1. 「8K」と「4K×3D」。医療映像の臨場感がすごい!

「8K」と「4K×3D」。医療映像の臨場感がすごい!

執刀医の視界を共有できる「8K」映像技術

超高精細な映像技術「8K」などを医療に役立てようと、関係者らによる研究開発が本格化しています。
映像技術開発の「NHKメディアテクノロジー」(東京都渋谷区)で8K映像技術の開発に第一線で取り組むのは、ビジネス開発部の栗田泰市郎氏。栗田氏は、「(高精細な映像技術の活用を通じて)高度な医療知識の共有や若手医師の育成をサポートしたい」と話します。

圧倒的な臨場感が8Kの映像の特徴です。細かい血管や神経を扱う心臓血管外科手術でも、毛細血管の流れなど、これまでは把握し切れなかった組織の細部や縫合糸を鮮明に再現できるようになりました。「高精細な映像で手術を撮影すれば、執刀医しか見ることができなかった手術の様子を、誰もが何度でも見られるようになる」と栗田さんは言います。

ハイビジョンの16倍の鮮明さで情報を記録

2K・4K・8Kの解像度2K・4K・8Kの解像度
※画像クリックで拡大します。

8Kは、現在のハイビジョン(2K)をはるかに超える超高精細な画質の映像技術です。映像の鮮明さを示す画素数は、2Kの200万画素に比べて4Kが4倍の800万画素、8Kでは16倍の3300万画素。使い方によってはヒトの網膜並みか、それ以上の性能を維持できるといい、8Kで撮影することでこれまでにない情報量を確保できます。

2Kによるデジタル衛星ハイビジョンの実用放送が2000年に始まった2000年頃、NHK放送技術研究所はすでに、8Kの映像技術の開発に着手していました。2Kの映像技術の研究が開始されたのは、東京で前回のオリンピックが開かれた1964年。2000年の実用化までに36年間をかけたといいます。8Kは、その半分の18年での実用化をめざしています。

医療分野での活用に期待、手術撮影も成功

2Kと8Kの画質比較2Kと8Kの画質比較
(画像提供: 順天堂大学・NHKメディアテクノロジー)
※画像クリックで拡大します。

教育、防災・防犯、出版、美術界など、高精細な映像技術はさまざまな分野から注目を集めてきました。なかでも医療分野での応用に対する期待は大きく、2Kの開発が進められていた1990年代の半ば頃、医療界には「2Kでは物足りない」という声がすでにあったほどです。

栗田さんはNHKメディアテクノロジーでの研究開発に携わり始めた2014年、同社では脳神経外科手術3例を8K用のカメラで撮影しました。また、2016年には、NHKエンタープライズ、NHKエデュケーショナルが共同で、都内の大学病院の手術室に8Kカメラを持ち込み、大動脈拡張症のベントール手術の撮影に成功しました。
これまでにない鮮明な映像に、関係者からは「まるでその場にいるよう」「若手の教育に非常に役立つ」といった反響があったといいます。

手術の高精細な映像を蓄積し、開発を重ねて、そのノウハウを医療の教育に役立てようというのがNHKメディアテクノロジーの基本的な方針です。大学病院との連携の裾野を広げていろいろな手術を撮影し、医療映像のデータベースを立ち上げたり、関係者同士がクラウド上でデータを共有したりする構想も描いています。

「4K×3D」の実用化にも期待が集まる

また、4Kの映像を立体化させる「4K×3D」もまた、医療分野での活用を目的とした研究開発が進められています。
組織の細部を鮮明に映し出して臨場感を追求する8Kに対し、4K×3Dでは、患部の奥行きを表現することで血管や神経組織、手術器具などの位置関係をいかに再現するかがテーマです。

2014年には、通信機器大手「JVCケンウッド」(横浜市神奈川区)、医療機器開発「カールツァイスメディック」(東京都新宿区)と共同で、脳神経外科の顕微鏡手術を4K×3Dで撮影するシステムの開発に世界で初めて成功。これは、手術用の顕微鏡に超小型4Kカメラ2台を取り付け、3Dディスプレイに映像を映し出すシステムです。偏光メガネを使うことで、手術のスタッフは執刀医と同じ視野の立体画像をリアルタイムに共有できるようになりました。

今後、8Kによる立体映像(8K×3D)の医療応用も視野に入れる考えだといいます。

医療現場での課題は「軽量化・小型化」

今後、最大の難題は、カメラの軽量化・小型化です。
8Kの映像を撮影するためのカメラの総重量は、2000年代初頭には80kgほどあったといいます。しかしそれ以降、大幅な軽量化を進め、最近では2kgを切るカメラも登場しました。
とはいえ、たとえば手術用の顕微鏡に8K用のカメラを2台取り付けて立体映像を撮影するには、2kgを切ってもなお「顕微鏡を操作するのが難しい」のです。

また、カメラのダウンサイジングではハードルが一層高くなります。医療用に最適なサイズまで小型化させるには、カメラ本体だけでなくレンズも一緒に小さくする必要がありますが、レンズの性能を高く保つには、一定のサイズが必要です。
カメラの小型化と性能の維持・向上をどう両立させるか―。極限レベルでの試行錯誤が続きます。

さらに、映像機材がどこまで安くなるかも大きな課題です。110インチの大画面ディスプレイで8Kの手術映像を映すには、現時点で数千万円単位のコストが掛かるそう。栗田氏は「8K放送が実用化されれば、今よりは安価な商品が開発されるはず。それを利用できればベストです」と、今後に期待を寄せます。

医療への応用、転機は2年後?

2018年度から段階的に、医療サービスの効率化や質の向上につなげるべく、全国の医療機関が患者さんの医療データをオンラインで共有できるようにする政府主導の試みが始まります。これをにらんで日本医師会では、医療用の映像を含むさまざまな患者情報を安全に共有できるネットワークづくりを提唱しています。
現状の課題を克服できれば、高精細な医療映像の利用を促す環境が2年後、一気に整うかもしれません。

「我が国の連携のカタチ 」記事一覧

この記事を見た方はこんなコンテンツも見ています