医学書著者インタビュー「医学生からの診断推論 今日もホームランかっとばそうぜ」

〔Vol.01〕医学書著者インタビュー 医学生からの診断推論 「今日もホームランかっとばそうぜ」 山中 克郎 ~サイエンスとアートを大切にするドクター~

今回紹介する書籍は「医学生からの診断推論 今日もホームランかっとばそうぜ」です。

著者の山中克郎さんは、藤田保健衛生大学救急総合内科で医学生と研修医の教育に携わった後、現在は長野県茅野市にある諏訪中央病院で地域医療、医学生・研修医教育を行っています。

本書は2016年4月に刊行され、医学生や研修医、また医学関係者から好評を得ています。一風変わったタイトルを冠していますが、そこに込められた思いとは何なのでしょうか?

本書を執筆するきっかけを教えてください。

出版社から、医学生向けの指南本が書けないかという話はずっといただいていました。なかなかきっかけがつかめなかったのですが、今、たまたま私の娘が医学部に通っているので、何か娘に対するメッセージ的な意味合いも含めて、本が書ければ素敵だなと考えて、執筆を引き受けました。直接メッセージを伝えるのは照れ臭いし、言っても聞いてくれないでしょうから(笑)

現在の医学生に、このような本が必要だと思われたのですか?

診断推論の本はいくつか出ています。テレビ番組で「総合診療医ドクターG」が人気になって、総合診療が認知されてきたからだと思いますが、医学生に向けた基本的なもの、診察について手技から見せるようなものは、日本にはほとんどないと思います。これは私がやらなければ、と思いました。

購入者特典としてWeb動画を見ることができるのですね。

はい。本書の購入者は出版社のホームページから、動画で身体診察が学べるようになっています。たっぷり65分のWeb動画です。医師は実のところ、他の人の身体所見を見る機会が、ありそうでないのです。医学生ならなおさらで、臨床経験の少ない人なら百聞は一見に如かず、ぜひ見てもらおうと。これは、出版を決めた時の条件のひとつでもありました。

医学生のみなさんの評判はいかがですか?

全国いろいろな大学にある診断推論の勉強会の学生リーダーにお送りして感想を聞くと「こういう本、待ってました!」「この手の本がなかったのでよかった、嬉しいです!」と好評の声をいただけました。

最初にタイトルを見て、びっくりしました。医学書なのに……と。

出版社には最初「絶対にダメ」と言われたのですが、書いている途中に思い付いて、どうしてもタイトルに「ホームランかっとばそうぜ」と入れたくて。

タイトルにはどのような意味が込められているのですか?

私の世代は、長嶋茂雄さんに憧れを持った世代です。長嶋さんはホームランも打つけど、三振する時は、ぐるっと身体をひねってヘルメットもどこかに飛んでいくような派手な姿になる。でもそれはものすごくカッコいいのです。

診断推論においては、間違えるといけないという意識が働いて、ついつい安全なところを目指して、多くの時間をかけて診断をしがちです。私はそれではダメだと考えていて、ある程度、病歴を確認して身体所見をしたところで、この可能性が高いと思ったら「それだ!」という感じで思い切って推論すべきだと思うのです。それが、「ホームランかっとばそうぜ」というタイトルに込めた思いです。

本書の中で「攻める問診」という表現がありますが、具体的にご説明いただいてもよろしいですか?

私は、研修医に「攻める問診」が必要だとよく言います。これは、ただ患者さんの話をそのまま聞いていただけでは何も診断できないから、自分で診断を考えて、本当にその診断が正しいのかどうかを確認するために積極的な問診をするということです。

大学では、患者さんの言うことをよく聞きなさい、と教えられます。確かにその通りですが、それだけでは間違っている!と僕は学生によく言います。患者さんの話は、最初の3分間、よく聞きましょう。その3分の間に頭を巡らせて、この人の病気は何だろうと1つか2つの病気を想定して、次にはその病気だったらこういう症状があるに違いない、こういう症状はないだろうかと、医師の方から聞きたいことを聞くのです。

僕がちょっと変わっているのかもしれませんが、実際のところ、臨床が本当にできる医師が、患者さんの話を全部聞いているというのを見たことはありません。

「攻める問診」に行き着いたきっかけはどんなものだったのですか?

総合医療をやるにあたり、どうすれば診断が上手にできるか、ということは常に考えていました。

ある時救急室で、研修医が頭痛を持つ患者さんの診察を始めました。当時私は指導医だったので、どのように診察を進めるのか、ちょっと物陰に隠れて問診の内容を聞いていたのです。ほどなくして「ああ、これは片頭痛だな」と私は思いました。でもその研修医は、患者さんの話を聞いているだけで、なかなか診断をつけなかったのです。

片頭痛には、光過敏、吐き気、日常生活の妨げといった非常に特徴的な症状があります。それを聞けばすぐに診断がつくのに!と私は柱の陰でモヤモヤとしていました。

そして帰宅してから、どうすればこのことを医学生や研修医に教えられるのだろう、問診ってすごく大事だ、問診で診断の8割が分かる……、など悶々と考えていたら、ひらめきました!「そうだ、攻めればいいんだ!」と。

患者さんに攻めていく、とは具体的にはどういうことですか?

患者さんの満足度を上げるために、3分間は話を聞きます。3分間聞くというのは、意外と長いです。しかし、3分以上話を聞いても、診断には全然役に立ちません。同じ話が繰り返されたり、正しい診断の邪魔になってしまうな目くらましの情報がたくさん入ってきます。ですから、その後は医者から必要なことをどんどん質問をしていくのです。

もちろん、聞き方にもテクニックがあり「どうして昨日受診しなかったのですか?」などと「責めて」はいけません。患者の訴えに共感を示し、良好な医師と患者の関係性を築いてから、「攻めて」いくのです。

本書には「攻める問診」に役立つ実践的な診察法から診断推論の方法まで、多くの事例が掲載されていますね。最後に、このページをご覧になった医師、医療関係者に対するメッセージをお願いします。

私は、医学・医療には「サイエンスとアート」が必要だと思っています。

サイエンスとは、外科医ならば的確に手術ができる技術、内科医なら病気に対する知識と診断の巧みさです。でも医学はそれだけでは不十分で、日野原重明先生もよく仰っていることですが、アートの部分も必要です。

アートとは例えば、熱を出している子どものベッドの横にお母さんが寄り添って「〇〇ちゃん、お母さんはずっとここにいるから、安心して寝てね。朝まで手を握っているよ」という慈しみの心です。

医学生や研修医、若い医師には、この「サイエンスとアート」が両立した、バランスの取れたドクターになって欲しい、と伝えたいですね。

取材対象者:山中 克郎 様
取材場所:諏訪中央病院
取材日時:2016年9月8日

紹介書籍:
「医学生からの診断推論
今日もホームランかっとばそうぜ」
著者:山中 克郎
発行書:羊土社
発行日:2016年4月15日第1刷発行

著者プロフィール山中 克郎(やまなか かつお)諏訪中央病院 内科 院長補佐
1985年名古屋大学医学部卒業。名古屋掖済会病院にて初期研修。1994年名古屋大学医学部大学院卒業。バージニア・メイソン研究所(米国シアトル)での研究、名城病院内科、国立名古屋病院(現 名古屋医療センター)血液内科勤務を経て、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)一般内科に留学。2006年から2014年まで藤田保健衛生大学救急総合内科で医学生・研修医教育を行う。2014年12月から諏訪中央病院内科にて院長補佐。

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