1. どうすればもっと便利に?現場発の医療ICTが実現

どうすればもっと便利に?現場発の医療ICTが実現

ルーツは「病院内の一部門」

医療現場での情報通信技術(ICT)の活用がなかなか進まないと指摘されるなか、ある企業によるユニークな支援が効果を上げています。
医療機関向けソフト開発の株式会社「マトリクス」(東京都中野区)は、病院の一部門がルーツという変わり種。これまでに、看護師勤務表の自動生成をベースとして数か月先の未来の看護配置要件を予測・シミュレートできるソフトなどを開発して、現在では関連病院にとどまらず、全国の病院の経営改善も支援しています。

マトリクスが掲げる経営ビジョンは「医療と情報技術の橋渡しが可能なのは、双方の当事者だから」。
どうすればもっと便利に…。この視点を持って、新しいソフト開発のヒントを医療現場からじかに拾えるのが同社の最大の特長です。

開発のヒントは「現場の課題」にあり

看護スタッフの配置に正看護師の比率、そして夜勤72時間ルール。
これらの基準のどれか1つでもクリアできなくなれば、大切な収入源である正規の入院基本料を算定できなくなるだけに、病棟ごとの勤務表作成は病院の病棟担当者の悩みの種です。
しかしマトリクス社長の小林孝弘さんは、「勤務表の作成は病棟戦略そのものだ」と話します。

マトリクスが開発した勤務表自動作成ソフト「看護配置マイスター」は、その看護師が正看護師か准看護師か、1か月当たり夜勤にどれだけ対応できるかなど、スタッフの勤務形態やシフトパターンといった個々の情報を入力することで、翌月の勤務表を自動的に作成します。そして従来のソフトと大きく異なるのは、産休の取得や休職・入退職など将来にわたる異動情報を事前に入力しておけば、看護配置要件の推移を4か月先までシミュレーションできる点です。

小林さんによると、マンパワーなど限られた資源を使い最大限の効果を生み出す道筋を探る「オペレーションズ・リサーチ」と呼ばれる理論がこのソフトのベースになっているということです。小林さんは、「どのような勤務条件のスタッフを、いつまでにどれだけ確保する必要があるのかを明確にすることで、最適な採用計画を立てやすくなる」と話しています。

自院に必要な看護師数が明確に

看護配置マイスターが誕生したのは、2006年度の診療報酬改定で急性期病院向けに7対1入院基本料が新設されたのがきっかけでした。これにより大学病院など全国の急性期病院が看護師の獲得にこぞって乗り出すと、全国のたくさんの中小病院があおりを受けました。看護職員を十分に確保するのが困難になり、一部の病棟の閉鎖に追いやられるケースも多く、その影響は最近まで続きました。

そこで看護配置マイスターには、「医療機関が自分たちの現状を把握して、適切な病棟スタッフの数をしっかり把握できるようになれば、過剰に看護師を抱え込む必要もなくなるはず」という発想をいかしました。

医療現場とICT、双方の当事者に

小原病院:正面玄関小原病院:正面玄関マトリクスは2014年、関連の有限会社「小原メディカルサービス」から看護配置マイスターを受け継いで設立されました。

小原メディカルサービスは01年、医療法人財団圭友会が運営する中野区の小原病院(医療療養116床)の医療事務、情報システム、清掃部門が独立して誕生しました。その後、対外部門をマトリクスとして独立させたのは、ほかの病院へのシステム提供を展開しやすくするのが狙いでした。

実は、小林さんも小原病院の事務長を兼務しています。小林さんは、大学院で医療機関向けのソフトウェア開発の研究に携わり、知人を介して04年、小原メディカルサービスに入社しました。当時は電子カルテシステムの黎明期。ベッドサイドで入力した医療処置のデータをそのまま会計情報として使える、当時としては先進的な「発生源入力型」の電子カルテシステムの開発を主導するなど実績を積みました。

看護配置マイスターは、病棟ごとの勤務表を毎月自分で作成しながら「こんなシステムが欲しい」と自分自身が感じたものを形にしました。小林さんは「その世界に実際に中に入ってみないとわからないことがたくさんある。医療現場にどのようなシステムが必要かは、自分たちが当事者にならないとなかなか見えない」と話します。

ICTが医療機関を足元から支援

ナショナルデータベースやDPCデータを分析して医療の質向上や効率化の糸口を探ったり、保険者や企業が蓄積してきた健診データを健康づくりに役立てたりと、ICTを通じた医療ビッグデータの活用の検討が進んでいます。政府は6月に閣議決定した「日本再興戦略2016」の中で、「世界に冠たる医療ICTの活用基盤の構築」をめざす方向性を掲げました。

マトリクスがカバーするのは、もっと現場発想の経営改善支援です。設立から2年が経ち、支援先は全国の10病院まで拡大しました。医療現場にどんなソフトが必要か…。医療現場の担当者から要望を聞いたり、日々の業務を通じて自分自身が気付いたりした医療現場の課題の解決策をITの専門家として探っています。

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