウ糖です」

【こんな症例が搬送されてきたら2】
・今朝自宅で意識のない状態で発見されて救急搬送されてきた56歳、男性
・普段から飲酒が多く、家族も困っていた
・昨日も食事をせず、朝から飲酒していた
・簡易血糖測定でLowだった

「症例1とそっくりですが、一つ違うのは、朝から酒を飲んでいたこと。この人の治療は、どうしますか?先ほどとは違う答えが求められていることは、分かりますよね(笑)」「ビタミンです!」(参加者の女性)「その通り。
では、どうしてそうなるのかを考えていきましょう」と阿南先生。ここで、図が登場です。

経路図
経路図(クリックで拡大します)

この図は、「栄養の代謝経路」「呼吸の経路」「エネルギー産生」の3つの経路をまとめたものです。阿南先生曰く、「授業ではバラバラに習うので、全体像を把握しにくい」のだそうです。各経路の流れはもちろん、乳酸値が上がりアシドーシスにいたる経緯、乳酸値が上がる原因、乳酸が高いと何がいけないのか、ビタミンB1を投与する必要性…と続きます。

「この経路を理屈で理解しているといくらでも応用が利くので、ほとんどの病態に対応でできます。この病態の時には乳酸値を測る、などと短絡的に覚えるとダメです」と阿南先生。
「ここまで、分かりますか? 異議ありの人?」と確認した上で、症例が続きます。

セミナーの様子
セミナーの様子

症例3は、火災により運ばれてきた48歳の女性です。意識はJCS300、体表熱傷はⅠ度20%程度、気道熱傷は否定できないので、気道挿管しました。CO-Hbは20%。
一酸化炭素中毒かと思いきや、この患者さんはシアン中毒。ABSやAS樹脂製品に囲まれた現代の暮らしでは、室内火災のほとんどの場合にシアン化水素中毒が多いといいます。とある統計によると、火災で亡くなった方の原因としては、一酸化炭素中毒が約2%なのに対し、シアン化水素中毒は約21%とのことです。

その後の症例では、アナフィラキシーショックの症例と対処法、そして狭義のアナフィラキシー以外にもアナフィラキシー様反応があることを解説。また、アドレナリンの筋肉注射の投与量や、アドレナリン無効の患者さんがいることにも触れました。

特殊なアレルギー反応の症例では、FDEIA(食事依存性運動誘発アナフィラキシー)を持つ中学生の例を挙げ、FDEIAは特定の食事と運動の両方が揃ったときに起こるため、昼食後の昼休みや、5時間目の体育には注意が必要とのことでした。
緊張性気胸と気胸の違い、緊張性気胸の処置のポイントと続き、フレイルチェストの症例では、息をするとペコッとへこむ様子なども動画で紹介。症例は、全部で7例でした。

最後に、阿南先生は、次のように締めくくりました。
「次の一手を打てる救急医になる近道は、ありません。特にマニュアルは、NGです。受験までは効率の良い勉強が必要でしたが、これからは、ぜひ効率の悪い勉強をしてください。そうすれば、新しい治療が思いつきます。10~15年後に、きっと花開きます」
理解を深めたい方は、『救急実践アドバンス』阿南英明(永井書店)も、ご参考ください。