1. 日本の医療を世界の患者さんに「医療ツーリズム」の現在と未来

日本の医療を世界の患者さんに「医療ツーリズム」の現在と未来

新成長戦略に盛り込まれた「医療ツーリズム」

2010年6月に閣議決定された「新成長戦略」では、「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」というスローガンのもと、高い成長と雇用創出が見込める医療・介護分野の革新を推し進めることが掲げられました。「七つの戦略分野」の1つとして「健康(ライフ・イノベーション)」を位置づけ、「医療ツーリズム(医療観光)」(外国人患者の受け入れ)の推進を盛り込んでいます。

医療ツーリズムには、海外から日本に患者さんを呼び込むインバウンド、日本から海外の医療を受けに行くアウトバウンド、国内で医療を受けるために移動するドメスティックがありますが、とりわけ政府が日本経済の成長を見据えて後押ししているのはインバウンド分野、特に経済成長の顕著な東アジアを中心とする国々からの医療ニーズの獲得です。世界有数の医療機器保有率と高水準の医療技術を活かし、中国などの富裕層を取り込むことを見込んだ政策で、各旅行会社も医療を組み込んだ観光商品を提案するなど、医療と観光のマッチングが進められています。

日本への旅行、出張に紐づけた医療サービスの需要

一般社団法人メディカルツーリズム協会の石塚園子理事は、「少しずつではありますが、特に中国からの患者さんが増加している実感があります。日本への旅行のついでにサービス力の高い日本の健診(検診)を受ける方もいますし、最近では仕事の出張に合わせて日本で治療をするという方も増えているようです」と話します。現在、中国、ロシア、アメリカ、韓国の順で来日する患者さんの数が多く、今後のさらなる展開が期待されます。

また、世界的な病院評価機構であるJCI(Joint Commission International)の認証を取得している日本の病院は現在22施設。取得には相当の労力がかかるものの、JCI認証を得た病院は海外の患者さんの信頼を得やすく、医療ツーリズムの推進にも寄与します。

医療ツーリズムが地域の活性化、医療の質に貢献

※画像クリックで拡大します。経済産業省が2015年に病院・診療所を対象に行ったアンケートでは、海外在住の外国人患者受け入れについて「地域の活性化に貢献する」「収入を確保し、経営を安定させる」といった回答が多く集まりました。外国人患者の積極的な受け入れにより患者数を増やすこと、地域への人の流入を増やすことを目的とする医療機関が多いと思われます。

「海外からの患者さんの受け入れは、病院の質を高め、世界的な評価を確立する第一歩です。日本の病院が世界で認められるようになれば医師同士の技術交流もしやすくなり、同じものさしで医療技術を高め合っていくことができます。また、医療市場が広がることで各病院の機能分化が進み、より高い水準の医療が受けられるようになるので日本の患者さんにとってもメリットは大きいと感じています」と石塚氏は話します。

インバウンド受け入れの基盤整備が急務

※画像クリックで拡大します。しかし、医療ツーリズム先進国のシンガポールやタイに比べると、日本における医療ツーリズムはまだまだ盛んとはいえません。

医療ツーリズムには、支払い前に自国に戻ってしまうといった金銭的なトラブルのリスクが伴うほか、宗教・言語への対応、日本での滞在環境の手配など、医療提供以外の手間もかかります。「そうした対応を医療機関が行おうとすると、ただでさえ逼迫(ひっぱく)した現場の人員がさらに負担を抱えることになり、挫折してしまいがち。病院側の教育や環境整備ももちろん必要ですが、前払い制度の徹底や適切なコーディネーター・通訳者の整備などが急務です」と石塚氏は話します。

先進医療に加え、幅広い医療ニーズへの対応に期待

そのほか、日本で外国人患者の受け入れが進みにくい理由の1つとして、「日本での受け入れは、先進医療が必要な患者さんを対象としていることがほとんどです。受け入れの幅が狭い分、対象者が増えにくい現状はあります」と石塚氏。「日本では、調子が悪ければ医療を受けるのが当たり前ですが、海外ではそうではない地域もあります。先進医療だけに限らず、日本では一般的な治療・検査においても医療ツーリズムが進めば、今後の伸びしろがある」とも指摘します。

外国人患者の受け入れ基盤がまだまだ弱い日本。医療ツーリズムを推進するならば、まずは各病院が安心して海外からの患者さんを受け入れることのできる制度とシステムづくりが大前提といえるでしょう。

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