医学書著者インタビュー「ただいま留学準備中 ―医師が知るべき留学へのコンパス」

〔Vol.02〕医学書著者インタビュー 「ただいま留学準備中 ―医師が知るべき留学へのコンパス」 大谷 隼一 ~臨床現場のクエスチョンを大切にする脊椎外科医~

今回紹介する書籍は『ただいま留学準備中』です。

著者の大谷隼一さんは、所属医局に留学経験を持つ先生がいなかったことから、留学準備の段階から実際に留学するまで、とても苦労したと言います。その経験をもとに『ただいま留学準備中』が執筆されました。

留学を考える医師に向けたハウツー本ではありますが、留学を決めた医師から、漠然と「留学ってできるのかな……」と考えている医師まで、気軽に楽しみながら読める本です。

今回は大谷さんに、本書を執筆したきっかけや、医師の留学への思いについてお伺いしました。

『ただいま留学準備中』の概要を教えてください。

医師の留学に必要なことを一冊にまとめたハウツー本です。医療系の本と聞くと難しいものだというイメージがありますが、この本はくだけた文章で読みやすく仕上げてあります。

医師の留学は、企業の会社員が海外支社へ赴任する場合とは大きく異なり、留学のための書類の作成・提出から、海外の留学先や住居などの選定、さらには生活費の確保も含めすべてを自分自身で行わなければなりません。

しかし留学までの期間も留学中の期間も有限です。そのため、留学にまつわるセットアップはできるだけ短期間で済ませ、留学後の研究や語学力の向上にあてることを目指した一冊となっています。

本書を出版しようと思った動機を教えてください。

私が留学しようと考えて事前の情報収集をしていたとき、所属している医局などの組織によって留学に対するバックグラウンドが異なることに気づきました。前任者が数多く留学していたりすると暗黙知のようなものが集積されており、そのような医局に所属していると留学も比較的スムーズに進められるようでした。

ただ、私が所属していた医局には私のような留学形式での留学経験者が少なく、実際に留学するまで苦労の連続だったんです。もちろん、ネットで検索して医師の留学体験記をつづったブログなども読みあさりました。それらの留学体験記を読んでいると、楽しむことはできましたが、自分が本当に欲しい情報へピンポイントにたどり着くことがなかなかできなかったのです。また、目当ての情報が見つかっても古いものだったということもありました。

そこで今後も私と同じように、「留学を目指しながら苦労するであろう医師がたくさん出てくるのではないか?」という思いに至り、留学に関する本を書こうと考えたわけです。

本書の執筆期間はどのくらいでしょうか。

留学前に出版社へ企画書を提出して、その企画が通ったんです。そこで留学前の準備に苦労しているときから、まさに同時進行で執筆していきました。留学してからもメールのやりとりで続けており、トータルの執筆期間は半年程度でしょうか。留学前、そして留学中の熱量を保っている状態で書き上げたので、留学に対する臨場感も盛り込むことができたと思っています。

医師が留学する際、とくに気をつけておくべきことはありますか。

やはり渡航先の国(私の場合はアメリカでした)や留学先の施設に提出する書類ですね。提出しなければならない書類は膨大にあり、事務手続きの問題で突き返されてしまうこともままあります。これらの書類に不備があって留学時期がずれてしまうと、留学期間が短くなってしまいますので、もっとも気をつけたいことだと思います。

『ただいま留学準備中』の前半部分でも、留学に必要なペーパーワーク(書類作成)については詳しく解説しています。書類提出に必要となる最低限のメール文例集や言い回し例なども掲載していますので、ぜひ参考にしてください。

留学期間中の生活費はどうされていましたか。

医師の留学を巡る待遇は手厚いと決していえません。たいていの医師は留学期間中、無給です。私の場合も無給のビジティングスカラー(客員研究員)として、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の大学病院に勤務していました。そのため、留学期間中の生活費は渡航前に工面して調達したものです。

しかし研究テーマが認められれば数百万円程度の助成金が獲得できる「研究助成金」を提供している財団も存在しますので、その申請を検討してみるのもいいでしょう。この助成金のことについても、『ただいま留学準備中』の前半部分に記載していますのでチェックしてみてください。

本書はどのような方に読んでほしいですか。

私自身の考えですが、医師になるまではともかく、医師になってからは「自身でキャリアを形成していく」という考え方を持つ方が少ないように思います。仕事に追われて毎日が終わっていくという生活を送っている医師も多いため、キャリアプランの選択肢のひとつとして「留学」を考えてもいいのかなと思います。具体的に留学のプランができていなくとも、『ただいま留学準備中』は正味で95ページ、一晩で読み終わってしまうほどの分量ですので、気軽に手に取って読んでいただきたいと思います。

最後に、『ただいま留学準備中』を手に取った医師に対してメッセージをお願いします。

私は、「時間的・金銭的に可能なら一度は留学をしたほうが絶対にいい!」という考えを持っています。グローバル化が進んでいる今は、日本国内だけに視野を狭めて医師の仕事をしているのは勿体ないです。日本と海外とでは、医療保険や医療システムなどが大きく異なっているので、医師と患者さんとの関係を見るだけでも留学した意味はあると思っています。また、アメリカを例に言うと、医療業界にお金が集まる仕組みが整っていて、先進的な研究や薬、テクノロジーが生み出されています。そのことを目の当たりにすることで、医師の意識改革になり、日本の医療業界・産業の活性化につながるのではないでしょうか。

とはいえ、日本の医療界にはさまざまな障壁があって留学しづらい現状もあります。それが留学に興味はあるけれども「面倒くさい」「留学の仕方がわからない」といったことにつながっています。そこで、留学に対する障壁を少しでも下げる一助として、『ただいま留学準備中』を役立ててもらえれば幸いです。

取材対象者:大谷 隼一様
取材場所:JCHO東京新宿メディカルセンター
取材日時:2016年9月13日

紹介書籍:
「ただいま留学準備中
 ―医師が知るべき留学へのコンパス」
著者:大谷 隼一
監修:田中 栄
英文監修:Larry Frumson
出版社:南江堂
発行日:2016年4月20日第1刷発行

著者プロフィール大谷 隼一(おおや じゅんいち)独立行政法人 地域医療機能推進機構 JCHO東京新宿メディカルセンター 脊椎脊髄外科・医長
東京都生まれ。2005年、名古屋市立大学医学部卒業。2008年に東京大学医学部整形外科・脊椎外科学教室に入局し、関連病院にて整形外科医としての研鑽を積む。2013年、東京大学医学部附属病院勤務中に留学の機会を得て、準備期間の後に2015年にはカリフォルニア大学サンフランシスコ校への留学を実現。帰国後、2016年からは独立行政法人 地域医療機能推進機構 JCHO東京新宿メディカルセンターに勤務し、脊椎脊髄外科の医長に就任。現在に至る。

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