1. おもちゃが叶える、病児のケアと心身の成長

おもちゃが叶える、病児のケアと心身の成長

「遊び」は子どもの大切な栄養素

厚生労働省の「小児医療に関するデータ(2015年発表)」によると、15歳未満の入院患者数は2011年で年間29万5千人、外来患者数は約68万人にのぼります。
病気になると治療中心の生活を余儀なくされ、「遊び」はどうしても二の次三の次になってしまうもの。しかし、病気であろうとなかろうと遊びは子どもの生活の一部です。楽しく遊ぶことは、心の成長に欠かせない大事な“栄養素”。「病気の子どもでも、安心しておもちゃ遊びを楽しんでもらいたい」――そんな取り組みが広がっています。

小児疾患に特化した高度な医療機関として全国から患者さんが集まる国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)。同院の1階の豆の木広場(プレイコーナー)奥には、10畳ほどの「おもちゃライブラリー」が用意されています。
500種類以上のおもちゃがズラリと並び、一緒に遊んでくれるスタッフが待っています。ゆっくり遊んでもらえるよう、1時間1~2組の完全予約制ですが、いつも予約で満員の大人気コーナーとなっています。

おもちゃ遊びで子どもの表情が明るく

ホスピタルキャラバンの様子(総合病院の会議室にて)ホスピタルキャラバンの様子(総合病院の会議室にて)人気の「透明こま」。目の錯覚を利用して、原型[上]の絵付けからは想像できない富士山の形が浮かび上がる[下]人気の「透明こま」。目の錯覚を利用して、原型[上]の絵付けからは想像できない富士山の形が浮かび上がる[下]

新宿区に「東京おもちゃ美術館」を開き、子どもの健やかな遊びをサポートするNPO法人日本グッド・トイ委員会では、病児の遊び支援にも力を入れています。2002年から同センターに遊びのボランティアを派遣する活動を続けてきました。現在、全国12の病院で同様の活動を行うほか、おもちゃを携えて全国の病院を訪問するイベント「ホスピタルトイキャラバン」にも取り組んでいます。

「電池で動かすおもちゃはほとんどなく、自分で動かして楽しめるものが中心です。木製のコマのような素朴なおもちゃが人気で、子どもが主人公になって遊びの幅を広げられます」と話すのは、子育て支援事業部・部長で、東京おもちゃ美術館副館長の石井今日子さん。

たとえば発達に遅れがあったり、手が動かしにくかったりする子どもには、“ボタンを押すだけ”などのわずかな働きかけで大きく動くおもちゃなど、それぞれの状態と興味に合ったものを選ぶそうです。
「病院では苦痛をともなう診療も多いだけに、病児にとって『嫌いな場所』にならざるを得ませんが、おもちゃで遊ぶ機会を設ければ『楽しみ』ができます。遊ぶついでにちょっとお医者さんとお話しよう――そんな楽な気持ちで通院してもらえたら」と石井さんは言います。

おもちゃは優秀なコミュニケーションツール

派遣されるボランティアは、日本グッド・トイ委員会が定める講習を半年間受講し、「おもちゃコンサルタント」に認定された専門スタッフたち。
おもちゃだけを与えて診療の待ち時間の暇つぶしをするのではなく、おもちゃをコミュニケーションツールにして子どもとかかわることを大切にしています。「おもしろいね」「よくできたね」と声をかけたり、パペットを動かしながら話をしたりすると、子どもの表情はどんどん明るくなっていくといいます。

一方、おもちゃには大人を癒す効果もあります。病児の親向けにおもちゃや入院グッズをつくる時間も設け、お母さんにも手づくり工作や裁縫で気分を切り替える時間を持ってもらっています。

「病気のお子さんを抱えて心身ともに疲れているお母さんも、作業をしているうちに生き生きしてくる。子どものためのおもちゃを自分でつくったという達成感いっぱいで、楽しそうに帰って行かれます」(石井さん)。

おもちゃが医療行為を手助けすることも

「ぷれぱらウッド ドクターバッグ10」[上]と「ぷれぱらウッド 検査セット(CT,MRIセット)」(堀内ウッドクラフト)「ぷれぱらウッド ドクターバッグ10」[上]と「ぷれぱらウッド
検査セット(CT,MRIセット)」(堀内ウッドクラフト)
また、検査や治療を円滑に進めるために「メディカル・トイ」や「プレパレーショントイ」と呼ばれる、診察や検査で使う医療機器を模したおもちゃが利用されています。検査や手術が予定されている子どもの患者さんに、おもちゃの機器と人形を使って手順を説明すれば、緊張や不安をやわらげることができます。
「おもちゃライブラリーでも、聴診器や注射器を使ったお医者さんごっこは人気があります。子どもは自分の診療で見慣れていて使い方もよくわかっているので、お医者さんや看護師さんになりきって患者さん役の私たちに『痛い?』『すぐ終わるよ』『大丈夫だからね』と優しく話しかけながら注射をしてくれるんですよ」と石井さんは話します。

おもちゃの有用性に注目する医師や看護師は小児科を中心に増えており、おもちゃコンサルタント養成講座に通う医療従事者も多いといいます。ポケットに小さなおもちゃを忍ばせて、診療中にぱっと取り出し、子どもを釘付けにする医師もいるとか。
「病気治療中でも豊かな心が育つように」――病児と、病児にかかわる多くの人にとって、「おもちゃ」が救世主となるかもしれません。

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