医学書著者インタビュー『診療ガイドラインが教えてくれないこともある』

〔Vol.06〕医学書著者インタビュー 『診療ガイドラインが教えてくれないこともある』 菅家 智史 ~「Common Disease 診療の質向上を追求するドクター」~

今回紹介する書籍は『診療ガイドラインが教えてくれないこともある』です。

本書の編集者は、福島県立医科大学、地域・家庭医療学講座の講師、菅家智史(かんけ さとし)さん。学生や研修医の教育に携わりながら、自ら家庭医として診療もされています。

本書の充実した内容を紹介するとともに、診療ガイドラインとはどういうものか、改めて伺いました。

担当されている講座名でもある家庭医療とはどんなものですか?

これからの日本では総合診療と呼ばれていく分野で、海外では“Family Medicine”という言葉で表現される専門分野です。私の上司であり本書の監修を務めている葛西教授が、20年前に日本で初めて北海道にこの分野の研修施設をつくり家庭医療を広めたので、その流れを踏襲しています。

今でも「専門は家庭医療です」というと、ピンとこない顔をされることが多いですが、「総合診療です」というと「なるほど、ああいう感じですね!」と理解していただけるようになってきました。総合診療の方が、通りがよくなってきていますね。

家庭医療に進まれるきっかけは何だったのですか?

私は、医師になったからには「子どもは診られない」「お爺ちゃんお婆ちゃんは診られない」ということは言いたくなかったんです。相談を受けるなら、すべての患者さんの相談を受けたかった。ただ、学生実習で会うのは分野別の医師ばかりで、幅広く患者さんの相談を引き受ける、という医師には出会えませんでした。

それでも情報を集めているうちに、当時の日本家庭医療学会(現在は日本プライマリ・ケア連合学会)を見つけ、学生向けのセミナーに参加したら、私がやりたいと思っていた仕事をしている人がいる! と気づかされたのが、家庭医療を選んだ理由です。

今回、本書の編集を担当した経緯を教えてください。

出版社からの企画持ち込みで、編集を行うことになりました。日本プライマリ・ケア連合学会で、私が“Common Disease”の復習をするというワークショップを、学会のセミナーとして担当したところ、それを編集部の方が聴いていて「内容を書籍化しませんか?」という話をいただきました。

そして監修を葛西教授にお願いし、項目はどのように立てようか、どなたに執筆をお願いしようかというところから相談に乗っていただき、編集を進めていきました。

各項目を担当されている医師のみなさまが、少し特徴的ですね。

そうですね、今回の内容については、家庭医、総合診療医の視点で書いて欲しかったのです。それぞれの疾患の専門家が書いている書籍は世の中にたくさんありますが、実際に現場で診療を行っている医師が、診療ガイドラインをどのように参考にしているのか、どこが役立って何が足りないのか、ということを本書に盛り込みたいと考えました。

その結果、私と同世代くらいで、医療の現場において活躍されている医師の方々に、疾患ごとに執筆をお願いすることになったのです。

取り上げられている30の疾患はどのような基準で選んだのですか?

私たちが出会いやすいもので、かつ日本で診療ガイドラインが既に作られているものです。

執筆を依頼するときには、誰が何を得意としているといったことは考えずに、実際にこれらの疾患は家庭医や総合診療医をしていると出会うものばかりですから、信頼できる各先生方にこちらから疾患を伝えてお願いしました。

改めてお伺いしますが、診療ガイドラインとはどういうもので、いつ頃からできたものですか?

診療ガイドラインは、ここ20年くらいで出てきたもので、ある疾患に関する一般的、標準的な診断治療方法をまとめたものです。診療ガイドラインがなかった頃はそれぞれの医師が、各々の経験や知識に基づいて治療していたものを、研究などの根拠に基づいて医療を提供しようという流れでできてきたものです。

診療ガイドラインが揃ってきた結果、医師の間での治療のバラつきは少なくなってきていると思います。しかし、これはあくまでも研究や治験のうえでの情報のまとめであって、それをどう使うか、現場にどう活かしていくのか、ということはそれぞれの現場で考える必要があります。

この診療ガイドラインを越えたところにある何かを、我々は日々、診療として行っているので、それを執筆者の医師に書いていただくというのが本書の狙いです。

本書はまず、総論として診療ガイドラインの成り立ちや歴史、使い方について触れられていますが、その理由は何ですか?

実は、診療ガイドラインは玉石混交なんです。その疾患の専門家の方々の意見を書き並べているものから、世界標準のガイドラインの作り方に則っているものまでさまざまなものがあります。

それをどうやって見分けて、現場でどう使っていくかを、東京北医療センターの南郷栄秀先生に、総論のひとつとして書いていただきました。

診療ガイドラインには、例えば厚生労働省がまとめて、この疾患にはこのガイドラインを推奨、みたいなものはないのですね。

ないんです…。それぞれの疾患の学会などが作って公表しているものが多いので、それぞれの学会の方針によって作り方が違うのが実情です。

疾患別の項目に進むと、診療ガイドラインの概要が説明されていますね。

まずは最新の診療ガイドライン「ヒトとなり」として中身を抜粋して、どんなことが書かれているかの概略を抜き出しています。

そして診療ガイドラインの「肝のキモ」で、我々が診療を行ううえで重要だと思われるところを、3つ程度にポイントを絞って書いています。

次に、本書の特徴でもある診療ガイドラインの「むこう側」について教えてください。

医療現場での診療は、診療ガイドラインの通りにやればいいというものではありません。

例えば、記載されている推奨検査がたくさんあったとして、どこまで実際にやるのか、あるいはどれくらいの間隔で患者さんに来院してもらうか、また最近の研究による知見ではこんなことが言われているとか、そういうところを書いてもらっています。

疾患別の最後には、「ここらで実践してみよう」というコーナーで、実際に執筆された先生方が診療しているようなセッティングで、その疾患の患者さんが来たら、患者さんの個別性に合わせてどんなことを考えて、どんなことをやって対応するのか、を記しています。

本書を、どういう方に読んでもらいたいですか?

必要に迫られ、いろんな疾患に対応せざるを得ないという方にとって、非常に意義のある本だと思います。これらの疾患の診療ガイドラインをすべて読むのはすごく大変なので、要点だけでもざっとつかむことに役立てていただければ嬉しいです。

診療ガイドラインをまとめた本は他にもあります。一方で本書は我々家庭医や総合診療医という視点を加えてやってみた、という挑戦的な企画ではあるんですが、「今までこういうタイプの本はなかった、参考になった」というお褒めの声もいただいています。

最後に、この記事を見た方に、編集者としてメッセージをお願いします。

本書は診療に役立つ本ということだけではなく、いま若い家庭医や総合診療医がどんなことを考え、どんな視点やスタンスで日々の診療を行っているのかを知っていただける内容になっています。

家庭医や総合診療医だけではなく、私たちがたくさんの疾患を扱うなかで、この疾患に対してはこういうことを考えている、ということを知っていただくために、他の分野の先生方にもぜひ読んでいただきたい一冊です。

取材対象者:菅家 智史 様
取材場所:公立大学法人 福島県立医科大学
取材日時:2016年11月18日

紹介書籍:
診療ガイドラインが教えてくれないこともある
監修:葛西 龍樹
編集:菅家 智史
発行所:南山堂
発行日:2016年5月1日

編者プロフィール菅家 智史(かんけ さとし)公立大学法人 福島県立医科大学 医学部 講師 地域・家庭医療学講座
日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医・指導医
医学博士
福島県会津若松市生まれ。2004年に福島県立医科大学医学部を卒業し、札幌市の勤医協中央病院にて初期研修。同院の総合診療部にて総合内科研修1年。その後福島県立医科大学の地域・家庭医療学講座へ。喜多方市の地域・家庭医療センターでも診療・教育に従事。最近の趣味は一斗缶を利用した自作のスモーカーで燻製づくり。なかなかの出来栄え。

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