医学書著者インタビュー『シーン別神経診察―こんなときに診る・使う 第2版』

〔Vol.05〕医学書著者インタビュー 『シーン別神経診察―こんなときに診る・使う 第2版』 塩尻 俊明 ~「真面目に、実直に、丁寧に」~

今回紹介する書籍は『シーン別 神経診察 こんなときに診る・使う 第2版』です。

著者は総合病院国保旭中央病院の副院長、塩尻俊明さん。関東地方でトップクラスの病床数を誇り、地域医療の核となる病院で総合診療内科部長を務める傍ら、臨床教育センター長として多くの研修医たちの指導にもあたっています。

もともと専門であった神経内科の領域から総合診療へ、また研修医の指導的立場へと移っていった経緯や思いを、塩尻さんの著書を通して伺いました。

経歴と専門領域を簡単にお聞かせください。

問診と身体診察で病気の診断に迫れるという意味で、学生時代から神経内科に非常に興味がありました。1989年に奈良県立医科大学を卒業し、その後研修を経て、東京の大学病院に所属し経験を積んでいたところ、1997年に神経内科医として当院に派遣されました。

そこで最初に所属した病棟は混合病棟で、もともと私の専門であった神経内科以外にも膠原病(こうげんびょう)、糖尿病、内分泌代謝の疾患、血液疾患や年配の方の肺炎まで、さまざまな症状の患者さんがいました。

加えて、派遣されてから研修医の指導をすることにもなり、一緒にこれらの患者さんを診なければいけない、そのためには自分の範囲をどんどん幅広くしていかなくてはならない、と考えていました。

いきなり広い領域を診ることになって、大変ではありませんでしたか?

最初は、あれ? そんなことに!? と思いました(笑)。でももともと総合診療的な領域に興味があったこと、そしてその病棟の担当部長の吉田象二(よしだ しょうじ)さん(現・理事長)に師事できたことが力になりましたね。

吉田さんはアレルギー・膠原病が専門なのに、何でも診られたのです。神経内科医よりも神経を診ることができるのではないかと思うくらいで、すごく美しい臨床でした。

必要に迫られて広い領域を診ることにはなりましたが、ある意味研修医のおかげで、研修医を指導するという立場から総合診療にシフトできたといえるでしょう。

非常に研修・教育という面に力を入れている病院だという印象がありますが、その中で先生は具体的にどういった活動をされていますか?

現在、研修医は2学年で約60名います。私は総合診療内科で研修医たちのOJTトレーニング、臨床教育センターでは内科領域の研修プログラムの管理運営に携わっています。また毎月、東京で学生さん向けの臨床推論などベーシックな内容のカンファレンスも行っています。

活動の傍ら、数冊の著書を出されていますが、出版のきっかけや経緯を教えていただけますか?

今回の著書『シーン別神経診察―こんなときに診る・使う』は神経診察に関わるものですが、最初に出版したものは『手軽にとれる神経所見―カラーイラスト図解』(2011年刊、文光堂)でした。企画したきっかけは、神経診察が非常に敷居の高いものと思われているな、と思ったからです。

「神経診察は、専門の先生がさまざまな道具を駆使し、時間をかけて行わないと診断がとれない……」というイメージを払拭して、診察にこんなに役に立つということを伝えたかったのです。

執筆にあたって、意識している点はありますか?

物事を易しく、広く、イラストを使って楽しさを伝えることです。

若い医師に「神経診察はそんなに難しくない」「ツボをおさえればこんなに簡単にできる」ということを、伝道師のような立場で広めることを意識していました。

『シーン別神経診察―こんなときに診る・使う』は、2年前に第1版を出されていますね。

2014年に出した第1版は、どちらかというとクリニックを開いている開業医などに向けて、外来の主訴に焦点を当てて書いたものです。

患者さんに「どうぞおかけください」と言って何か気づく印象があるのか、「頭が痛いです」といった主訴に対してどう考え始めるのか、ということから説明を始めています。

外来で診察することを基本として、最初の印象“First Impression”がどうであるかで、どんな病気かということを推論し、短い診療時間のなかで神経診察のポイントを押さえるための解説をしています。

第1版の中で語られている、神経診察の進め方も特徴的ですね。

短いクリニックの診療時間では、神経診察を全部やらなくていいだろうと考えています。

神経診察に用いるさまざまな道津を用いずに、ツールレスで身近にあるものだけで診察を進めていくのが特徴です。

第2版では、何が変わったのですか?

2年前に第1版を出版してから、めまいに関する新しい論文がいくつか出されました。めまいは脳卒中と耳鼻科、どちらの領域なのかでずいぶん治療が違ってしまいます。しかしどちらの場合も、似たような症状で来院される患者さんが多いのです。

その区別において、MRIなどよりも感度が良い診察方法があるといった論文を紹介しています。加えて情報をアップデートし、さらに絵を増やして分かりやすく改定しています。

また、脳梗塞を新しい章として付け加えました。これもすごく多い病気ですが、脳のどこに異常があるかが、簡単なツールレスに近い診断で分かるというものです。

本書執筆にあたって、苦労された点はありましたか?

“First Impression”をまとめるのが大変でした。病気が分かれば後は型通りの診療を書けばいいのですが、実際に現場でどのような“First Impression”を感じるのか、研修医たちに聞いたり、アンケートをとったりして、言葉を選んで書きました。

どういうふうに表現したら現場でもっとも役に立つのか、ということに重点を置きたかったのです。

本書を、どのような方に読んでいただきたいですか?

本書は、読者の方に神経診察が親しみやすくなってもらえればという狙いから書いたものです。みなさんが診られるようになれば、医療の質の底上げ、向上にもつながりますので、分からないからやらないのではなくて、簡単にできるからやりましょう、というアプローチをしています。

病院勤務の医師だけではなくて、クリニックでひとり奮戦しているような方や看護師さんにもぜひ読んでもらいたいです。

出版後の反響はいかがですか?

どちらかというと、神経内科の医師よりも、総合診療の医師や学生さんに評価をいただいています。特に、第1章の「神経診察のABC」で書いたように、時間がかかると思われている神経診察が5分以内でとれる、という部分がためになると言われますね。

最後に、医師として、また指導者として大事にしていることをお聞かせください。

研修医の教育にあたって、次の2点を強調しています。

まずは「真面目に、実直に、丁寧に」ということです。「石橋を叩いて渡る」とはよく言いますが、私は「石橋を拭いて渡る」と言っています。

もちろん効率も大事ですが、若い研修医は時間がかかったとしても、地道に物事を進めることが一番の近道になると考えています。

そして「患者さんが、病気や障がいを持って生きなければいけない生活と社会を考えて、医療を展開する」ということです。

神経内科だと、どうしても機能障がいや麻痺が残る患者さんがいますが、実は内臓の病気よりも後の生活が大変な方が多いのです。その患者さんが生きていく社会やコミュニティを意識して医療に向かうことが大事だという考えです。

これらは私の座右の銘でもあり、私自身も、医療に地道に取り組んでいきたいと思います。

取材対象者:塩尻 俊明 様
取材場所:地方独立行政法人 総合病院 国保旭中央病院
取材日時:2016年11月16日

紹介書籍:
シーン別神経診察
―こんなときに診る・使う 第2版
著者:塩尻 俊明
発行所:日本医事新報社
発行日:2016年9月15日第2版

著者プロフィール塩尻 俊明(しおじり としあき)地方独立行政法人 総合病院 国保旭中央病院 理事 副院長、総合診療内科 部長、教育研修 部長、臨床教育センター長
茨城県生まれ。1989年に奈良県立医科大学を卒業し、武蔵野赤十字病院、NTT東日本病院、大学病院で研修。1997年に総合病院国保旭中央病院に入職。2007年から教育研修部長、2010年から臨床教育センター長、総合診療内科部長。2016年より副院長を務める。趣味は読書。時間があれば美味しいものを食べに行きたいけれど、休診日もカンファレンスなどで忙しい日々。

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