医学書著者インタビュー『チーム医療に活かそう! 緩和ケア評価ツールSTAS Support Team Assessment Schedule -緩和ケアの成果とケアの質を客観的に評価するために-』

〔Vol.08〕医学書著者インタビュー 『チーム医療に活かそう! 緩和ケア評価ツールSTAS』 大岩 孝司 Support Team Assessment Schedule -緩和ケアの成果とケアの質を客観的に評価するために-

今回紹介する書籍は『緩和ケア評価ツールSTAS』です。

本書は、がんのホームドクターとして診療の相談、在宅型の緩和ケアを提供する千葉市のさくさべ坂通り診療所所長の大岩孝司(おおいわ たかし)さん、看護師の鈴木喜代子(すずき きよこ)さんの共著です。

これまで出版されている著書も含め、緩和ケア領域の現実を伺いました。

本書を含め、これまで4冊の書籍を出版されていますが、一連の流れがあるように感じられます。まずは、大岩さんからそれぞれ紹介していただけますか?

大岩 : 最初に出した『がんの最後は痛くない』(文芸春秋社)を出したきっかけは、がんの終末期に対する誤解がものすごく大きいと感じたからです。 例えば、がんは痛くて仕方ない、耐え難い、七転八倒の苦しみをする、なんてイメージがあって、がんの最期は安らかに迎えられないという思い込みが、一般の人だけではなくて医療者にも染み込んで、あまりにも強いのです。 私ががんの治療に従事していた頃から、がんの苦しみで七転八倒した人は、ひとりもいないのです。確かに辛い思いをすることはありますが、大半の人にとって痛みの問題は大きなものではない、というメッセージを出せたらという考えで出版しました。

2冊目のタイトルは『もしもあなたががんになったら』ですね。

大岩 : これはがんの患者さんで問題になる、「せん妄」について書いた本です。

せん妄は緩和ケアでも大きな問題になりますが、これは患者さんの気がふれているということではなく、極度の緊張や大きなストレスに耐えられなくなり、それに対する支援がないために意識の錯乱を起こしているのです。

言うことが支離滅裂だったり、わけが分からないことを言ったりしますが、きちんと聞くとメッセージ性があり、受け止めればコミュニケーションができる、ということを説いています。

3冊目(『その鎮静、ほんとうに必要ですか』)では医療関係者向けの書籍になっているように感じますが、何か意図はあるのでしょうか?

大岩 : 特に対象を変えたつもりはなく、私の意識としてはつながっています。

『その鎮静、ほんとうに必要ですか』というタイトルにある「鎮静」という言葉は、一般的にそんなに悪いイメージはないと思います。鎮静とは、薬の投与などで少し静かになってもらって検査を楽にするとか、一時的な興奮を収めるといった通常の医療行為なのです。

しかし、緩和ケアにおける持続的な深い鎮静は問題です。耐え難い苦痛に対する治療として、薬によって意識をなくさせてしまう、ということが行われています。痛みや苦しみが取れないことを、医療の限界としてしまっているのです。

鎮静について、ガイドラインにはあらかじめ中止する時期を定めないという記載がありますが、これは末期のがん患者にとっては実質的には死ぬまで意識を出させないということです。このことは緩和ケアのあり方に関わる問題なので見直さなければならないという提言となっています。

そして本書『緩和ケア評価ツールSTAS』へとつながっているのですね。

大岩 : 緩和医療やケアの現場で、これまで取り上げてきたような問題はなぜ起こるのかという理由のひとつに、この領域に医療としてのフレームがないことが挙げられます。

つまり、どう患者さんと接点を持ち、問題を明らかにし、対策を立てるという具体的なプログラムがないのです。

緩和ケアとは“患者さんと家族に寄り添う”、“患者さんの意志を尊重する”、“その人らしい生き方を支える”などの、全人的ケアという表現で共通理解されています。その人の苦悩を評価して、早期に発見して、的確なアセスメントと対処を行うことによって苦しみを予防して和らげることでQOLを改善するというアプローチです。

しかし、QOLの概念ひとつを取っても、共通の概念がありません。普通の病気ならば、精神的にも身体的にもより良い状態に行くということがQOLを改善するということですが、終末期のがん患者は、本人や家族、医師、看護師がいくら頑張っても悪くなり、QOLは落ちて行くのです。

緩和ケアにおいて、終末期の患者さんに対しては、QOLという概念を考え直さなければいけないのです。現状では、そのような下ごしらえが何もない中で緩和ケアが進んでいるのです。

STAS(スタッス)という手法について、簡単に教えてください。

大岩 : STAS(Support Team Assessment Schedule)は緩和ケアを提供するツールとして、日本緩和医療学会でも推奨されているものです。

極端な例ですが、胃がんが見つかったら、患者さんが何を言おうとそこにがんはあるわけで、有無を言わさず医師のペースで診療を進めるしかないですし、それを患者さんが受け入れるかどうかなのです。

一方で緩和ケア領域では、医師のペースでは何ひとつ進みません。まず患者さんの話を聞く必要がありますが、聞くだけでは診療やケアになりませんから、聞いた話をまず整理しましょうということです。

そして整理するためには、ひとつの道具があった方が良いですし、このSTASというツールは私たちが使っていて成果も上がっているものですから、ぜひ使ってください、というものです。

SOAP(ソープ)についても言及されていますね?

大岩 : 本書の目的であるSTASの利用をより効果的に行う工夫として、カルテを整理する方法のひとつであるSOAP(Subjective Data, Objective Data, Assessment, Plan)と結び付けて使うことを提唱しています。

医療界でここ20年以上言われているNarrative Based Medicine、つまり患者さんの話を元にした医療で、緩和ケアはこれを十分に意識した医療だということです。

緩和ケアの評価ツールSTASは限られた人しか知らないと思いますが、SOAPはほとんどの医療関係者が知っています。その2つを関連付けたところが本書の肝です。

本書をどのような方に読んでもらいたいですか?

大岩 : 緩和ケアに関わる人、全員に読んでもらいたいです。

がん対策基本法が制定されて、国が政策としてがんに対する施策や対策を推進することで、緩和ケアに携わる人も、患者さんもすごく増えてきています。

このような状況では、個人の熱意に頼った医療やケアは成り立たないのです。ある種の技術体系が必要で、本書はそのための提案であると思っています。

鈴木 : 緩和ケアに携わっている人はもちろんですが、症状緩和が上手くできないと感じている人、患者さんの話をどう聞けば良いのか分からない人、チームの中で考えを共有できないと悩んでいる人にも読んでもらいたいですね。

医療者として、ケアする立場として、「何かやってあげなきゃ!」と考える人ほど、患者さんや家族に断られると「何もやってあげられない」と悩んでいる人が多いのです。何かやってあげようとか思ってはいけないのだと言いたいですね。

最後に、この記事を見た方に、著者としてメッセージをお願いします。

大岩 : 本書は緩和ケア領域のものですが、慢性疾患やプライマリケアにつながる部分もあると思います。これらの基軸は緩和ケアと同じで、患者さんの話に基づいた診療です。

患者さんの話に基づいた診療、患者さんを中心にした医療をどう展開するかということの、ひとつの考え方を提示しているつもりなので、ぜひ手に取っていただければ嬉しいです。

取材対象者:大岩孝司 様、鈴木喜代子 様
取材場所:さくさべ坂通り診療所
取材日時:2016年12月15日

紹介書籍:
チーム医療に活かそう! 緩和ケア評価ツールSTAS
Support Team Assessment Schedule-緩和ケアの成果とケアの質を客観的に評価するために-
著者:大岩孝司・鈴木喜代子(さくさべ坂通り診療所)
発行所:診断と治療社
発行日:2016年2月28日

著者プロフィール大岩 孝司(おおいわ たかし)
医療法人社団修生会 さくさべ坂通り診療所 医師
1972年に千葉大学医学部を卒業し、千葉大学医学部肺癌研究施設外科部門へ。その後呼吸器外科医として主に肺癌の診療に従事。2001年にさくさべ坂通り診療所を開設する。著書に「がんの最後は痛くない」(文芸春秋社)、「もしもあなたががんになったら」(晩聲社)、共著に「その鎮静、ほんとうに必要ですか」(中外医学社)。
鈴木 喜代子(すずき きよこ)
医療法人社団修生会 さくさべ坂通り診療所 看護師
1979年に国立千葉病院付属看護学校を卒業し、国立千葉病院勤務。2001年よりさくさべ坂通り診療所に勤務。分担執筆に『新看護学8 基礎看護3』(医学書院)、共著に『その鎮静、ほんとうに必要ですか』(中外医学社)。

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