1. 医療を効率化すべく医療現場と行政がタッグ!地域発ビッグデータ事業「とねっと」

医療を効率化すべく医療現場と行政がタッグ!地域発ビッグデータ事業「とねっと」

地域医療ネットワークシステム「とねっと」とは?

(図1)埼玉県利根医療圏(図1)埼玉県利根医療圏
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(図2)「とねっと」(かかりつけ医カード)への参加方法(図2)「とねっと」(かかりつけ医カード)への参加方法
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(図3)「 とねっと」のシステム(図3)「 とねっと」のシステム
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「とねっと」は、埼玉県利根医療圏(図1)内の住民を対象にした地域医療ネットワークシステムで、2012年7月に本格稼働しました。医療機関にとっては、システムに登録した患者さんの画像診断、検査データ、処方などの情報を共有することで、円滑に連携できるのが大きなメリットです。これに対して患者さん側は、自分の身長や血圧の測定値、これまでに自分が受けた検査のデータなどを自宅のパソコンで確認・更新できます(図2)。

さらに、これまでに蓄積した診療データを分析して重症化を予防する手立てを見つけることができれば、行政側は医療費の適正化を見込めます。
診療情報はデータセンターで一括管理しています。地域の医療機関を受診する際、患者さんは「かかりつけ医カード」を提示し、医療機関側は「とねっと」専用の端末に患者さんIDを入力して、診療情報を確認する仕組みです(図3)。

現在では圏域内の救急車34台にも専用のタブレット端末を配備し、「とねっと」の情報を瞬時に確認することが可能になりました。このため救急隊員は、搬送患者さんのかかりつけ医がいる病院など、最適な搬送先を選択できます。一連の診療情報は搬送先の医療機関も共有していて、搬送後に円滑に対応できます。

16年3月末現在、地域の住民ら約2万7500人が「とねっと」に登録しています。これに対し、医療機関側の参加は22病院と84診療所。画像診断施設や臨床検査会社にも参加を呼び掛けたことで、より幅広い情報を共有できるようになりました。

さまざまな「とねっと」のメリット

「とねっと」の運営をけん引してきた東埼玉総合病院(173床)の三島秀康院長は「病院、診療所、行政といった地域の関係者の利害関係が一致し、ネットワーク構築に至った。これからもwin‐winの関係を築き、負担感なく運営できるようにしていきたい」と話しています。

とねっとのメリット
医療機関:
  • 患者さんの継時的変化の把握・情報共有ができる
  • 重複検査(特に画像)を避けられ、効率化を図れる
患者さん:
  • 自分の健康記録を世界中に持ち歩ける
  • IDとして使用できる(認知症の徘徊時にも有効)
救急隊:
  • 禁忌情報の把握ができる
  • 既往歴、有病歴等の把握ができる
  • かかりつけ医療機関の把握ができる
行政:
  • ビッグデータの活用ができる

きっかけは医療現場の危機感 、医師会・行政も大きく後押し

「とねっと」の誕生は、地域の基幹病院に勤務していた糖尿病の専門医の退職がきっかけでした。
埼玉県は、人口に占める医師数が日本一少ないことで知られます。その上、圏域内では地域住民の高齢化が進んでいて、糖尿病の患者さんがこの先増えるのは避けられません。こうしたなかで、地域の限られた医療資源を有効活用しないと近い将来、医療ニーズの増加に対応しきれなくなるという危機感が医療関係者に広がりました。

そこで、利根医療圏内の医師らによる糖尿病ネットワークや医師会が行政に働き掛け、医療を効率的に提供できる事業を始めようと提案。行田市や加須市など圏域内の9市町の首長らがこれに賛同し、県の地域医療再生計画のスキームを使い、地域医療のネットワークシステムを立ち上げることになりました。

現在は、医療機関や医師会、行政による「埼玉利根保健医療圏医療連携推進協議会」が「とねっと」を運用し、臨時職員を含む事務局のスタッフ4人がシステムを管理しています。年間の運用費は行政が拠出するほか、医療機関側は中核病院が5万円、それ以外の病院は2万円、診療所は1万円を負担してカバーしています。患者さん側の負担はありません。

糖尿病患者さんの9割で症状が維持・改善

「とねっと」かかりつけ医カード「とねっと」かかりつけ医カード本格稼働から4年を経て、「とねっと」の効果が少しずつ見えてきました。
なかでも大きいのが糖尿病の重症化予防です。「とねっと」には、病院や診療所など複数の医療機関が糖尿病や脳卒中のクリニカルパス(診療計画)を共有する「地域連携パス」の機能も組み込まれていて、これにまでに糖尿病のパスを適用した患者さんの約87%で症状の維持・改善が認められました。重症化して糖尿病腎症に移行するのを防ぐことで、少なくとも9億4600万円規模の医療費抑制効果を生み出したと連携推進協議会では試算しています。

さらに東埼玉総合病院の調べでは、同病院に搬送された患者さんのうち、「とねっと」の登録者の搬送時間が未加入の人に比べて平均で1分程度短いことがわかりました。
地域発の医療ビッグデータの試みは次のステージに入ろうとしています。埼玉県が「とねっと」に関心を示し、県全域の一大ネットワークに発展させる道筋も見えてきました。

今後は調剤薬局や介護事業者にも「とねっと」への参加を呼び掛けます。調剤薬局が持つ服薬情報を共有すれば、重複投薬の解消など一層の効率化を期待できます。さらに、診療情報と介護関連のデータをリンクできれば、たとえば脳梗塞で救急搬送された患者さんがその後、どのような経過をたどったかを追跡し、医療の標準化の糸口を探れます。

利便性とセキュリティーの両立が課題

一方で、課題もあります。特に悩ましいのが、医療機関にとっての利便性の確保とセキュリティー対策の充実をどう両立させるかです。情報の漏えいリスクを解消するため、「とねっと」は閉鎖式のネットワークとして開発されました。このため医療機関側は、「とねっと」の情報を確認するのに電子カルテとは別に専用の画面を立ち上げる必要があります。
病気の治療に関する極端にセンシティブな情報を共有するだけに、ネットワークが拡大すればこれまで以上に高度な漏えい防止策が欠かせません。そのため、システムのバージョンアップに合わせて、利便性とのバランスを見極めることにしています。

医療機関が行政と連携をとるには、互いの現状や利害・ニーズを相互に把握し、共通の目的として認識する必要があります。しかしこれまで、フィールドの異なる両者が歩み寄り、地域医療連携のしくみを形成することはそう簡単ではありませんでした。
「とねっと」のネットワーク構築が成功したのは、医師会長や中核病院の長などが地域の医療課題を見据えて積極的に関わったこと、そして医療圏内の全ての市町の長が協議会に参画し、「顔の見える関係」を築いたことにあります。
三島院長は「単独の医療機関が行政と連携をとろうとするのではなく、まずは医師会への働きかけを行い、さらに医師会と行政が密に意見交換をする。そこで同意することが行政とうまく連携していくコツ」と話します。

「行政の積極的な参加を一層促すには、これまで以上にメリットを生み出す必要がある」と三島院長。そのためにもより多くのデータを集める必要があり、利根医療圏の全人口の1割に当たる地域住民6万人の登録を当面はめざします。

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